ずっと探していた 理想の自分って もうちょっとカッコよかったけれど~読書note-No.37(2025年4月)~
起こった奇跡と起こらなかった奇跡、まさに「That's life.」な一ヶ月だった。仕事では、ある人のおかげで、月末の倒産を回避できた。それはホント偶然の流れだった。もちろん、その人との縁を大切にしてきた賜物でもあるのだが。一方、プライベートでは、僅かな期待虚しく木端微塵に打ちのめされた。まぁ、今まで自分が相手に酷いことをしてきた報いなのだが。
先日の朝ドラ「あんぱん」で、線路で轢かれそうになって(自ら轢かれようとした!?)、「こんな情けねぇ俺、もうヤダよ。ヤダヤダ! ! ウワァーーー!!」と叫ぶ嵩(北村匠海)に涙した。これは今の自分だよなと。向こうはこれから未知の人生に羽ばたこうとしている若者だが、コッチは人生の酸いも甘いも知った56歳だっていうのに。
そんな情けない男にも、本は勇気を与えてくれるんだなぁ。4月も安定の7冊読了。
1.水やりはいつも深夜だけど / 窪美澄(著)
我が家のキッチンのちょっとした棚に、別居中の妻が読んでた子育ての本とかがまだ残ったままなのだが、その中にあったこの単行本が目に入る。窪美澄さんは最近読んだ2冊(「じっと手を見る」、「夜に星を放つ」)とも面白かったので、どんな本なのか下調べせずに読み始める。
同じ幼稚園に子どもが通う家々の、子育てにもがきながら行き違う家族が、何とか前を向いて生きようとする姿を描く5篇の短編集。「ちらめくポーチュラカ」、「かそけきサンカヨウ」等、全ての話に植物の名前がタイトルに付く。2篇が妻、2篇が夫、1篇が娘の目線で描かれている。
生まれてから幼稚園に上がるぐらいまでの子育ては、妻・母親の方に大きな負担がかかり、物凄いストレスと疲労が溜まるものだと改めて思い知らされる。思えば自分はその頃、家庭を顧みずに外に出かけていた。子育てを任せっきりにしてた妻に、本当に申し訳ない気持ちになる。
版を見ると2014年となっていて、息子達が中学生の頃で、この本の子ども達の年代の子育ては終わっていた時期だ。ただ、既に我々夫婦には亀裂が入っていた。妻はどんな気持ちでこの本を買ったのだろう。何か修復しようと藁をも掴む思いだったのかと思うと涙が出る。
子どもが小さい時に、いや生まれる前に(出版されてないけど)この本読んでたら、現状は違ってたかなぁ。
2.小説 / 野﨑まど(著)
本屋大賞発表日にようやく市立図書館の順番が来る。本作は並み居る強作を上回っての第3位だったので、期待が膨らむ。5歳で走れメロスを読んで小説の世界にハマった内海集司が主人公、読書量は凄いが医師の父の期待に応えられず、学業の成績は上がらぬ日々。
小6の時に図書館で出会って以来、生涯の友となった外崎真と、ある日、著名な小説家が住んでいると噂される学校に隣接する通称「モジャ屋敷」に忍び込む。その小説家こと髭先生に書庫の本を好きなだけ読んでいいと言われ、中学高校とその書庫に入り浸る。
その後、内海は外崎を作家として世に送り出すため、支えて行くのだが…。途中から宇宙の誕生から生命の謎の話が入ってきて、終盤からは急にファンタジーとなり、最後はあっと驚く謎が明かされる。途中からの展開はかなり読み進め辛いが、最後は小説好きの背中を押してくれる感動が。
自分は今や99%小説しか読まない。以前は経営や自己啓発や趣味の本も読んだが。「一番大切なのは、自分の内側を増やすことだけだ」と髭先生は言う。会社の経営が苦しくとも、親の介護が大変でも、妻との復縁が絶望的でも、次の虚構へと手を伸ばし続けるよ。
しかし、本屋大賞3位は伊達じゃないなぁ。小説を読み続けてきた自分が何となく救われた気分になったよ。
