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ブリッジウォーターの投資委員会を率いる若き女性リーダー:カレン・カルニオル=タンブール氏(Part 2)


 ブリッジウォーターといえば、世界最大のヘッジファンドであり、その創業者レイ・ダリオ氏の顔がすぐに浮かぶと思いますが、今回は同社の共同最高投資責任者であるカレン・カルニオル=タンブール氏の直近に行われたゴールドマンサックスのインタビューを紹介します。
昨日投稿した「Part 1」からの続きのコンテンツとなります。

 この約50分にわたるロングインタビューの「Part 1」では、米国経済、中国経済、世界の通貨市場、大統領選挙、AIといったテーマを中心として話が進められていましたが、この「Part 2」では「ブリッジウォーターの投資哲学と文化」、「投資業界での女性リーダーシップ」、「ESG投資の市場ポジション」をテーマとして会話が繰り広げられています。

 インタビュー中に出てきますが、レイ・ダリオから彼女への「未知の未知に対して正しい問いを立てて、その答えが分からないことを認めることが重要である」というアドバイスは、過去の知識や経験だけに頼るのではなく、不確実な未来に対してオープンであり続ける姿勢を持つことが真の成長と成功を追求できるという彼の哲学が脈々と受け継がれていることを示しているかと思います。


「インタビュー内容におけるサブテーマ」
<Part 1.>
 1. 米経済:マクロ状況とFRB金融政策
 2. 中国のイデオロギーと景気刺激策
 3. 通貨市場と投資機会
 4. 大統領選後に重要な単長期目線
 5. AI投資における心得
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<Part 2.>(本投稿)
 6. ブリッジウォーターの投資哲学と文化
 7. 投資業界での女性リーダーシップ
 8. ESG投資の市場ポジション
 9. ライトニングラウンド





(Part 1よりオーバーラップしてつづく。)

4. AIと投資への影響


[トニー・パスカリエロ]
 過去1年ほど、私はBridgewaterが執筆したAIに関する多くの著作を読んできましたので、この文脈で2つの項目について話したいと思います。1つ目は、AIが将来的に経済や労働市場にどのような影響を与えると考えているかという点。このことは、難しい課題だとは思いますが、あなたも私たちも多くの時間を費やしてきたテーマですよ。2つ目は、現在の市場でそれらの見解をどのように表現していくべきだと考えているかという点です。


[カレン・カルニオル=タンブール]
 まず、AIについて話す際に必ず言わなければならないことは、過度に自信のある意見を聞いたら疑うべきだということです。AIには本質的に多くの不確実性があるからです。ただ、短期的には、以前も話したように、需要を見越して投資が行われている現状やAIに大量の資金が投入されているにもかかわらず、今のところ生産性が向上していないという点で、AIは非常にインフレ圧力を高めていると考えています。

 次に、将来を見据えると、最も良いアナロジーは1990年代から2000年代のアメリカの製造業で起きたことです。数十年の間に、労働市場の約10%が消失しました。これは、グローバリゼーションによって安価な海外に仕事が移ったり、自動化によって工場の現場にロボットが導入されたりしたためです。今日、アメリカの製造工場を訪れると、働く労働者は以前よりも少ないですが、残った労働者は非常に生産的です。この10%の労働力の削減は、「これが市場の転換点だ」と言えるような特定のイベントではありませんでしたが、数十年にわたり、社会的・政治的な影響を与えただけでなく、資本コストや競争のあり方、利益率などにも大きな影響を与えています。
 AIは少なくともそれと同程度の影響を与える可能性が高いと思いますし、それ以上のインパクト、労働市場の10%以上に影響を与えるかもしれません。また、影響が出るまでの時間が短いかもしれませんし、逆に長いかもしれません。どちらの可能性も議論できますが、少なくともこのように構造的な変化をもたらすという点では、過去の製造業は適切な例だと思います。
 そして、投資家として現在注目すべき点はいくつかあります。まず、大きな問題は、資本コストが上昇し続けるこの圧力がいつ終わるのかということです。いつ、この圧力が後退し、デフレ的な影響が現れるのか。そして、それが実際に重要になり始めるのはいつなのか、まだその段階には達していませんが、注視していく必要があります。私はこれを、業界ごとにどのようにAIを取り入れているのかを見ることで監視しています。もう一つは、現在の株式指数に固執しないことです。AIの進展がどこまでいくか分からない以上、市場の時価総額にそのまま依存するのは中立的な見方ではないからです。


