人手不足の原因は企業自身にも 変わらぬ商慣行 トラック業界にみる

立場の強い企業が取引相手にコスト負担を強いる。相手企業は賃金水準や労働環境の改善が遅れ、人が採れない状況が続く――。労働政策研究・研修機構が5月に開いた労働政策フォーラムは、深刻な人手不足の原因が利益を追求する企業自身にもあることを浮かび上がらせた。
 
取り上げたのはトラック業界だったが、商取引での力関係の差は多くの業界でみられる。少子高齢化とは別の、人手不足の根っこにある問題に、もっと目を向ける必要がありそうだ。

減らない無償の荷役・荷待ち

フォーラムのテーマは「物流における労働問題を考える―トラック業界の人手不足等を中心に―」。5月末に開いたパネル討論には学識者や国土交通省、運輸会社の関係者らが参加した。
 
トラック運送の実情を示す各種のデータのなかでも、人手不足の背景について考えさせる材料になったのが、ドライバーの拘束時間に関する国交省の調査結果だ。1運行あたりの平均拘束時間とその内訳について、2020年度と24年度の時間数を比べて改善状況をみた。
 
平均拘束時間は20年度の12時間26分が24年度は11時間46分と、40分減った。問題は、その中身だ。
 
荷物の積み込み・積み下ろしの「荷役」と、荷役作業に入るまで待機する「荷待ち」を合わせた時間は、24年度に3時間2分。これは20年度の3時間3分とほとんど変わっていない。平均拘束時間の短縮は、運転時間が6時間43分から5時間54分へ49分減少したことが効いている。
 
荷役と荷待ちは一般に、運送事業者が荷主から対価をもらえない無償の作業になっている。以前から問題視されてきた商慣行が、いっこう改善されていない実態を調査結果は示す。無償の作業は運送事業者の経営を圧迫し、様々なひずみが生じる原因になる。
 
厚生労働省によると、トラック運転者の年間労働時間は25年度で大型トラックが2496時間、中小型トラックが2388時間。全産業平均(2076時間)と比べ15~20%長い。運転者の年間収入(25年度)は大型トラックが507万円、中小型トラックが449万円で、これらも全産業平均(546万円)より7~18%低い。長時間労働や低賃金の是正が遅れている背景には、無償の荷役・荷待ちが運送事業者の重荷になり、利益を上げにくい構造から抜け出せないこともあるとみられる。
 
賃金、労働時間という労働条件の二本柱が見劣りすれば、おのずと人材の採用で不利になる。職業別の有効求人倍率をみるとトラック運転者は24年度に2.37倍で、全職業平均の約2倍だ。以前から続く商慣行が人手不足の助長につながっている。

「合成の誤謬」が人手不足を助長

トラック業界におけるこうした人手不足の構図について、首藤若菜・立教大学教授は「典型的な合成の誤謬(ごびゅう)」と指摘する。
 
荷主にとって物流費は安ければ安いほどよい。しかし、そのしわ寄せはトラック運転者の長時間労働や低賃金などとなって表れる。運転者の「なり手不足」を招き、トラック物流の混乱や停滞を引き起こす。つまり、ミクロのレベルでは合理的であっても、マクロでみれば不合理というわけだ。結局、回り回って荷主の事業活動に悪影響が及ぶ。
 
トラック業界に限らずほかの分野でも、発注企業が受注企業に対して取引で優位にある関係があれば、「合成の誤謬」が生じやすい。発注企業が取引価格や納期で過度な要求をしても、受注企業が断りにくければ、従業員の労働条件の抑制につながり働き手の確保は難しくなる。下請け企業で人手不足が広がれば、その影響は発注企業にも跳ね返って供給制約の要因となる。

「過度な顧客満足を追うのは限界」

求められるのは公正な取引を浸透させることだ。労働政策フォーラムのパネル討論に参加した中堅運送会社の労働組合トップからは、過度な顧客満足の追求は無理が生じてきており、棚入れなどの付帯業務は対価をもらう必要がある、といった発言があった。
 
発注企業による不公正な取引を禁じた下請法を刷新し、2026年1月1日に新たに施行された中小受託取引適正化法(取適法)では、運送事業者同士の取引に加え、部品メーカーや卸売会社など荷主と運送事業者との取引も法の適用対象にした。無償の荷役や荷待ちを防ぐ狙いがある。
 
さらに取適法では各業種共通の対策として、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたり、交渉をせずに価格を据え置いたりといった「協議を適切に行わない代金額の決定」を禁止行為に追加した。
 
公正な取引を広げやすくする環境づくりも欠かせない。日本は市場規模に比べて企業数が多い業種が大半で、受注競争が激しいため発注企業が過度な要求をしやすい土壌がある。国交省によるとトラック事業者数は25年度に6万2383社で、コンビニエンスストアの約5万6千店を上回る。
 
実質的な経営破綻状態にあるゾンビ企業は市場から退出させ、企業の新陳代謝を活発にして過当競争に歯止めをかける必要がある。成長力を失った企業を含め、中小企業を税制や補助金で優遇してきたこれまでの政策を見直し、競争原理をもっと働かせることも重要になる。