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事務方クエスト(10)~能あるポンコツはツメ隠す

「確認(チェック)確認(チェック)確認(チェック)!」

クリスは楽しそうに確認魔法をかけている。
書類のいくつかは、赤い光を放っていた。
赤い光の書類だけ、脇に仕分けられていく。

「賢者様、結局その魔法使われるんですね。
 『効率が悪い』って話、したじゃないですか?」

モリノが不思議そうに問いかけてくる。
クリスなら、普通に処理した方が早いはずなのだ。

「うん、俺もそう思ってたんだけどね。
 この魔法、自分に合ってるって気付いたんだ」

「賢者様に合ってる・・・?」

「俺さ『書類にミスがあるかどうか』
 チェックするの苦手なんだよね。
 基本、合ってるだろって思っちゃうんだ。
 でも・・・」

そう言ってクリスはまた、
手元の書類に『確認』魔法をかける。
書類は『ミスあり』の赤い光を放つ。

「ミスがあるって確定した書類。
 その原因を探すのは得意なんだよね。
 だから、この魔法で先に書類の仕訳をするんだ」

そう聞いても、モリノはまだ少し腑に落ちない。
けれど確かに、この人にはそういうとこがある。

自分やアイラが何時間かけても、
数字が合わなくて悩んでいる書類や資料を、
一目見ただけで解決したりするのだ。

反面、クリスが見てOKを出した書類に、
後から凡ミスが見つかることも多い。

(・・・賢者様にあった魔法だったってこと?
 ムダだと思う物にも『理由』はある、か。)

「そう言えばモリノさん、
 今日はアイラさんはどうしたの?
 姿が見えないけど」

「アイラさんは今日有休ですよ。
 料理教室でレベルアップして、
 仕事に活かすって言ってましたよ」

クリスは魔法の手を止めて、少し怪訝な顔になる。

「・・・料理の腕磨くのはいいと思うけど。
 うちの仕事に関係あるかなぁ?」

「アイラさん、結構手先器用なんですよ。
 得意分野が増えるのは、
 いいことじゃないですか?」

モリノにそう言われ、クリスは妙に納得する。
実際、何が役に立つかなんて分からない。

ムダにしか思えない魔法、使えないと思っていた人。
その全てに、存在している理由があるはずなのだ。
その理由に、自分達が気付いてないだけで・・・


「えーと『魔法使いのアイラさん』
 
料理の腕を上げて事務仕事に活かしたい・・
 ですか?」

「はいっ! 最近入った後輩が優秀で、
 私の存在意義が薄れているんですっ」

じゃあ何で「料理教室」に来たのだろう?
行くべきところはココではないはずだ。
しかし、事務方を探りたいハルミにとっては、
自ら鍋に飛び込んで来た獲物も同然である。

「事務仕事って、協会の事務方ですよね。
 何人くらいでやってるんですか?」

だが、彼女が賢者の刺客である可能性。
それも捨てきれない。
ことは慎重に進めなければならない。

「私含めて3人だけですっ!
 それなのに賢者様ってば、
 モリノさんばっかり頼るんです。
 ここらで私の『ありがたみ』を、
 思い知らせてあげますのですっ!」

若干、何を言ってるか分からない。
だが、あっさりと【賢者】の名前も出してきた。
これで話がふりやすい。

「それで何の料理を身に付けて、
 賢者様に認められたいんですか?」

「それはズバリっ!
 『お好み焼き』を教えてください!」

「お、お好み焼きっ!?
 うちのメニューにはないですけど」

そんな定番焼き物をこんなとこに習いに来るな。
心中でそう思うが、こちらを油断させるための、
彼女の演技なのかもしれない。

「えぇぇーー!
 だって賢者様に好きな食べ物聞いたら、
 『お好み焼き』って言うんですぅ。
 賢者様そろそろLV50になりそうなんで、
 その時、お祝いしたいんですよぉ」

「お、お祝いに、お好み焼き・・・ですか。
 まぁ、本人の好物なら確かに」

(何この子?ちょっとズレてそうだけど、
 普通に『いい子』っぽいんだけど)

