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なぜ男だけ「チヤホヤされたい」と言ってはいけないのか


はじめに


男が「褒めてくれる女性が好きだ」と言うのは、ごく普通に流通する言葉だ。雑誌の恋愛特集にも婚活相談所のコラムにも出てくる。誰も咎めない。

ところが、「褒められたがっている男」は、その瞬間に減点される

同じ欲求である。褒められたい、認められたい、必要とされたい。それを「褒めてくれる人が好き」と過去形・条件形で言えば愛嬌になり、「褒めてほしい」と現在形で言えば醜くなる。表明の仕方ひとつで符号が反転する。

この非対称は、男の側からはしばしば理不尽な呪いに見える。女は褒められることを望んでいいのに、なぜ男は望んではいけないのか。承認の総量が少ないうえに、欲しがることまで禁じられている。二重の罰ではないか、と。

だが、これは呪いではない。承認という財の性質である。そして問題の核心は、その性質そのものではなく、その性質が男女に等しく適用されていないことのほうにある。

順に解いていく。


第1章 承認は、自分で調達できない財である

求めた瞬間に減る

臨床心理学に「過剰安心希求(excessive reassurance seeking, ERS)」という概念がある。定義はこうだ——すでに保証が与えられたかどうかに関わらず、自分が愛され価値のある存在だという保証を、過剰かつ執拗に求め続ける安定的な傾向。

この概念が重要なのは、求める行為そのものが供給を減らすことが実証されている点にある。

  • 38研究・被験者6,973名を対象としたメタ分析で、ERSと抑うつの効果量はr=.32。16研究のメタ分析で、ERSと他者からの拒絶の効果量はr=.14(Starr & Davila, 2008)

  • 実験室では、パートナーが安心を求めていると認識させられた参加者は、苛立ちが増大し、相手への親密感が低下した

  • そして——ここが本稿にとって重要だ——抑うつ状態の男性は、抑うつ状態の女性よりも同居人から拒絶されやすいという報告がある(Joiner, 1996)

正直に効果量を見ておく。r=.14は決して大きくない。「求めれば即座に嫌われる」という話ではない。じわじわと、静かに、供給が細っていく水準の話である。だが恋愛においては、この静かな減り方こそが致命的だ。一度の失点ではなく、原因のわからない持続的な不調として現れるからである。

なぜ「求めると減る」のか

理由は単純である。承認とは、他者が自発的に与えたときにのみ価値が発生する財だからだ。

自分で自分を褒めても価値は生じない。金で買っても——後述するが——価値は目減りする。他人に「褒めてくれ」と要求して得られた賞賛は、要求した時点で他人の自発性が失われているので、財としてはすでに壊れている。

つまり承認は、自己調達が構造的に不可能な財である。しかも「調達しようとしている」という事実が相手に伝わった時点で、その事実自体が新しい情報になる。すなわち——この人には他に供給源がない、という情報だ。

需要を求める行為が、需要の不在を証明してしまう。だから求めると減る。矛盾ではない。定義から出てくる帰結である。

そして男は、その細い入口の前に立たされている

ここに供給側の非対称が重なる。

内閣官房の「人々のつながりに関する基礎調査」(令和5年)によれば、単身者のうち孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた割合は、男性11.2%、女性7.4%。全体では男性5.3%、女性4.2%である。

数字の開き自体は大きくない。ここを誇張すると議論が雑になる。効いてくるのはむしろ次の二つだ。

第一に、「頼れる人はいない」と答える割合は、日本を含む調査4カ国すべてで女性より男性が高い。日本は「頼れる相手」として友人を挙げた割合が14.9%と4カ国中最少でもある。

第二に、相談相手の有無が孤独感を極端に振り分ける。孤独感スコアが最悪水準(10〜12点)の人の割合は、相談相手がいる人で4.3%、いない人で28.8%。6倍以上の開きがある。

そして有識者会議の分析によれば、男性は困った時に頼れる人がいない層が40〜60代で、相談をする相手がいない層が30〜70代で10%を超え、なかでも50代男性が最も厳しい。

まとめるとこうなる。男は、求めれば減る財を、求めずに手に入れなければならない。しかも受動的に降ってくる経路が細い。

これが「男はチヤホヤされにくい」の正体である。総量の問題ではない。調達経路の問題だ。


第2章 需要は、需要によって裏書きされる

他に需要がある男は、需要される

配偶者選択には「コピー(mate-choice copying)」と呼ばれる現象がある。他者がすでに選んだ相手を、より魅力的だと評価する傾向のことだ。

  • 女子大学生123名を対象とした実験で、過去1〜2人の交際相手がいるとされた男性は、交際歴がないとされた男性より望ましいと評価された(Anderson & Surbey)