[トニー・パスカリエロ]
 このテーマについては、望むかどうかにかかわらず、非常に大きなエクスポージャーとレバレッジがかかっている状況です。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 AIから利益が生まれる可能性があるすべての方法を考えたとき、特定のエクスポージャーがそのことに適したものになっているかどうかは分かりません。これは、保有すべきではないと言っているのではなく、「自分の中立的な立場は何なのか?どう構築すべきか?」と疑問を持って考える必要があるということを言っています。
 人によっては、AIにまったく関連のないプライベートなエクスポージャーを多く持っていて、「私はAIに対するエクスポージャーがない」と気づくこともあります。そのため、「プライベート資産には指数がなく、パブリック資産には指数を使っているからそれでいい」と単純化するのではなく、その前提を積極的に問い直す必要があるということです。



5. ブリッジウォーターの投資哲学と文化


[トニー・パスカリエロ]
 最初の部分には同意しますし、あなたがこのAIについてのベンチマーキングの取組みで触れていたのも知っているのですが、時々、今がその瞬間なのかどうか悩んだりします。すべての企業が更に多くの資金を投入しているこのサイクルの中で、まだ多くの職が失われてはおらず、一般市場で誰もがアクセスできる素晴らしい機会が生まれているという、最も幸せな時期なのかもしれないと。
 ただ、あなたのアナロジーを使うなら、私が過ごしてきたアメリカ北東部のような伝統的な工業地帯では、雇用はすべて空洞化し、その10%という指標は、地域に根ざす社会に影響を及ぼすことになるでしょう。だから、もしその何倍にもなる可能性があるものについて話しているのなら、その前途がどうなるのか、あなたの考えは、かなり大胆なものになってしまうのではないでしょうか。
 とはいえ、現在は非常に刺激的な状況で、私はアメリカにとってホームフィールドであることの大きなアドバンテージが生まれていると思っています。次のゲームの局面でがどうなるか見ていきましょう。
 ところで、2023年初めに、あなたはBob Prince氏とGreg Jensen氏とともに共同CIOに就任しました。現在の役割や、どのように時間を使っているかについて少しお話しいただけますか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 最初に申し上げたいのは、私たちの投資哲学にしっかりと根を下ろしていただきたいということです。私たちはファンダメンタルかつシステマティックなアプローチを取っています。つまり、私たちは、あなたや私がこれまで何度も話してきたアイデアやコンセプトを、単なるアイデアにとどめるのではなく、それをアルゴリズムやシステム、つまり、私たちの会話の内容を反映させるものへと発展させることに真剣に取り組んでいます。
 考えを厳密に書き出すことで、そのアイデアをストレステストし、過去に、時を経ながらどのように機能したかを検証し、他の人もそのアイデアを参照して異なる視点から検討できるようにし、そして単に頭の中に浮かんだアイデアとして終わらずに、またトレードを行うことだけでなく、そのアイデアを持続的に活用できるものにします。
 CIOとしての役割は、アイデアを生み出すだけでなく、それをリサーチ・チームと連携して、実際に形にするまでを統括することです。アイデアについて厳しい質問を投げかけたり、アイデアを高めたり、何か重要な見落としがないかを考察することが求められます。Bridgewaterの40年にわたる歴史を土台にしながら、「今、何を見逃しているのか?どうやってさらに革新していくか?」を探ることは、非常に刺激的なことです。
 もう一つ重要な役割として、私たちはクライアント、主に大規模で高度な知識を持つ機関投資家のパートナーであることを重視し、彼らの立場に立って「自分たちならどうするか?」を真剣に考えています。多くの場合、クライアントの状況に応じて私たちのインサイトを活用する最適な方法を一緒になって考えます。時には広範な戦略につながることもありますし、そうでない場合もありますが、この役割は非常にやりがいがあります。大学の基金や年金基金の運用に対し、私たちの経済や市場に関する知識を使って、実際に影響を与えることができるという実感が生まれます。
 