この子が見た目通りの子なのか、
本性を隠したキレ者なのか?
どちらにせよ、もう少し懐に入る必要がある。

「分かりましたっ!
 うちのメニューにはないですけど、
 私が独自に伝授しましょう!」

こうしてハルミによる臨時の、
『お好み焼き教室』が幕を開けた。

「アイラ流キャベツの千切り!」

「包丁の扱いはお上手ですね・・・」

「アイラ、この裏返すのが苦手ですぅ」

「ビビらない、思い切りが大切よ!」

宙を舞うキャベツと、焦げたソースの匂い。
失敗作を数十枚教室中に飛び散らせて、
アイラが自分1人で、
まともに焼き上げられるようになる頃には、
外はすっかり真夜中になっていた。

    ・
    ・
    ・

「だからさ、アイラさんも、
 相手の好物まで考える必要ないって!
 ましてその人、上司でしょ?」

「そうなんですけどぉ。
 『男をつかむなら、まず胃袋をつかめ!』って、
 おばあちゃんが教えてくれたんですぅ」

「それはちょっと、
 今回はケースが違う気がする・・・」

手先は器用なのに、おっちょこちょい。
そんなアイラへの指導は熱を帯び、
ハルミはすっかり、アイラを気に入っていた。

「大体男なんて、オムライスでも作ってやれば、
 それだけで感動するんだからっ。
 モテない男なら、なおのことよ!」

「じゃ、次はオムライスを教えて下さい!
 ふんわりなヤツ、作りたいですっ」

「ふっふっふ、オムライスは私の十八番よ。
 教室のメニューでもあるし、任せといてっ!」

来週の日程を確認してから、アイラを見送った。
ふぅ、お好み焼きの焼き方だけで、
随分熱くなっちゃった。
私、やっぱこの仕事好きだわー

アイラの姿が見えなくなるまで手を振っていた。
今日はいい仕事ができた。
占い師』の時にはこんな充実感は、
中々味わえなかった・・・


「・・・しまったぁ!
 賢者のこと探るの忘れてたぁぁぁ!!」


魔王リカの顔が頭にチラつく。
まぁ、アイラは来週もまた来るだろうから、
その時でもいいかなぁ・・・

いや、なんかもう。
彼女を探るのも嫌だなぁ。

魔王様のことはすっかり忘れて、
調理師として生きていきたい。
やっぱり、それが自分の本音のようだ。

エプロンを外すと同時に、
魔族としての現実がのしかかってくる。
相手が魔王で、私が魔族である以上、
「逆らう」ことなどありえない。

「・・・来週、頑張ろう」

そう自分に言い聞かせ、
ハルミは家路に向かう。
その足取りは、心なしか重かった。

    ・
    ・
    ・

お城から、事務方がある町に続く街道。
【女】はその道を歩きながら、
【今日のこと】について考えていた。

(探りのひとつくらい入れてくるって、
 思ってたんですけどねぇ~
 料理に夢中になって忘れるとか、
 あのハルミって子も、案外ですねぇ~)

夜空を見上げて、大きく息をつく。
ことは、私の計画通りには進んではいない。
まぁ、最悪の事態でもないから、
焦ることはないんだけれど。

「少しは私も、動かないとダメでしょうかぁ?
 めんどくさいんだけどなぁ~♪」

誰に言うでもなく、
【女】は夜空に向かってつぶやいた。
これ以上、何もしないで済むのが一番いい。
だけど、それではことが動きそうもない。

【女】はもう1回、大きく息をついた。
本当にめんどくさいのだ。
ただそれでも家路に向かう足取りは、
ハルミとは違い、弾むように軽かった。


【事務方クエスト・第1部】
 最終話まで、あと2話!

【第11話予告】

魔王探しのきっかけがつかめないハルカ。
クリスの動きに怯えるリカ。
進展のない状態が続く中、アイラが、
「クリスのLV50到達パーティー」を提案。
招待者にはハルカやハルミ、
リカの名前も入ってきて・・・

第11話に続く

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くりす 日々の色々を面白おかしく書く事で、日常を楽しく色付けできればと思ってます。書く事はもとより好きなので「毎日更新」頑張ります。よろしければ応援お願いします!