  • 魅力的な女性パートナーを伴う男性は魅力的と評価され、魅力の低いパートナーを伴う場合は評価が下がった(Waynforth, 2007)

  • 視線追跡実験では、男女とも、魅力的なパートナーと並んで写っている相手への長期関係の関心が高まった(Yorzinski & Platt, 2010)

ここで見落とすべきでないのは、1〜2人が最も高評価だったという点である。数を誇示すれば上がるという話ではない。裏書きは量ではなく質で効く。5人を並べる男は、1人と写っている男に負ける。

この現象を「女の本能」と言ってはいけない

俗説はここで「女は他人の男を欲しがる本能がある」と飛躍する。だが最近の研究はそれを支持していない。

Streetらの実験では、女性は他の女性の評価に影響されて男性の顔をより魅力的と評価したが、手の写真や抽象絵画に対しても同程度に影響された。つまりこれは配偶者選択に特化した適応ではなく、他者の判断に影響される一般的な傾向の一部かもしれない、ということだ。2025年の研究では、この現象に男女差があるという前提自体、直接的な証拠なしに引き継がれてきたと指摘されている。

そこで、より慎重で、より強い定式に置き換える。

人は、情報コストが高い判断ほど、他人の判断を模倣する。そして配偶者選択は、人生で最も情報コストが高い判断のひとつである。

本能の話ではない。合理性の話だ。相手の誠実さ、収入の安定性、長期的な人格——これらは短時間の観察では絶対に確かめられない。確かめられないものを評価するとき、人は「すでに誰かが確かめたらしい」という情報に頼る。

だから「強気だとモテる」は誤読である

ここで、男性向け言説の定番——「女の言うことをいちいち真に受けず、常に強気で自信のある男がモテる」——を検討しておく。

実験結果は、この俗説を素直には支持しない。

  • 女性はドミナンス(威圧や強制によって地位を得るあり方)よりプレステージ(技能や知識を認められ、周囲から自発的に地位を与えられるあり方)を選好する。ドミナンスを独立に操作すると、低ドミナンスのほうが好まれた(Snyder, Kirkpatrick & Barrett, 2008)

  • 優しさは真剣な関係の望ましさで最も顕著な要因であり、身体的魅力はカジュアルな関係で優位になる(Urbaniak & Kilmann, 2003)

  • いわゆるダークトライアドは短期的な関係とのみ相関し、長期的な関係とは相関しない。しかも研究の大半が自己報告に依存しており、成功の過大報告の可能性が指摘されている

つまり求められているのは強気でも支配性でもない。依存的でないことである。そしてこの二つは、日常語では混同されるが、実験では逆方向に分離する。

さらに言えば、プレステージとは定義上「第三者が自発的に与えた評価」である。ここで第1章と第2章が接続する。

男が必要としているのは、目の前の女からのチヤホヤではない。世間からのチヤホヤだ。前者を求めれば減価し、後者を持っていれば裏書きになる。同じ「チヤホヤ」という言葉が、出所によって毒にも資産にもなる。


第3章 だから、男の承認需要は市場に流出する

ここまでで、男が置かれた条件は出揃った。承認は必要である。求めると減る。受動的に降ってくる経路は細い。第三者からの評価は資産になるが、それは一朝一夕には積み上がらない。

では、いま欲しい人間はどうするか。

買う。

日本にはそのための市場が存在する。令和3年経済センサス活動調査によれば、日本標準産業分類766「バー,キャバレー,ナイトクラブ」は、事業所数60,217、従業者数178,975人、売上高6,419億円(2020年。ただしこの年は夜間営業が制度的に壊滅した年であり、平時の規模はこれを大幅に上回る)。

警察庁の統計を見ると、接待飲食等営業の許可数は令和6年末で59,542件。風俗営業全体の許可数が減少を続けるなか、この区分だけが前年より52件増えている。

承認の対面調達市場だけが、縮んでいない。

6万の事業所と18万人の従業者が、男に承認を売って生計を立てている。「男はチヤホヤされない」は、供給がないという意味ではない。供給はある。金を出せば買える。

にもかかわらず、買った男の渇きは埋まらない。それどころか、買ったという事実が新しい恥になる。

理由は第1章から演繹できる。買った承認は、調達経路が完全に可視化された承認だからである。他者の自発性がゼロであることが、領収書によって証明されてしまっている。だから財として壊れている。

