演劇はいつだって地獄 オじコじを終えて
オトナの事情≒コドモの二乗 + Sweet Arrow Theatricals ≠ アトリエ公演
『TEA FOR TWO 二人でお茶を』
が無事に終演しました。
劇団フライングステージの関根さんの脚本。
西野亮平と宮内健人という2人のゲイ。
1年に1度だけ会う関係で25年の時を刻む。
二人の人間が愛を希求する物語。脚本を読むだけでとても温かな気持ちになれます。その素敵な脚本を柔らかな空気をまとった座組で公演作品に仕立て上げました。企画の概要から実際に動き始めて公演が終了するまで、ずーっと温かな空気に包まれてました。
しかし、その一方で、とんでもなくヤバい公演でもありました。今回の公演が持つ温かな空気がふんわりと包み込むせいであんまり伝わっていなかったと思いますが、本当にヤバかったです。
約100分の2人芝居。
演出家は3人。
出演者は8人。
9ステージ + 追加公演3ステージ =合計12ステージ。
そのうち、同じ組み合わせでやるのは2ステージのみで、出演者の組み合わせが11パターンも存在するという、小劇場でもなかなか聞いたことのない公演形態。普通はこんなことしないです。意味わかんないぐらい大変だからです。
Wキャストで日によって一部の役のキャストが違うとか、1日だけ配役をシャッフルして公演する、というのは聞いたことがあると思います。それと同じでしょ?と思うかもしれません。もう、全然違います。
今回の公演は演出家が3人いるのです。演出家3人はそれぞれ亮平役も担い、お互いに演出をし合うというシステムでした。つまり、キャストが変わると演出も変わるのです。演出が変わると立ち位置など色んなところが変わってきます。特に今回は3人の演出家の方向性は見事にバラバラだったため、ミザンス(動線や立ち位置のこと)はかなり違いました。一つの作品をキャストを変えながらやるというより、同じ脚本を使って違う作品をそれぞれ作るぐらいの感覚でした。つまり今回の企画では同じ脚本から11個の作品を作り出したようなものです。しかもそれぞれ1回ずつしか上演しないという。ヤーバいヤバい。
何でそんな大変なことをしたのか?僕もよくわかってないです。
僕もそのヤバさに気づいたのは稽古が本格的に始まってからだったので。
そもそも、僕は最初は出演する予定ではありませんでした。
色々な都合があって、代わりの出演者が必要ということになり、僕に声がかかったのはオじコじプレ公演の3日前ぐらい。
主催の伊藤靖浩さんは僕の歌の先生でいつもお世話になっているし、何より伊藤さんが主催する企画だから面白いのは間違いないだろうと思って深く考えずにオファーを受諾。その時点では伊藤さん主催で2人芝居をやるんだなぐらいにしか思ってませんでした。
元々プレ公演は観に行こうと予約していたので、楽しみに観に行きました。実際とても素敵な話で。ゲイのカップルのとてもリアルな心情と社会背景、かといって重たい話でもなくゲイならではの関係性を描きながら普遍的な愛を紡いでいく作品。脚本自体も素晴らしい上に、伊藤さんと塚越さんのリーディングもとっても素敵で、当事者としてLGBTQのことを発信していきたいという意図を込めたパネルディスカッションも心地よく、とっても温かい気持ちになりました。
ただその一方で、台詞量が尋常じゃないけど…?という気持ちも。今回はリーディングでやってたけど、実際は普通に演じるってことだよな。気軽に引き受けてしまったけど結構大変かも知れない…。とプレ公演を観終えた後、ひっそりと不安を覚えていたのも確かです。
とはいえ、再演なので脚本はすでにある訳で、しかも面白さは折り紙つきな訳で、とにかく台本さえ入れば大丈夫なはずだ、とプレ公演を終えてから本稽古が始まるまで少し日が空いたので、その間にせっせか台本を覚える作業をしました。といっても台本は50P以上あるので、一回全部通して読むだけで1時間以上かかります。覚えるためには繰り返し読むのが一番なんだけど、一回読むだけで1時間経ってしまう。数ページ覚えるのに繰り返し読んでるだけでも1時間過ぎてしまう。確認のために戻って読み直すとそれで1日が終わってしまう。早いとこ台本を手放すところまでいきたいのに、そんな段階は遥か遠く。あっという間に時間は過ぎていく。覚えるのを確認する暇も惜しいから、確認は置いといて、覚えたつもりで次の覚えるべきところを覚える。たまに戻って確認してみて覚えてないことに絶望して、でも時間もないので先に進んで…というのを繰り返して、覚えてるんだかどうかわかんないうちに本稽古に突入。ちょっとあやふやだけど稽古しているうちに入っていくだろういつもそんな感じだし、と思って稽古に臨みました。
ところがまあ、これが入ってこないこと入ってこないこと。
普通だったら、稽古で立ってみて、その時に思ったこと・感じた感触・立ち位置から見える風景などが組み合わさって記憶が補強されていくものなのだけど、今回はそれぞれの演出家によってミザンスがまるで違ってくるので、台詞とミザンスを結びつけてはいけないという制約があるのでした。これが思った以上に厄介で、普段だったら動きと連動して出てくるようになる台詞が、この動きはあっちの演出だからこっちの演出では違う動きだ!とか考えてると脳内で記憶がバッティングを起こすのか、まあ台詞が出てこない。いつもだったらそれなりに出てくるはずの台詞すら出てこないので焦る焦る。
この辺で、台詞とミザンスは完全に切り分けて覚えないといけないんだということに気づきます。元々膨大な台詞量に地獄みをかなり感じていたのに、さらに襲いかかってくる様々な地獄。稽古が始まってから改めて台詞を覚え直さないといけない地獄。そして何故か稽古期間が異常に短いので、覚える作業を隙間時間を見つけてやらないといけない地獄。台詞はあやふやだけどミザンスは容赦無く切られていくので、種類の違う演出も整理しながら覚えないといけない地獄!
すげぇ気軽に引き受けちゃったけどメチャクチャ大変じゃねえかコレ!と文句を言う暇すら惜しいのでやるっきゃない。まぁ、今まで演劇をやってきてコレよりしんどい地獄なんていくらでもありましたしね。
小屋入り直前まで脚本がこない地獄。演出意図や世界観がわからないので演出に訊ねてみてもモゴモゴするばかりでどうやら演出自体わかっていない地獄。舞台の仕掛け凄いけどそれで起こり得る諸々の対策を演出も舞台監督もあまり考えていない地獄。演出がパニクってるから役者なのに代わりに演出しないといけない地獄。大赤字確定だけどその負担を自分が負わされるかも知れないと思いながら稽古と本番に笑顔で臨まないといけない地獄。これらに比べれば。面白い脚本があり、明確な指針のある演出もついているので、単純に己のキャパ(と時間)との戦いでしかない地獄!
何より、自分はゲスト枠であって、メインの演出兼出演を担う3人・3パターンの演出を覚えつつ企画の業務諸々も担う若手2人が、どう考えてもこっちより大変なのに黙々とやるつもりで動いているので、こちらも自分のやれることを最大限に頑張るしかありませんでした。
本番はどうだったのかと言いますと…ほとんど何も覚えてないというのが正直なところです。作品のクオリティを担保する上でも、台本は一字一句正確に、ミザンスは付けられた通りに完璧に、というのが役者として当然ではあるのですが、今回は組み合わせが11パターンもある上に極端に稽古期間が短かったため(これも色々な都合が重なったためです)、どの組み合わせも通し(本番通り最初から最後までやる稽古)も出来てない中での本番だったので、果たして台詞はちゃんと言えるのか言われた演出通りに動けるか、その上で素晴らしいものをお客さんに提供できるのか、といつも以上に本番中は脳がグルグル稼働していました。台詞や演出などの決まりごとはありつつ、演じる相手役や客席の呼吸や空気また自分が今どういう状態でいるのか、というのを感じて反応して最善手を表現するのが役者の仕事ではありますが、今回は記憶のキャパとのせめぎ合いでヒイコラなってる自分を抑えないといけなかったため、その場その場の一瞬の判断は曲がりなりにも10年以上(15年近くになるか)演劇を続けている役者としての自分の感性に任せてたみたいなところがあります。ぶっちゃけ一字一句まで完璧には全然言えてないし、ミザンスがおかしいことになってたのは多々あったし。いつもだったら終わった後にあそこはああだったなという反省なり手応えなりが残るのですが、今回は何とかやり切ったけど果たして良かったのかどうかは…ワカラン!という感じでした。観終えた後のお客さんは楽しかったと口々に言ってくれてたのが救いです。
出演してる側の自分はそんな感じでしたが、観る側に回るとまた全然違いました。
自分が出ていない他の回は何組か観れました。台詞やミザンスが違ってたらその都度わかるし、はっきり言って台詞やミザンスを完璧にこなせていた組は一つもなかったけど、でもどの回もそういったことたちは全然気にならず、そこに居るカップルの2人として存在が見えて、ずっと退屈することなく面白く観れました。台詞をちゃんと言う、ミザンスを守る、というのは最低限やるべき当然のことですが、たとえそれが果たされなくても、脚本と演出が強固で揺るぎないものであるならば、細かいミスがあったとしても、作品の肝となる部分はちゃんとお客さんに伝わるんだなと思いました。
かといって、どの現場であろうと、これだけの条件の作品をこれだけの稽古期間で回せるかと言ったら絶対そうではないです。今回の座組のメンバーだから何とか成し遂げられたことは間違い無い。

