【エッセイ】「怖くないんか?」
試行錯誤中のLaLaLaです。
この二つの物語はリアルで私が経験したことです。
営業スタイル①トーク②リスニング
若いころは、しゃべる(顧客を説得する)これが営業だと思っていた。
経験を積むと、聞く(傾聴)これが営業だと悟る。
顧客に聞かれたことはもちろんしゃべる。
顧客が聞きたいだろうけど何を聞けばいいかそのことは、聞かれる前にしゃべる。
このスタイルは、今の私の小説の文体になっている。
私の小説をよく読んでいただいてる方はすでにお気づきかもしれませんが、余分な説明はしない。
ここ記事は、先月投稿したものです
若い頃の話だ。

入社1年目、不動産会社で分譲地の営業をしていた。いわゆる飛び込み営業で、市営住宅を一軒一軒回ってはインターホンを鳴らす毎日だった。
ある日、いつものようにピンポンと鳴らす。中に人の気配はあるのに出てこない。もう一度、さらにもう一度としつこく鳴らした。
すると、ドアが勢いよく開いた。
出てきたのは、いかにも「その筋」とわかる男だった。
「お前、うるさいな💢。ちょっと入れや」
逆らえる空気ではなかった。言われるままに部屋に入ると、そこには刺青を入れた男が4人、麻雀をしていた。
「やばい☠️」
本気でそう思った。
けれど、その瞬間、別の感情も湧いた。
「でも…やっと中に入れた」
朝から何十件も回って、誰にも話を聞いてもらえなかった日だった。
覚悟を決めて言った。
「営業で回ってます。よかったら話、聞いてもらえませんか?」
一瞬の沈黙。
そして一人が笑った。
「お前、根性座っとるやないか。話してみいや」
そこからは、必死だった。恐怖を押し殺して、とにかくセールストークを最後までやり切った。
話し終えると、男たちに囲まれた。
「怖くないんか?」
正直に答えた。
「怖いですよ。逆に、あなたも4人のヤクザに囲まれたら怖いでしょ?」
一番年配の、幹部らしき男がふっと笑った。
「まぁ、そらそうだわな。でもお前、なかなかやな。ええ根性しとる」
それが評価だったのか、空気が一気に和らいだ。
結局、何事もなくその部屋を出ることができた。
命拾いした、というより、
「営業として覚悟を試された」ような一日だった。
数十年後の話だ。
あの頃とは別の不動産会社で、私は管理職になっていた。
ある日、部下から連絡が入った。
「お客様とトラブルになっていて…相手が、ちょっと普通じゃなくて」
話を聞けば、どうやら相手はその筋の人間だった。
若い頃の記憶が、少しだけ頭をよぎった。
すぐに現場へ向かった。
部屋に入ると、やはり空気でわかる。相手は静かに怒っていた。声を荒げるわけでもない。ただ、圧がある。
私は席に座り、ひたすら話を聞いた。
一時間ほどだろうか。
言い訳もしない。弁解もしない。ただ、相槌を打ちながら、最後まで話を受け止めた。
やがて相手の話が一区切りついたところで、私は静かに言った。
「本日はお時間いただき、ありがとうございました。こちらも業務がありますので、これで失礼します」
それだけ言って、その場を後にした。
若い頃の私は、恐怖の中で必死に言葉を絞り出していた。
あのときは、「話してもらうこと」に価値を感じていた。
けれどこの日、私がやったのは逆だった。
「話をさせて、受け止めること」
何も言わないことが、最も有効な場面もある。
あの頃、ヤクザの部屋で必死に営業していた自分は、きっと想像もしていなかっただろう。
黙っていることが、仕事になる日が来るなんて。
私は、知っていた。
喋る力よりも、聞く力のほうが強いということを。
若い頃は、言葉で押し切るしかなかった。怖くても、黙れば終わると思っていたからだ。
けれど年月が経って気づいた。
人は、言い返されると構えるが、最後まで話を聞かれると、少しずつ力を抜く。
あの日、私は何も語らなかった。
ただ聞いた。
それだけで、場は収まった。
強さとは、声の大きさでも、言葉の巧さでもない。
相手の言葉を受け止め続けられることだと、あの時はもう、知っていた。知っていた。


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