ここまでなら、話は「男は愚かにも壊れた財を買っている」で終わる。実際、世間の物語もそこで終わっている。

だが、この記事の本題はここからだ。

同じことを女がやったとき、財は壊れていないことになっている。


第4章 減価スイッチは、男にだけ発火する

同じ取引、反転する語彙

ホストクラブに数百万円を使う女性と、キャバクラに数百万円を使う男性がいる。取引の構造は同じである。疑似的な好意を、時間単位で、現金で買っている。

ここで安易に「女だけが許されている」と書けば、それは事実に反する。「ホス狂い」という嘲笑の語彙は存在するし、社会的な非難は激しい。

だから、正確に分節する必要がある。非難されているものが違うのだ。

  • 男性の場合、取引に参加したこと自体が嘲笑される。金額の多寡はほとんど関係ない。キャバクラに通っていると知られること、それ自体が減点になる

  • 女性の場合、逸脱した程度が病理化される。取引そのものは「推し」「担当」「応援」という非病理的な語彙によって保護されており、破綻したときだけ「狂い」になる

行為そのものを咎められるのか、行為のを咎められるのか。この差は、感覚的な印象論ではない。国家の予算配分として観測できる。

制度が動いた側と、動かなかった側

女性客の被害について、この数年で起きたことを時系列で並べる。

  • 全国の警察に寄せられた悪質ホストクラブに関する相談は、2021年の2,044件から増加を続け、2024年には2,776件

  • 厚生労働省によれば、女性相談支援センターは関連相談を月30件前後受理

  • 2023年11月、消費者庁が「好意の感情を不当に利用した契約」(デート商法)として消費者契約法4条3項6号の適用をホストクラブについて周知

  • 2024年12月、警察庁のもとに設置された「悪質ホストクラブ対策検討会」が報告書を公表

  • 2025年6月28日、改正風営法施行。恋愛感情に乗じた営業、料金の虚偽説明、売掛金回収のために女性へ性風俗店勤務やAV出演を求める行為が禁止され、無許可営業の罰金上限が従業員1,000万円以下・法人3億円以下に引き上げられた

  • 2025年の摘発は事件71件・摘発者143人、行政処分251件。そして全国の警察は延べ1,083店舗に立ち入り検査を実施した

最後の数字を、もう一度読んでほしい。

ホストクラブは全国に約1,100店舗とされる。そこに年間延べ1,083店舗の立ち入り検査。ほぼ全店を1回ずつ回った計算である。

一方、男性客の側はどうか。

接待飲食等営業は全国に59,542件ある。そこでの高額請求被害に対する制度的な応答は、いわゆる「ぼったくり防止条例」——正式名称は「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例」——だけである。東京都におけるこの条例違反の検挙件数は、おおむね年間10数件で推移している(2014年時点の弁護士による指摘)。弁護士はその理由をこう述べている。客側が後ろめたさから被害の届出をためらう、と。

検討会もない。専用の相談ダイヤルもない。法改正もない。年間10数件である。

枠組みそのものが違う

ここで見るべきは件数の差ではなく、被害が何として記述されているかだ。

  • 女性客の被害は、「恋愛感情の不当利用」——すなわち心理の枠組みで法制化された。だから消費者契約法のデート商法条項が適用され、風営法に「恋愛感情に乗じた営業の禁止」という条文が入った。

  • 男性客の被害は、「不当な価格」——すなわち金額の枠組みでしか扱われない。表示義務違反、料金の誤認惹起。感情を利用されたことは、法的な保護法益になっていない。

同じ「感情を売る店で金を失った人間」でありながら、一方は感情を利用された被害者として保護され、他方は値段を確かめなかった不注意な消費者として扱われる。男性の感情は保護されない。

そして最も象徴的なのがこれだ。ぼったくり防止条例は、もともと歌舞伎町などで男性客が法外な請求を受ける事態に対応するために作られた枠組みである。その条例が近年、ホストの検挙に使われ、運営法人の書類送検にまで至った。それは「異例」と報道された。

男性客の保護のために作られた道具が、本気で振り回されたのは、被害者が女性になってからだった。

支出額では男が上、語彙の保護では女が上

もう一つ、数字を出す。「推し活」に関する調査(Oshicoco/CDG、15〜69歳23,069名対象、2025年1月)である。

年間の推し活支出額が最も多かったのは——

  • 35〜39歳男性:44万5,565円

  • 40〜44歳男性:37万2,350円

  • (女性の最高は30〜34歳の33万6,695円)