今回の公演概要を伝えると何でそんな過酷なことを…?と色んな人に聞かれましたが、それはマジでわかりません。自分自身、修行なのかな?みたいな現場に引き寄せられがちなところはあります。まあ、安全安心なタスクを余裕でこなしているより、地獄なような状況を乗り越えている方が絶対に楽しいでしょう。やる方も観る方も。演劇はいつだって地獄です。
次に出演するMCR、こちらも遅筆(だけど作品は間違いなく面白い)で有名なので今からドキドキしていますが、今回の経験でドーンと構えていられる気はしています。
お客さんが全然呼べない地獄からは抜け出したいと常々思っているので、MCR、ぜひ観に来てください。

ドラァグクイーン楽しかった。
MCR『穴熊の戯言は金色の鉄錆』


作・演出:櫻井智也
2025年5月21日(水)-28日(水)
@下北沢 ザ・スズナリ
5月
21(水)19:00
22(木)19:00
23(金)14:00/19:00
24(土)14:00
25(日)14:00
26(月)19:00
27(火)14:00/19:00
28(水)19:00
前売 4000円
当日4500円
学生 3000円
※全席自由
【出演】
小野ゆたか(パラドックス定数)
帯金ゆかり
中川智明
堀靖明
若月海里
大石ともこ(みそじん)
荒波タテオ(popchic factory)
加茂井彩音
小川夏鈴
山川恭平
桑田佳澄(江古田のガールズ/劇想からまわりえっちゃん)
櫻井智也
おがわじゅんや
北島広貴
上田房子
伊達香苗
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