[トニー・パスカリエロ]
 3人のCIOがいる場合、担当を分けて、一人が株式、もう一人が通貨、さらに別の人が金利といった具合に、資産クラスごとに役割を分担することが多いのでしょうか?それとも必ずしもそのような分け方ではないのでしょうか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 必ずしもそうではなく、その時々によります。私たち3人はもう長い付き合いなんです。私は20年近くこのチームにいますし、共同CIOのボブとグレッグは私が入る前に10年以上一緒に働いていました。ですので、数十年にわたる関係を築いてきました。お互いの強みや弱みをよく理解していて、私たちはそれぞれの視点を取り入れるのが好きです。そして、各自が本当に自分でリードして進めていくべき課題を選ぶことが多いのです。時には、それが資産クラスや特定の分野に沿ったものになることもありますが、そうではない場合もあります。例えば、ある特定テーマで10年も新たなアイデアを探求していると、「アイデアは出尽くしたかもしれないので、次は別のテーマに取り組むべきかもしれない」と感じることもあるので、そのような場合は、もっと流動的になります。私はパートナーのポートフォリオについてどう考えるべきか、そしてそのために我々のインサイトをどう活用するのが最善かということに強い関心があるので、そのようなテーマにおいては、私がリードすることが多いですし、もちろんその逆もあります。
 

[トニー・パスカリエロ]
 その結果、最終的にはそれぞれ異なるクライアントのポートフォリオができるということですか?それとも、そうしたボトムアップのアプローチが、すべてのクライアントに対応する単一のポートフォリオに集約できるということですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 私たちの提供しているものを見ていただくと、あまり手広くやりすぎないようにしていることが分かると思います。いわゆる「ピュア・アルファ」と呼ばれる、私たちのベストアイデアを詰め込んだ、どの市場にも相関しないコアなポートフォリオがあります。これは、相関性を避けながら安定したリターンを提供することを目的としたものです。
 ただ、それとは別に、特定のニーズに応えるために設計されたものもあります。最も分かりやすい例としては、クライアントのポートフォリオを見て「今、あなたにとって最善の選択肢は何ですか?」と問うと、「何が逆相関するのか?」や「クライアントのバイアスにどうアプローチするか?」という回答になることが多いです。そこで私たちは、クライアントのバイアスに直接向き合い、それを打ち消すことを意図した戦略をいくつか提供しています。単に相関しないオプションを提供するのではなく、「クライアントが何を保有しているかにかかわらず、これが最善の答えです」と言えるようにしているのです。これによって、クライアントは、私たちが全体のポートフォリオを理解でき、本当に適切なものを構築していると感じ、互いに満足することができます。もちろん、こうした戦略は他のクライアントにも適用可能です。
 多くの大規模な機関投資家のポートフォリオに影響を与える要因の一つは、経済環境がどう動いているかです。例えば、アルファの中に相反する見解を持ち込むことがあります。強い成長によって株式が好調になるのが分かっているなら、成長が弱い時に好調になるような見解を持ち込んでみます。すると、一見、いびつな形に見えるかもしれませんが、特定の目的に合わせたものが出来上がります。
 また、異なる経済成長やインフレ、金融政策、さらには異なるエクスポージャーを持つ国に投資する方法もあります。例えば、中国の問題を避けるために中国を含まないアジアのエクスポージャーを提案することもあります。これもまた、すべてが完璧というわけではないのですが、集中しがちな部分を補完してポートフォリオを調整するための方法です。

 


6. 投資業界での女性リーダーシップ


[トニー・パスカリエロ]
 それでは、ブリッジウォーターに入る前のことを少しお話しいただけますか。イスラエルで生まれ育ち、ホロコースト生存者の孫でいらっしゃいますね。ご両親はともに教授でいらっしゃいます。ご両親や祖父母が、あなたの世界観にどのような影響を与えたのか、お話しいただけますか?