推し活人口は約1,383万人から翌年調査で約1,940万人へ増加し、男性の推し活人口は前年比25%増。市場規模は3兆円台後半と推計されている。

つまり、この国で推しに最も金を使っているのは30代後半から40代前半の男性である。

にもかかわらず、「推し活」という肯定的な語彙が思い浮かべさせるのはZ世代の女性であり、同額を使う中年男性の同種の支出は「オタク」「痛い」「イタい年の取り方」として語られる。

支出額では男が上、語彙の保護では女が上。ここでも、非難されているのは額ではなく参加そのものである。

定式化する

以上をまとめると、こうなる。

承認は、調達経路が可視化されると減価する。この規則自体は男女に共通している。しかし〈減価スイッチ〉の閾値が、男女で桁違いに違う。

女性の場合、スイッチは「量が逸脱したとき」にだけ発火する。男性の場合、スイッチは「参加した時点」で発火する。

だから男は、チヤホヤを買っても救われない。買った瞬間に無効化されるからだ。そして無効化されたことを誰にも言えない。買ったこと自体が恥だからである。

「チヤホヤされたい」と言えないのは、性格の問題でも、日本人の奥ゆかしさでもない。言った瞬間に財が壊れ、買った瞬間に恥になるという、二重の減価ルールが男にだけ厳密に適用されているからだ。


第5章 出口は、間接調達しかない

では、どうするのか。

第2章の結論に戻る。女性が長期的な関係で評価しているのはドミナンスではなくプレステージ——第三者が自発的に与えた地位だった。

ならば男の承認調達の正解は、論理的に一つしかない。

異性からでもなく、購買からでもなく、同性ピア・技能・仕事・作品から間接的に調達すること。

これは道徳的な提言ではない。財の性質からの演繹である。間接調達された承認だけが、①要求していないので減価せず、②購買していないので無効化されず、③第三者が与えたものなので裏書きとして機能する。三つの条件を同時に満たす経路が、他に存在しない。

問題は、その調達装置が日本から消えつつあることのほうだ。

内閣府男女共同参画局が実施した「男性相談に関するアンケート」(令和5年7月)で、現場の相談員から挙がった声を引く。

  • 支援の手段が少なく、話を傾聴するのみ

  • 男性は相談が1、2回で終わる。女性は継続する

  • 男性は悩みがあっても相談しないケースが危惧される

  • 男性相談のノウハウがない

  • 男性相談員向けの研修があまりない

「男は相談しない」のではない。制度の側に、男の相談を受け止める手段もノウハウも用意されていない、と行政自身が申告している。

制度的な非対称も指摘しておく。令和6年4月に施行された困難女性支援法に、男性版は存在しない。自治体からは「事業を実施するにあたり、男性への支援がない点をどのように説明していくのか課題である」という声が上がっている。

そして電通総研が18〜70歳の男性3,000人を対象に行った「男らしさに関する意識調査」では、「最近は男性のほうが女性よりも生きづらくなってきていると思う」に肯定した割合が、18〜30歳で50.9%、31〜50歳で51.3%、51〜70歳で51.9%。全世代でほぼ半数である。

かつては、職場の共同体、地縁、業界団体、趣味の集団が、この間接調達を担っていた。男は特別なことをしなくても、そこにいて役割を果たしていれば、誰かが自発的に評価をくれた。その装置が消えた。残ったのは、細い異性経路と、壊れた購買経路だけである。

だから今、男が承認を得ようとすれば、自分で装置を建てるしかない
技能を磨く。仕事で名を残す。作品を出す。集団に貢献する。同性の友人関係を維持する。
どれも遅く、地味で、すぐには効かない。

だが、他の経路は全部壊れている。


「チヤホヤされたい」と言えない。それは弱さではないし、あなたの人格の欠陥でもない。承認という財が、要求された瞬間に価値を失うようにできているだけだ。この性質そのものは、誰のせいでもない。

呪いなのは、そこではない。

言わずに調達できる装置が、この国から消えたこと。そして、壊れた経路に手を出したときだけ、男が笑われること。

それでも「女」という特権が与えられていない以上、出口は一つしかない。
他人が自発的に与えたくなるものを、自分の手で積み上げるしかない。

遅い方法だが、これだけが、減価しない。

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