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アダム・グラントに会いに行く(第2回)~アダム・グラントとは何者か~

1.アダム・グラントとはどんな人物か

さて、アダム・グラントとはどんな人物なのであろうか。
2022年に発表された「THINK AGAIN」(三笠書房:楠木建監訳)には、彼についてこう紹介されている。


アダム・グラント Adam Grant  ペンシルベニア大学ウォートン校教授。組織心理学者。1981年生まれ。同大学史上最年少の終身教授。『フォーチュン』誌の「世界で最も優秀な40歳以下の教授40人」、世界で最も重要なビジネス思想家50人(「THINKERS50」)のうちの1人に選ばれるなど、受賞歴多数。「グーグル」「ディズニー・ピクサー」「ゴールドマンサックス」「国際連合」などの一流企業や組織で、コンサルティングおよび講演活動も精力的に行う。デビュー作「GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代」は31カ国語に翻訳され、全世界でベストセラーに。続く『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(以上:三笠書房)も『ニューヨークタイムズ』誌でビジネス書売上第1位、アマゾンUSでも第1位(企業文化)を獲得している。

史上最年少で終身教授となったとあるが、年齢は28歳の時だとされる。終身教授(tenured professor)とはあまり聞きなれない肩書だが、アメリカでも限られた大学教員にしか与えられない。文字通り、解雇されることが極めて難しい永続的な地位のことである。終身教授の地位を得るには、通常、数年間の助教や准教授としての勤務を経て、優れた研究成果、教育実績、そして大学への貢献が厳格に審査される。このプロセスをクリアすることは、学術界において最高の栄誉の一つとされている。アダム・グラントの場合、ウォートン校史上最年少の28歳でこの地位を獲得したことが、彼の研究成果と将来性が飛び抜けて高く評価されたことを示している。

彼の名前を一躍有名にした「GIVE&TAKE」の監訳者、楠木建氏(一橋ビジネススクールPDS寄付講座競争戦略特任教授)は、この本を「人間の本性を見据えた骨太の書」として紹介し、アダム・グラントについてこう述べている。
「…著者は優れた研究者であり、本書で展開されている議論は、どこをとっても行動科学の理論と実証研究に裏打ちされている。論理が実に頑健だ。その点で本書は、個人的な経験や思いつきで書かれた自己啓発のビジネス書とは一線を画している

「GIVE&TAKE」「ORIGINALS」「THINK AGAIN」(いずれも三笠書房:楠木建監訳)

2.「GIVE&TAKE」から見え隠れする彼の人物像

「GIVE&TAKE」を読まれた方は多いだろう。皆さんはどんな感想をお持ちだろうか。私はタイトルを見たときは、正直に言ってよくある自己啓発書だと思った。副題にある「成功」という文字にも、やや抵抗があった。当時話題になっていたので買ったが、しばらく本棚に眠っていた。

それから数年後、何となく本書を手に取って読み始めた。「ギバー(与える人)」「テイカー(受け取る人)」「マッチャー(バランスをとる人)」という類型も、あまり好きではなかった。そんなに簡単に類型化できるのか?…しかし読み進めるに従って、次々と興味深いエピソードが登場する。とにかく彼の紹介するエピソードが実に面白いのだ。しかも1つ1つに研究の裏付けがある。380ページほどの本だが、一気に読み終えた。

「GIVE&TAKE」の面白さについては後の連載で詳しく紹介する予定だが、パート7にアダム・グラントが「自己開示」をしているくだりがある。ギバーはお人好しなので失敗することが多いといわれるが、アダム自身が、まさにお人好しのギバーなのである。彼は大学1年のとき「レッツゴー旅行ガイドブック」の広告アルバイトをしていた。そのときの失敗談が本書を書くきっかけになったという。

「私は、自ら発見した『踏みつけにされない方法』をギバーに伝授することに残りの人生を費やすことを決めたのである。」
(「GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代」P325 三笠書房:楠木建監訳)

私は自己開示する研究者が大好きだ。とくに失敗談は、私自分も失敗ばかりしてきたので、大好物である。失敗でなくても「なぜこの人はこの道に入ったのだろう」ということを知りたくなる。その意味で、私の密かな楽しみは研究者の「あとがき」を読むことである。そこには心あたたまる人間らしい一面がたびたび顔を出す。

少し脱線するが、私が師事している立教大学院リーダーシップ開発コースの中原淳教授の「あとがき」も実に感動的だ。例えば「人材開発・組織開発コンサルティング」(ダイヤモンド社)の「おわりに」にはこうある。

「本書を書き終えるにあたり、筆者が、過去抱き続けてきた「思いの吐露」からはじめたいと思います。わたしは、これまで、自分のことを「どっちつかずな存在」だと思いながら、研究を続けてきました」

「結局は、これまでも、これからも、同じである。
わたしは、わたしを抱えて生きていくしかない。
わたしは、どこか「遠い所」にはいない。
「今、ここに」いるわたしから、はじめるしかないのだ」
(「人材開発・組織開発コンサルティング」ダイヤモンド社:中原淳P458,459)

立教大学院入学を決意したのも、中原教授のこの「あとがき」を読んだことが大きい。

3.人物像と研究成果

ここでアダム・グラントに話を戻そう。彼を「天才」と呼ぶ人は多い。28歳で世界各国から超エリートが集うペンシルベニア大学の終身教授となったのだから、当然かもしれない。しかし私が興味あるのは、そこだけではない。むしろ彼の自分の失敗をさらけだす人物像にある。彼は「GIVE&TAKE」を執筆する10年以上前に、自らが「お人好しのギバー」であることに気づいた。おそらくそれが心のどこかにひっかかっていたのだろう。組織心理学を専攻したこととも関連しているのかもしれない。
アダムの研究成果がいったい彼のどこから生み出されているのか。人物像と研究成果は一体不可分である。書籍だけでなく最新の彼のポッドキャストやニューズレターからもアダムの人物像について読み解きながら、その実像に迫っていこうと思う。

次回は、「なぜ彼に会いたいのか(彼の関心を追体験する旅)」について書く。

 




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