[カレン・カルニオル=タンブール]
 私の両親や祖父母の人生の軌跡を振り返ると、彼らは本当に大きな変化を目の当たりにしてきたんです。祖母が、初めて列車を見たときのことを話してくれたのを覚えています。「家が車輪の上に乗って動いているみたいだった」と言っていました。彼女の人生は、ほとんど水道がないような状況から始まり、ホロコーストをさまざまな困難な形で生き抜き、最後は今の私たちが生きている世界とそれほど変わらないところにたどり着いたんです。もちろん、当時はiPhoneなんてなかったけれど、他の面では今ととても似ていました。
 この経験が、世界がどれだけ変わり得るかについて多くの視点を与えてくれました。また、彼ら全員が、生きていることの幸運さ、そして人生のあらゆる機会を最大限に活かすことへの感謝を持っていました。第二次世界大戦中、森の中で生き延びた祖父母や1973年の戦争で「自分は生きて帰れるとは思わなかった」と語った父の経験などは特にそうでした。これが、世界の変化の大きさや私たちが生きていることがどれほど幸運であるかという視点を与えてくれたと思います。
 また、教授である両親は、仕事に対して強い情熱を持っていました。子どもの頃、母が朝6時に起きて、ひらめいたアイデアをすぐに書き留めて論文を仕上げたいと言っていたのをよく覚えています。それを見て、自分もそんなふうに情熱を持てることをしたいと思うようになりました。それが人生を充実させる要素の一つだと思います。賢い人は常に周りにいるけれど、自分が心からワクワクすることをしていなければ、それは価値のあることではないと感じています。
 

[トニー・パスカリエロ]
 あなたはプリンストン大学に通っていましたよね。ノーベル賞受賞者であるダニエル・カーネマン氏のもとで学ばれました。彼は『ファスト&スロー』の著者で、あなたのシニア論文の指導教官でした。そして、あなたがプリンストンにいた2002年に、彼は経済学のノーベル賞を受賞したと思います。彼との研究が、どのようにあなたに影響を与えたのでしょうか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 まさに大学のキャンパスが目指した素晴らしい結果だと思います。つまり、人生のある段階で新しいアイデアに触れ、それが実際に自分を立ち止まらせ、考え方を形作り、世界の見方を変える瞬間があるということです。最初に彼の講義を受けた時のことを覚えていますが、意思決定について振り返り、そのプロセスにおける数々の欠点を考えるという考えに非常に引き込まれました。そして、それが私たちの日々の生活でどれほど重要であるかを感じました。
 それを学び、実際にその視点を持てたことで、すぐにブリッジウォーターとの繋がりを感じました。「この人たちは、良い意思決定をすることや、その際に直面する人間的な課題について本当に深く考えているんだ」と感じた瞬間です。
 また、ダニエル・カーネマンがノーベル賞を受賞したのは、彼が経済学において本当にパラダイムシフトを起こしたからだとも思います。彼は、人々の合理性など、当たり前とされていた前提を全く別の視点から考え、それがそのパラダイムを打ち破ったのです。そういったことに触れると、自分の持っている他の前提についても、同じように打ち破られる可能性があることを深く考えさせられます。そして、それが定期的に起こることに気づくと、世界や知識が常に変化し、進化しているのだと理解します。
 

[トニー・パスカリエロ]
 私たちは誰しも現在に対するアンカリング・バイアスを持っていて、未来も今日とあまり変わらないだろうと考えがちです。しかし、40年や50年先を振り返ってみると、世界は劇的に変わっているものです。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 投資の世界では、その傾向がさらに極端だと思います。投資においては、人々は過去数年のパフォーマンスにアンカリングしてしまいがちです。直近の結果が強く印象に残るからです。しかし、忘れがちなのは、そのパフォーマンスが過去数年のものであるということは、すでに価格に反映されているということです。多くの人は、同じことがまた起こると考えがちですが、それはすでに価格に織り込まれているため、次に同じ結果を出すのは難しくなります。
 つまり、過去がそのまま続くという心理的な期待とは逆のバイアスを持つ必要があるのです。
 