3.架空犯 / 東野圭吾(著)
市立図書館での人気作品は、だいたい順番来るのに半年かかるなぁ。東野作品は昨年9月の「透明な螺旋」以来。昨年GWに読んだ「白鳥とコウモリ」に出てきた五代刑事が主人公、都内の高級住宅街で起きた火災の焼け跡から、都議会議員と元女優の夫婦が発見される。無理心中ではなく殺人事件と判断され、捜査一課の五代は所轄のベテラン刑事・山尾とバディを組んで捜査を始める。
華やかな人生を歩んで来た二人の無残な死の謎を解くべく、物語は進む。本の半分過ぎた辺りで容疑者は捕まるが、犯行に使った凶器や動機など肝心な部分が曖昧で不自然な供述ばかり。五代たち曰く「まるで幽霊を追いかけてるよう。架空の犯人に振り回されているんじゃないか」と。
ホント一気に読ませる(次を期待させてページを捲らせる)能力は当代一だな。登場人物たちの過去の人生が絡み合い、「架空犯」だったものが姿形を表してくる。最後にドバドバっと謎が解けていくので、それまで一気に読めてた分、第三者による謎解きの説明が少し長く感じた。
最終頁の片思いの考察は、先日ホイチョイ馬場監督のYouTubeで鶴ちゃんが話してた渥美清さんの考えと一緒だね。
若気の至りって、誰にでもあるものだ。その悔恨が後の人生の心の奥底でずっとくすぶり続けることも。自分にだってある、墓場まで持っていくけど。
4.俺たちの箱根駅伝 上 / 池井戸潤(著)
こちらも半年前に市立図書館で予約した作品。一昨年11月に読んだ「半沢直樹 アルルカンと道化師」以来久々の池井戸作品。箱根駅伝の古豪・明誠学院大4年の主将・青葉隼斗が主人公、10月の予選会で自身のブレーキもあり、同大は11位に終わり本戦出場を逃す。悲しみに暮れていた矢先、隼斗は同大を38年率いた名将・諸矢監督に呼ばれ、監督交代と関東学生連合チームへの選出を告げられる。
明誠学院大伝説のランナーだが卒業後に陸上から離れ、商社マンとして活躍していた甲斐真人が新監督となり、併せて連合チームの監督も担うことに。選手は寄せ集めで記録は参考記録で順位に関係ないため、毎年最下位争いの常連である連合チームに、革命を起こさんとする甲斐監督と、隼斗ら一度は負けた選手達の下剋上の物語。隼斗目線と中継担当の大日テレビ局目線で話は進む。
ここのところ、仕事でもプライベートでも、信じていたものに打ちのめされる辛い思いを経験した。「この世の中で、本当に信じられるもののために働きたい」、甲斐の言葉が我が胸を激しく打つ。何だか物凄く勇気が湧いてきた。
しかし、これは世に出た上下巻の本史上(いや自分が読んだ本の中でか)、最高の盛り上がりで終わった上巻ではなかろうか。これぞ万全の襷リレー。早く続きが読みたいよ。
5.春のこわいもの / 川上未映子(著)
市立図書館でピンクの装幀が目に留まり借りる。川上さんは3年前の6月に読んだ「すべて真夜中の恋人たち」以来で久しぶり。コロナ禍初期を舞台にした、生活、死、夢などへの人々の様々な不安を描く6篇の短編集。川上さんの短編は初めてかも。
女性目線の作品の中、唯一の男性(高校生)が主人公の「ブルー・インク」が面白い。文字が残ることを極端に嫌う(自分が思ったことや考えていることを書きたがらない)同級生の女子から貰った手紙を無くしてしまい、夜の校舎に二人で探しに忍び込む。見つからず号泣する彼女に、性的な妄想をしてしまう彼のどうしょうもなさがせつない。
最後の「娘について」は、貧乏な母子家庭で育った小説家のよしえが主人公、実家が金持ちで過干渉の母を持つ女優志望だった見砂から久々に連絡がある。かつて二人はそれぞれの夢を目指し、東京で一緒に生活していた。美人で金持ちで真剣に努力をしない見砂に対し、よしえは少しずつ嫉妬や憤りを覚えるようになり…。まぁ、酷い仕打ちをされた方は、絶対に忘れないよね。
