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フリント『現代地政学』(1) グローバル時代の「地政学」とは、どのようなものか



「なぜ、ここで争いが起こるのか?」
「なぜ、この国が台頭するのか?」
という問いに答えるのに、
伝統的な「地政学」では対応しきれない、という問題意識から、書かれているのが本書の特徴だ。

伝統的な地政学は、
(そこに絡む思惑はともかくとして)地形や資源にもとづく
“客観的で、静態的な分析”として語られるものであった。

しかし、グローバル化と情報化が進む現代では、
「地政学」そのものが、“動態的な知”へと変貌した、とフリントは述べている。

本書によれば、
軍事、経済、技術、文化――
あらゆる領域が、複雑に絡み合い、地図上の力学は日々書き換えられている
のである。

このような変化を読み解くヒントを得るために、
「その枠組みが大きく変貌しつつある国際社会の《いま》を理解し
《これから》を見極める思考力を養う、格好の教科書」である本書を、読んでいきたい。


『現代地政学 グローバル時代の新しいアプローチ』
(Colin Flint, Introduction to Geopolitics)
コーリン・フリント著/原書房



・フリントの立場


本書でフリントは、
「伝統的地政学」×「批判地政学」×「フェミニスト地政学」
と、いうように、三つの「地政学」の視点を取り入れている。

まず、「伝統的地政学」は、
地理的な条件(主に、地形と位置と資源)が、国際政治に与える影響を重視する



フリントは、
マッキンダー(1861~1947 イギリス)、
マハン(1840~1914 アメリカ)、
ハウスホーファー(1869~1946 ドイツ)の三者の理論を紹介している。


マッキンダーは、
「ユーラシア大陸とアフリカ大陸」とを結びつけて「世界島」と呼び、
「世界島を統治する者は世界を支配する」として、
「大陸」の影響力に注目した「ランドパワー」論を展開した。

マハンは、
海上輸送のネットワークと「海軍力」の発展により、
「国家的および世界的な影響力が獲得・強化される」という
「シーパワー」の優位論を展開した。

そして、ハウスホーファーは、
世界を「汎地域」という3つの大きな地域ブロックに分け
(アメリカ・イギリス・ドイツが「中核」国として、それぞれの地域を支配する)、それぞれが自給自足をするべきであることを論じた。


現代でも、
それぞれの国家戦略の主張はともかくとしても、
陸・海・「汎地域(地域ブロック)」という視点からの分析は、
大いに参考にされている。

陸・海・地域ブロックと、マッキンダー・マハン・ハウスホーファーの分析視点は違っていても、「自国が世界でどのように競争すべきか」の戦略を練るために、地理的条件を検討したのは共通だ


このように、地理的な条件は、
国際政治経済に大きな影響を与えるものとして、
考慮に入れるべきものであることを、フリントは強調している。

しかし、その一方で、このような従来型の地政学の理論だけでなく、
「批判地政学」や「フェミニスト地政学」からの視点も現代では必要であることを、フリントは説いている。


・「批判的地政学」と「フェミニスト地政学」とは何か


 二つの「地政学」は、
第二次世界大戦後に形成された理論である。

従来の「地政学」的理論が、
いかに政治権力的な観点から構築されたものであるのか、
について批判的な分析を行っているのが、特徴である。


フリントは、「批判的地政学」からは、
国際政治は地理的な決定論のみで動いているのではなく、
“政治に関わる人間が、どのように、自らの国家と他国を位置づけるのか”が、大きく影響している、という視点を取り入れるべきであることを説いている。

そして、「フェミニスト地政学」からは、
女性やマイノリティに対する抑圧の問題だけでなく、
貧困や差別問題も構造的な暴力問題として、
「地政学」的な分析に取り入れようとする視点
が学べる、という。


実際に、移民・難民問題などを考える際に、取り入れるべき視点であろう。

“バタフライ効果”ではないが、
世界のどこかで起きた政治・経済・(パンデミックなどの)保健衛生的な出来事が、他の場所にも大きな影響を与えることが、
グローバル時代では、大いにありうるのである。

難民キャンプや異常気象による干ばつなど、あらゆることが「地政学」に影響する


・「地政的コード」


では、「ある国」が、自らの「国家戦略」を構築するときに、
どのようなことを考慮に入れるのだろうか。

フリントは、以下のように説明する。

「ある国が世界に対して自らを方向付けするやり方は
地政的コードと呼ばれる。
世界各国は、5つの主な想定から成る地政的コードを定義する。


(a)目下の同盟国および潜在的な同盟国はどの国か。

(b)目下の敵国および潜在的な敵国はどの国か。

(c)どのようにして同盟関係を維持し、潜在的な同盟関係を促進するのか。

(d)目下の敵国にどうやって対処し、脅威の出現にどのように対処するのか。

(e)上述の4つの想定を国民とグローバル社会に対してどのように正当化するのか

このことを、具体的な行動と共に考えると、以下のようになるだろう。

(a)誰(国・企業や国際的な組織など)が、味方なのか
――自国の安全保障や経済的利益を共有するパートナーの定義

(b)誰(国・テロリストなど)が脅威なのか
――自国の安全保障を脅かす存在の定義

(c)(d)脅威にどのように対応するか
――外交・軍事力・経済制裁など具体的な対応戦略

(e)どのような理由で行動するか
――歴史的記憶・アイデンティティ・ナラティブ(による正当化)

と、いうことに加えて、

※どこで行動するか
――国家が影響力を及ぼそうとする地理的範囲

 も、考えられるだろう。

 このように、フリントは
「地政学」は「地理」や「資源」が決定しているのではなく、人間が構築していくものである、と考えているのである。

グローバル時代は、政治家や軍人だけでなく、ビジネスパーソンや難民やテロリストなど、様々な人間の構想や行動が「地政学」に影響を与える


そして、
これからは“誰が、どのように、なぜそのような「地政学」的な語りを行うのか”を、とわねばならない、とフリントはいう。


なぜなら、グローバル時代は「ナラティブの競争」の場であるからだ。

このことは、
①「国境」の制定、
②国際秩序の正当性の争い、にも関わるのである。

次回からは、「国境」問題や、「世界的リーダー(覇権国)」についてのフリントの見解を語りたい。



地政学が“構築される知”であるという視点は、 モンテスキューがローマ史から示した「国家を動かす原則」とも響き合う。
この構造については『ローマ人盛衰原因論』第1回で詳しく扱っています。


『現代地政学』の連載は、こちらにまとめています


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