[トニー・パスカリエロ]
 プリンストンを卒業後、すぐにブリッジウォーターに入社し、債券チームの投資アソシエイトとしてキャリアをスタートされましたよね。そして、入社からわずか7年で投資リサーチ部門の責任者に就任し、急速にキャリアを積んでこられました。31歳という若さで業界でも非常に注目される女性の一人になられたのは、素晴らしいことだと思います。その間、投資プロセスの管理におけるあなたの役割がどのように進化していったのか、とても興味があります。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 私は運が良く、金融危機前にブリッジウォーターに入社し、その時代を実際に経験することができました。危機前の時期には、「これは持続可能なのか? どれだけのレバレッジが積み上がっているのか?」といった問いと向き合っていました。世界がまだその問題にあまり関心を持っていない頃にそうした議論をしていて、少しクレイジーだと思われることもありました。しかし、金融危機を経験したことで、私たちがよく話す「お金と信用」、つまりどれだけのお金が印刷され、それがどこに行くのか、そして債務の変化が経済や市場にどのような影響を与えるのかという考えを、実際にストレステストする貴重な機会を得ることができました。
 私は債券チームのアナリストとしてスタートし、金融危機に突入すると、まるでSWATチームの一員のように危機対応に携わる経験をしました。当時、私たちは安全な立場にあり、企業としてリスクにさらされていなかったので、次々と起こる理論的な問題、「これは大恐慌の時に起こったことだ」といった出来事が目の前で現実に起こっているのを目の当たりにしました。これらの経験を直接体験できたのです。
 その経験は、必然的に多くの分野にまたがるもので、お金や信用、経済の動きがどこに影響を与え、なぜそうなったのかについて議論をし、そのおかげで、私は研究プロセスのさまざまな部分を広い視野で監督し、新たなアイデアを取り入れる準備が整ったのだと考えています。
 

[トニー・パスカリエロ]
 2008年という年は、あなたにとって、どのくらい長い出来事だったのでしょうか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 2年間です。
 

[トニー・パスカリエロ]
 2年間ですね。私は1999年にキャリアをスタートさせ、そして2000年が訪れました。2000年3月から2002年10月にかけては、株式市場が毎日下がっているようでした。キャリアの早い段階でそうした経験をすることは、本当に貴重な教訓だと思います。
 但し、そのことに過度に影響されるのは良くありません。なぜなら、それは経済や市場の自然な流れではないからです。しかし、キャリアの初期に「右肩上がり」しか知らないことは、他の悪い習慣を形成する可能性があると感じます。だからこそ、いくつかの傷や過去の失敗を経験しておくことは、初期の段階では悪いことではないと思います。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 本当にその通りですね。
 

[トニー・パスカリエロ]
 あなたがブリッジウォーターに入社した時、投資部門で唯一の女性であり、ブリッジウォーターで初の女性CIOでもありました。また、女性が率いるテクノロジー・スタートアップに特化したエンジェル投資家としても活動されています。
 実は私も、グローバル・バンキング市場部門内で、女性ネットワークの共催に携わっており、業界全体で女性をどのようにしてリーダーのポジションにより多くつけることができるかに、個人的に興味を持っています。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 人々が持っている「リーダーはこうあるべきだ」という直感的なイメージを打ち破るのは、本当に難しいことだと思います。それは悪意からくるものではなく、誰も「特定の女性やマイノリティが嫌いだ」と言っているわけではありません。ただ、彼らが持っているリーダー像と一致しないために、微妙な形で現れてしまうのです。
 私もキャリアの中で、「投資家として印象がちょっと違う」といったフィードバックをよく受けました。彼らの目の前にいるのが、典型的なヘッジファンドのギャンブラーというイメージとは異なっていたからです。
 そのため、能力のある女性を前面に出すことは大切だと思います。リーダーに求められる姿は、必ずしも一つのイメージに限定されるわけではないという認識を持ってもらうためです。さまざまなリーダー像を見せる必要があります。特に、女性が初めてリーダーの地位に就いたとき、何か少し違ったものを持ち込むことが多いのです。それは、長い間「そのような人がリーダーになる可能性がある」と認識されてこなかったことも一因です。
 エンジェル投資について言及されましたが、私が特に興味を持つ理由の一つは、新しい会社やアイデアがある段階で人々は本能的な感覚に頼ることが多いためです。彼らが考えているのは、「自分にとって、この人は強力な創業者やCEOのように感じるか?」ということです。ハーバード・ビジネス・スクールの記事に、女性創業者と男性創業者に対して、質問内容が異なるという話がありました。女性創業者には、「これがうまくいかなかったらどうしますか?」というリスク管理に関する質問が多く、一方で男性にはビジョンやワクワクする内容について聞かれることが多いそうです。このように、女性は別のフレームに入れられてしまうのです。
 これは悪意からくるものではないと思います。ただ、過去に見てきたリーダーたちのイメージからきているのです。だからこそ、リーダーが少し違った姿をしている事例を積極的に称賛し、リーダー像に対する人々の考え方を変えていく必要があります。

