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核融合の夢を加速する「AI専用スパコン」英国が賭ける6.76エクサフロップスの挑戦

2026年3月、英国政府が静かに、しかし重大な発表をした。

核融合研究に特化したAIスーパーコンピュータ「Sunrise」の構築に4,500万ポンド(約80億円)を投じるというものだ。

稼働予定は2026年6月。つまり、この記事を読んでいる今から数ヵ月後には動き始める。

核融合が「計算」を必要とする理由


核融合は太陽の内部で起きている反応を地上で再現する試みだ。

1億5,000万℃を超えるプラズマを磁場で閉じ込め、水素の同位体である重水素とトリチウムを融合させてエネルギーを取り出す。

理論上は燃料がほぼ無尽蔵で、温室効果ガスをほとんど出さない。

問題は、そのプラズマが途方もなく「気まぐれ」だという点にある。

プラズマ内部では乱流が発生し、わずかな磁場の乱れが連鎖反応を引き起こして閉じ込めが壊れる。

この「プラズマ乱流」を理論だけで予測するのはほぼ不可能で、膨大な数値シミュレーションが必要になる。

従来、1回のシミュレーションに数週間かかっていた計算も珍しくない。

そこに登場するのがAIと高性能計算(HPC)の組み合わせだ。

Sunriseとは何か


Sunriseは英国原子力公社(UKAEA)のカルハム・キャンパス(オックスフォードシャー)に設置される。

電力消費1.4MWの「ミッション特化型」スパコンで、AMD EPYCプロセッサとAMD Instinct GPUをDell PowerEdgeサーバー上に実装し、6.76エクサフロップスのAI演算性能を持つ。

エクサフロップスとは、1秒間に10の18乗回の浮動小数点演算をこなす単位だ。

世界最速の汎用スパコン(El Capitan、約1.7エクサフロップス)と数字を比べると大きく見えるが、Sunriseの6.76という数字はAIワークロード向けの低精度演算(FP8など)が含まれる。

核融合シミュレーションに不可欠な64ビット高精度演算も備えており、UKAEAのコンピューティング責任者Rob Akersは「64ビット精度は絶対に削れない。それがAIアルゴリズムを科学ツールとして機能させる基盤だ」と語っている。

開発には AMD、Dell Technologies、Intel、ケンブリッジ大学、データプラットフォームのWEKAが参加する産学連携プロジェクトだ。

何を解くのか? 三つの技術的難題


Sunriseが主に取り組む課題は三つある。

  1. プラズマ乱流のシミュレーション
    乱流の振る舞いを支配する方程式は非線形かつ高次元で、数値的に解くには莫大な計算資源が必要だ。物理モデルに基づいて訓練されたAI(physics-informed AI)を使えば、計算を大幅に短縮できる「サロゲートモデル」を構築できる。数週間かかっていたシミュレーションが数時間に縮まる可能性がある。

  2. 材料開発
    核融合炉の内壁は、超高温プラズマからの熱流束と高エネルギー中性子照射という二重の過酷な環境に耐えなければならない。候補材料のふるまいをバーチャルで試験し、最適化するためにSunriseのシミュレーション能力が使われる。

  3. トリチウム増殖
    核融合燃料の一方であるトリチウムは自然界にほとんど存在しない。炉内でリチウムに中性子を当てて自前で「増殖」させる技術(Tritium Breeding)が商業炉には不可欠だ。UKAEAはこの課題にLIBRTI(リチウム増殖トリチウム革新)プログラムで取り組んでおり、Sunriseはその設計を支援する。

アポロ計画に倣う哲学


Rob Akersは、Sunriseのアプローチを「アポロ計画の教訓」に例えている。

「実世界に踏み込む前に、バーチャルな世界でテストし、繰り返し改良することで最も速く学べる」。

これは単なる美辞麗句ではなく、核融合開発の現実的な戦略だ。実機実験は莫大なコストと時間を要する。

Sunriseで「デジタルツイン」(炉の仮想複製)を作り込み、設計を精錬してから物理的な建設に踏み切ることで、失敗のコストを劇的に下げられる。

STEPへの道


Sunriseが最終的に支えるのは、英国の核融合フラッグシッププロジェクト「STEP(球状トカマク型エネルギー生産装置)」だ。

ノッティンガムシャーの元石炭火力発電所跡地(West Burton)に建設予定で、2040年代初頭の初運転を目指している。

出力目標は約100MWe(電気)、燃料のトリチウム自給を実現する世界初のプロトタイプ核融合発電所だ。

STEPは球状トカマク(Spherical Tokamak)という形状を採用している。

従来のドーナツ型トカマクより球に近い形をしており、コンパクトな構造で高いプラズマ閉じ込め効率が期待できる。

英国がMASTアップグレード装置で長年培ってきたノウハウが活かされている。

STEPに向けた技術開発は着実に進んでいる。

2024年には英国王立学会誌に15本の査読論文が掲載され、プラズマ設計から磁石・材料・トリチウム増殖まで幅広い技術的進捗が公開された。

高温超伝導(HTS)テープの中性子照射耐性試験もチェコの研究機関CVŘと連携して進められている。

AI Growth Zoneという構想


Sunriseはカルハム・キャンパスに設ける英国初の「AI Growth Zone」の第一歩でもある。

この構想は核融合研究とAI開発を一体化した科学産業クラスターを作るというものだ。

2026年1月には別途3,600万ポンドがケンブリッジのスパコンセンターへ投じられており、英国政府全体として「国産の科学計算基盤」を整備する動きが加速している。

エネルギー安全保障省(DESNZ)と科学・技術・革新省(DSIT)が連携して旗を振り、AI機会行動計画とも連動している。

核融合開発の現在地


正直なところ、商業核融合の道のりはまだ長い。

プラズマの安定制御、高温超伝導磁石の開発、材料の耐久性、燃料サイクルの確立。

解くべき問題は山積している。STEPのチーフエンジニア自身も「現在の装置から大きな外挿が必要」と認めている。

しかしここ数年の変化は本物だ。

民間投資の急増(MicrosoftやGoogleも核融合エネルギーに投資)、NIF(米国国立点火施設)での科学的点火の達成、そして今回のようなAI×HPCの本格投入。

「あと50年先」とやゆされてきた核融合が、初めてリアルな工学プロジェクトとして動き始めている。

Sunriseの稼働は、その象徴的な一手だ。

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