今まで読んだ川上作品は、精子提供やいじめ等の難しい問題や生きづらさをテーマにしたものが多かったので、華やかな外見とは違って「陰」の部分を美しい言葉で描くのが上手い作家さんだと思っている。本作もコロナ禍の世相を反映してるからか、作者特有のアイロニックな表現なのか、何ともゾワゾワする話が多かった。リアルなんだけど、ちょっとホラーっぽい作品もあり、一番こわいのはやはり人の心だなと。
6.スワン / 呉勝浩(著)
先月「法廷占拠 爆弾2」を読んで、もっと呉さんの作品を読みたくなり市立図書館で借りる。ある4月の日曜、埼玉県湖名川市(架空の都市)の巨大ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃事件が起こる。死者21名を出した悲劇の中、犯人に接触しながらも高校生のいずみは生き延びる。
しかし、同じく事件に遭遇し大怪我をして入院中の同級生・小梢が、犯人に銃を突き付けられていたいずみの指名で、次に誰が殺されるか決められたと週刊誌で告発。いずみは被害者から一転、世間の非難の的となる。いずみは小梢から学校でイジメを受けており、二人はバレエスクールでのライバルだった。
事件から半年後、ある資産家の命を受けた弁護士・徳下により、いずみ始め5名の生存者が事件の中の一つの「死」(その資産家の母親の死)の真相を明らかにするために集められる。その会合に参加すると報酬が支払われるが、参加者達は中々本当のことを話そうとしない。
計4回予定のこの会合でのやりとりが物語の大部分なのだが、爆弾シリーズ同様、その会話劇が抜群に面白い。徳下の真の狙いは何か、5名の参加者達は何のために嘘をついているのか等、ジリジリと明かされて行き、最後は驚く展開に。ショッピングモール「スワン」の構造とバレエの「白鳥の湖」を上手く絡めていく構成も堪らない。
7.Schoolgirl / 九段理江(著)
以前、「あの本、読みました?」で九段さんが太宰治の「女生徒」の現代版としてこれを書いたと仰っていたのを思い出し、市立図書館で目に入ったので借りる。九段作品は、昨年11月の「東京都同情塔」以来。芥川賞候補にもなった表題作と文學界新人賞受賞作「悪い音楽」の二編が収められている。
「Schoolgirl」は、読書だけが趣味でかつて毒親に育てられた専業主婦の母親と、そんな母を反面教師に社会派YouTuberとして活動する14歳の娘との愛憎劇。その娘が最新の投稿で、母のクローゼットから勝手に拝借した太宰治の「女生徒」について語っている。それをこっそり見る母。どうにも噛み合わぬ母娘だったが...。
自分は父親だし子ども二人とも息子だったので、母と娘の関係が本来どういうものなのかよく分からない。でも、子どもに依存してしまう親の気持ちはちょっと分かる。終わり方が凄く良い。
「悪い音楽」は、著名な音楽家を父に持つ中学校の音楽教師・三井ソナタが主人公、音楽的才能がありながら「人の心」が分からないという変わり者。アーティストと作品は切り離して考えるべきかという問いや、感受性豊かでない者の生き辛さに胸がかきむしられる。でも、ソナタが心の中で発するラップが最高。
芥川賞受賞作よりこっちの方が好きだなぁ。
人はどうして哀しくなると 海をみつめにくるのでしょうか…
先週、TVでこの渡辺真知子の曲が流れてきて、そうだよな、この哀しみを癒すのは海だよなぁと、このGWで唯一夕方まで予定の空いた日に、茨城の海に行ってきた。
ある同級生は「時が解決してくれるよ」と言った。カムカムの錠さんは「それでも人生は続いていく」と言った。情けない自分が嫌になるけど、あと一歩だけ、前に進もう。