 


7. ESG投資の市場ポジション


[トニー・パスカリエロ]
 冒頭で話したように、あなたはブリッジウォーターのサステナブル投資の取り組みを共同でリードされています。今後、ESG要素が投資戦略や市場の動向にどのような影響を与えるとお考えですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 以前は、サステナブルな投資が必ず勝つという主張をする人が多かったのですが、今ではESGが現実的な要素であると認識されています。ただし、他の要素と同様に、それが勝つかどうかは、世界がどこに向かっているかによります。つまり、世界がこれらの要素を優先するのか、規制がどうなるのか、そして市場にどの程度織り込まれているのかが鍵です。すでに予想されていることなのか、それともまだなのかを投資家が考慮する必要があるわけです。
 特にコモディティのような市場では、「エネルギー転換は起こるのか?そのスピードはどうか?」といった質問をすることは直感的に理解できます。これも、他の要素と同じように、世界がどう変わるのかを予測するために知っておかなければならないことです。
 もう一つ言えるのは、特に気候変動に関して、多くの投資家がこのテーマに関心を持ち、自分たちの資本を使って世界に影響を与えたいと考えるようになったことです。これは意思決定に影響を与える要素となっています。たとえば、今日のテクノロジー企業でも、AIの未来に対してどうあるべきかを考える中で、環境への取り組みをどれだけ重視するかという難しい選択を迫られています。
 彼らには、投資家や従業員、その他のステークホルダーが「あなたのAIへのアプローチが重要だ」と伝えてくるエコシステムがあります。このようなエコシステムが、さらに多くのプレーヤーがESG要素を考慮し、どちらの方向に舵を切るかを決める自己強化型のメカニズムを生み出しているのです。
 

[トニー・パスカリエロ]
 ありがとうございます。最後にフォーマルな質問を一つだけさせてください。カジュアルな質問も後ほどさせていただくと思いますが、皆さん、いつもブリッジウォーターの企業文化について質問されると思いますが、その際、どのように答えていらっしゃいますか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 正直に言うと、厳しいフィードバックを受け入れる覚悟が必要だということです。そして、それが簡単ではないことを理解する必要があります。人は自分の考えを気に入っていて、自分のアイデアが素晴らしいと思いがちです。でも、実際には多くの人があなたに向かって率直に「これは良い、これはダメ」と言う場面に直面することになります。そのことが自分を成長させると本当に信じることが大切で、ブリッジウォーターの文化で一番重要なのは、まさにその信念にあると思います。
 ブリッジウォーターの文化では、自分をオープンにすることが求められます。みんなが率直に意見を述べます。あなたが何か大好きなことをしていたとしても、たとえば投資アイデアを出したとしても、「それはこういう理由でダメだ」と言われることもあります。誰も遠慮することはありません。そしてその際に「これこそが自分を強くするんだ」と思える冷静さが必要です。最終的には、正しいかどうかを決めるのは市場です。自分を同僚に証明することが目的ではなく、みんなが一つのチームとしてお互いをより良くするために存在しており、そこに自分も参加する覚悟が必要です。
 一度このプロセスを経験すると、「本当に成長できたな」と振り返って思うことができます。キャリアを振り返っても、もし周りの人たちが遠慮して「彼女は新人だし、若いし、恥をかかせたくないから、優しく言おう」と思っていたら、私はここまで来ることはできなかったでしょう。次に何をすべきか、どうやって成長すべきか、どんな間違いがあったのかを見つけるために、その厳しいフィードバックは必要だったのだと思っています。
 

[トニー・パスカリエロ]
 そのような批判に直面することは、時間が経つにつれて楽になるのでしょうか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 いくつかの点で、決して簡単にはならないと思います。誰だってフィードバックを聞くのは好きじゃないです。ただ、数年経つと、自分の居場所だと感じられる転機が訪れることがあります。何度も意見を交わしていくうちに、「みんな本当に同じチームなんだ、これは自分を成長させるためのものなんだ」と理解できるようになるのです。そのマインドセットがとても助けになります。でも、入社初日からそう感じることができる人はいません。初めて足を踏み入れたばかりの場所で、すぐにそんな感覚を持てるはずがないのです。
 この文化が機能するためには、人間関係を築くことにあります。周りの人たちが本当にあなたを成長させようとしていて、会社の成功を願っていることがわかれば、どこからその意見が来ているのか理解できるようになります。その感覚を得るまでには、少し時間がかかると思います。
 

[トニー・パスカリエロ]
 そして、ミッションについては全く混乱がないのですね。ミッションは、クライアントのために最高の仕事をすることですから。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 その通りです。そしてそれだけではなく、もしその意欲を保てなければ、生き残れないという深い不安や恐怖感もあります。投資会社は数多く存在していますが、その多くは失敗しています。この業界では、過去の実績に甘んじることは許されません。お客様が私たちのところに引き続いて来てくださるのは、私たちが単なる通過点ではなく、常に卓越した成果を提供できるからこそだと考えています。だからこそ、常に恐怖心を持つ必要があります。「これで十分だ」と思い始めた瞬間、会社は生き残れなくなると理解しなければなりません。

 


8. ライトニングラウンド


[トニー・パスカリエロ]
 分かりました。それでは、最後にライトニングラウンドを行いたいと思います。いくつかの質問に簡単にお答えください。
カレンさん、投資家としての最大の強みは何ですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 いろいろなバラバラな要素を結びつけて全体を見渡すことだと思います。そして、おそらく好奇心が大事ですね。効果的に投資をするためには、世界に対して本当に興味を持つことが必要です。
 

[トニー・パスカリエロ]
 最初の部分は、モザイクのように考え方が働くという意味でしょうか?それとも、そのモザイクを組み立てる能力のことでしょうか?あるいは、それがシステム化されたプロセスの一部でもあるのでしょうか?または、その両方ですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 効果的にした理由の一つは、例えば銅市場のような特定の分野からスタートし、その分野には限られた重要な要素があって、それらをシステム化するのに一生を費やすこともできる、という点です。でも、全く異なる市場を見て、他の分野で見たものの「エコー」を感じ取って、それからインサイトを得るというのは別のスキルです。視野を広げ、異なる分野を行き来する能力が、初期の頃に役立ったと思います。
 ただ正直なところ、ブリッジウォーターの文脈では、自分の強みを語るよりも、改善すべき点を話す方が簡単なんです。
 

[トニー・パスカリエロ]
 知的好奇心についてですが、仕事以外でも読書をされますか?たくさん本を読まれるのでしょうか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 そうですね、正直なところ、子どもができてから一番恋しいのは、邪魔されずにゆっくり読書する時間が取りにくくなったことです。でも、やはりたくさんのことに興味があります。仕事に直接関係していないものやすぐに市場で活用できない本でも、好奇心が湧いて読むことが多いです。そして後になって、それらが繋がりを持つことがよくあります。
 市場についても同じで、明日必要なことだけでなく、優先度が高くないものにも目を向けて新しいアイデアを生み出すためには読書は大事です。
 

[トニー・パスカリエロ]
 確かにそうですね、私も全く違う分野の本を読んでいる時に、ふと仕事に関連することが頭に浮かぶのが興味深いです。チャーチルの名言があったと思いますが、彼は戦争中も多読家で、「仕事があるのに、どうしてそんな本を読む時間があるんだ?」と聞かれた時、「読書の時間が思考の時間なんだ」と答えたそうです。日々の仕事に直接関係ないテーマでも、仕事に繋がる読書には大きな価値があると思います。
 では、今までに受けたアドバイスで、最も良かったものは何ですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 レイ・ダリオからキャリア初期に受けたアドバイスが一番印象に残っています。彼は「多くの大学生がそうであるように、君は目の前にある情報に基づいて答えを出すように訓練され過ぎている」と言いました。本のレポートや論文を書く時、知っていることに基づいて答えを出そうとする傾向が強いということです。でも、実際に重要なのは、正しい問いを立てて、その答えが分からないことを認めることなんです。その問いが重要であることに気づき、たとえ答えがわからなくても、その問いに向き合わなければなりません。データが揃っていて分析の道筋が見えるからといって、答えがわかる問いに引き寄せられるのではなく、答えが見えない問いにこそ向き合うべきだということです。
これが、私にとっておそらく最も良いアドバイスでした。
 

[トニー・パスカリエロ]
 あなたが最も尊敬する投資家は誰ですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 少し違った答え方をさせていただきますが、シンガポールのGICやカナダのCPP、オーストラリアのFuture Fundといった大手の機関投資家たちを尊敬しています。彼らの投資手法は、私たちが行っているものとは異なりますが、期待や従来の考え方の枠を打ち破ってきた点で非常に素晴らしいと思います。市場の時価総額に縛られず、資産クラスにこだわらず、目標を新しい視点で考えるなど、彼らはイノベーションを起こしてきました。
 ブリッジウォーターとは異なる環境であり、ステークホルダーもガバナンスも異なりますが、その創造的な発想で未来の富を築くための最良の方法を追求している点に深く感銘を受けます。結局のところ、私たちが行っていることもその大きな目的に繋がっていて、投資の最終的な目的は、将来の世代のために富を創出することです。彼らは、その最前線で実際にそれを実現しているのです。 

[訳注]
GIC(GIC Private Limited)は、シンガポールのソブリンウェルス・ファンド(SWF)である。
CPP(CPPIB:Canada Pension Plan Investment Board)は、カナダ年金制度投資委員会で、カナダの年金基金であるカナダ年金制度(CPP)の資産を管理・運用するための組織のこと。
Future Fundは、オーストラリア政府が2006年に設立した国営の投資ファンドで、投資対象は、株式、不動産、債券、インフラ、プライベートエクイティ、ヘッジファンドなど、多岐にわたり、政府からの干渉を受けずに独立した投資委員会が運用方針を決定する。

[トニー・パスカリエロ]
 オフィスの外ではどのように過ごしていますか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 主に子どもたちと過ごしています。3歳半と1歳半の娘がいて、一緒に過ごす時間は本当に幸せです。
 

[トニー・パスカリエロ]
 最後に、今、世界で最もワクワクしていることは何ですか?
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 今の時代にこの仕事ができるのは本当に素晴らしいことだと思います。先ほどの好奇心の話に戻りますが、今は前例がなく、異なることがたくさん起こっていて、とても刺激的です。毎日、こうしたことについて考えたり、読んだり、深く考察したりするのが自分の仕事だということに、とても幸運を感じています。それは、単なる余暇の選択ではなく、実際の職務として取り組めるのです。
 例えば、AIの進化を考えるとき、それを解き明かすことほど興味深いことはないでしょう。これは、今後数十年で最大の出来事になるかもしれません。また、地政学的な緊張感も常に限界ギリギリの状態に感じます。それは「未知の未知」ではなく「既知の未知」であり、多くの不満や変革の圧力が世界中で高まっているのは明らかです。大きな疑問は、それがどこへ向かい、どのように発展していくのかという点です。
 今、みんなが合意しているのは、これまでとは異なる新しい時代のパラダイムに入っているということです。そのパラダイムが具体的に何を意味し、いつ現れるのかを探求できることに、私はとてもワクワクしています。
 

[トニー・パスカリエロ]
 同感です。先日もそのことを考えていたのですが、市場は常に興味深く、常に取り組むべきことが存在します。しかし、特にここ数年、COVIDやポストCOVIDの時代を、その前の時期、例えばリーマンショック後からCOVID前の時期と比較すると、本当にその違いは際立っています。
 もちろん、それらの過去にも様々な出来事がありました。ヨーロッパ危機、石油・ガスのブームとその崩壊、そして今花開いている多くの要素がその時代に生まれています。ただし、非常に停滞していた時期もありました。低い経済活動の速度、低金利、低ボラティリティです。最近の時代がいかにアクティブで興味深いか、そして今後もそうであることを期待しています。そのことを前のサイクルと比較して若い世代が十分に理解していないのかもしれないと思っています。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 本当にそうですね。面白い時代を生きられますように!
 

[トニー・パスカリエロ]
 ご参加いただきありがとうございます。本当に感謝しています。
 

[カレン・カルニオル=タンブール]
 こちらこそ、呼んでいただきありがとうございます。



9. 関連コンテンツ




10. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからお聞きになれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/10/12 EST)



御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 


だうじょん


免責事項


 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。




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この記事は noteマネー にピックアップされました

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