人から有益なアドバイスを得るには~フィードバックとの違い~アダム・グラントに会いに行く~#19
こんにちは!去年9月から連載をはじめた「アダム・グラントに会いに行く」。最新刊「HIDDEN POTENTIAL」のなかの興味深い知見・エピソードを紹介しています。今回のテーマは「人から有益なアドバイスを得るには?」です。
1.人前で話すことが苦手だったアダム・グラント
アダム・グラントのTEDスピーチは、これまで約3000万回再生されているといわれる。自信たっぷりに話すアダム・グラントだが、実は極度の恥ずかしがり屋だった。子どもの頃から内向的で、授業中に手をあげるだけでも緊張した。かかってきた電話に出るときも、怖くなって声が上ずる始末だったという。
そこで彼は大学院時代、人前で話すことへの恐怖を克服しようと決意した。暴露療法の1つである「フラッディング法」(註1)を用いて、人前に自分自身をさらす訓練をした。友人たちが履修する学部課程の授業で、無償のゲスト講師として講義を行うことを申し出たのである。
講義後アダムは、自分の行った講義がどうだったか、意見を得たいと考えた。そこで参加した友人たちにフィードバックを求めたところ、「興味深い内容だった」「熱意が感じられた」といった、あたりさわりのない言葉しか返ってこなかった。
往々にして我々は、相手に対する意見があっても、口を閉ざしてしまう。こんなことを言ったら気分を害するのではないか、悲しませたり、落胆させたりするのではないか。相手に対する気遣いや配慮から、どうしても本音を控えてしまいがちだ。
しかしそれでは、自分の学びにはつながらない。アダムは、なんとかして学生たちから率直かつ有益なフィードバックを得たいと考えた。そこで「匿名アンケート」を実施することにした。そうすれば、臆することなく、率直なフィードバックを得られると思ったからである。

2.酷評だらけのアンケート
すると、学生たちから辛辣な意見が続々と寄せられた。
「緊張しすぎている」「まるで呼吸音がダースベーダーのようだ」
やはり、アダムの講義は、あまり魅力的ではなかったようだ。
これだけではない。その後、アダムはある大学で教員採用試験に臨んだ。しかし結果は不採用。その理由は、数か月後に同僚が教えてくれた。「君には自信が欠けている。だから学生から敬意を得られないんだ」。
さらにその翌年、アダムはアメリカ空軍で初めて指導者向けの講座を開いた。その際、複数の大佐から手厳しく非難された。「この講座で私が得たものは何もない。むしろ講師である君のほうが我々から有益な情報を得ただろう。」
普通だったら、自分には人前で話す才能がないと自信を失ってしまうところだろう。さて、アダムは次にどのような行動をとったのだろうか。
3.フィードバックとは何か
その話をする前に、「フィードバック」について少し触れておこう。「助言」「アドバイス」とは何が違うのだろうか。
フィードバックとは、もともとは制御工学(システム工学)の用語で、「出力結果を入力側に戻し、目標値とのズレを修正する」仕組みを指す。そこから、ビジネスや教育の場面でも比喩的に用いられるようになった。
「期待される目標と現在のパフォーマンスとの間のギャップを埋めるために必要な情報を提供する行動」(Hattie & Timperley)とされ、「今、何が起きているか(事実)」を客観的に相手に伝え、鏡のような役割を果たす。
立教大学院の田中聡准教授によれば、フィードバックには「良いフィードバック」と「残念なフィードバック」があるという。

ここで注目してほしいのは、フィードバックはあくまで「第三者の視点を提供する」ものだということだ。「アドバイス」するのとは違う。この2つは明確に区別すべきだ。
ではアドバイスはフィードバックとどこが違うのか。その1つが、アドバイスは「主観の押し付けになりやすい」というものだ。フィードバックは判断を当事者に委ねるものである。アドバイスは「一方的な評価になりがちで、相手から判断力を奪う」という指摘もある。

4.アダムはあえてアドバイスを求めた
さて、アダム・グラントの話に戻ろう。学生たちから酷評された彼は、次にどうしたのか? あえて「アドバイス」を求めたのである。
なぜか?フィードバックは「相手の理想に近づけるため」という目的を理解していない人が多い。そのため、学生たちにフィードバックを求めると、どこが良かった、悪かったという「評価」や「感想」に終わってしまう。それはあまり有益なことではない。
逆にアドバイスは「次回に改善すべき点」に明確に焦点を当ててくれる。複数の研究によれば、依頼の仕方を少し変えるだけで、より具体的かつ建設的な意見を引き出すことができる。
アダムはアンケート用紙の質問をこう変えた。「私の改善すべき点はどこですか?1つ挙げてください」。
とたんに受講生は有益な助言をあげてくれるようになった。例えば「笑いをとれそうもないジョークはやめたほうがいい」。また、「冒頭で少し個人的なエピソードを盛り込むと親近感がわく」などである。
5.TEDトークでの成功体験
それから10年間、アダムはひたすら練習を重ね、アドバイスを求めていった。彼のプレゼン能力は向上し、やがてTEDトークの出演につながった。壇上のプレゼンの様子は、下にリンクを張っておいたのでご覧いただきたい。
彼の「ダースベーダー」はほんの少しだけ顔を出すにとどまった。それから5年間で3度、彼はTEDのレッドサークルに立ったのである。
6.信頼できる人からのアドバイスに絞ろう
さらに彼は言う。「アドバイスのすべてが等価ではない」。これはフィードバックでも同じだ。人から何か意見をもらったとき、それをすべて真に受ける必要はない。大事なのは受け取る側の取捨選択、すなわちフィルタリングである。
情報源として信頼できる人をどう見極めるのか。「HIDDEN POTENTIAL」に興味深い図が掲載されている。アダムは「信頼性」を
「配慮」
「信憑性」
「親密性」
という3つの要素に分類した。その3つが重なり合ったところがある(下図)。それを最大限に吸収しているという。

たとえ信頼できる人であっても、建設的な批判を受けたとき、感情的に取り乱し、それを改善の糧にできずに終わる人は少なくない。批判からいかに学びとることができるか。いつも心にとめておきたい言葉だ。
アダム・グラントとは?
ペンシルベニア大学ウォートン校教授。組織心理学者。1981年生まれ。同大学史上最年少の終身教授となる。「世界で最も影響力のある経営思想家10人」の1人と目され「フォーチュン」誌の「世界で最も優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれるなど、受賞歴多数。彼の著作は世界で数百万部を売り上げるベストセラーとなり、TEDトークは3000万回以上再生されている。元ジュニアオリンピックの飛込選手。
この連載「アダム・グラントに会いに行く」は、そんな彼を偏愛する「とある大学院生(私)」が、ツテもコネもないのに来年の夏に彼に会いに行くまでのドキュメントである。
(註1)フラッディング法(洪水療法)…暴露療法の1つ。セラピストは恐怖症の治療を行う際、2つの暴露療法を使い分ける。1つは「系統的脱感作療法」とよばれるもので、恐怖を覚える対象に徐々に慣らしていくものである。フラッディング法はその逆で、いきなり恐怖にさらす。例えばクモに恐怖を覚える人に、最初はクモを絵に描いて見せ、そのあとに遠くのゲージに入ったクモを見せる、などのアプローチをとるのが「系統的脱感作療法」。逆にクモをいきなり患者の手に這わせるのが「フラッディング法」。もちろん、患者はパニックに陥るが、その痛烈な試練を乗り越えると、恐怖は次第に落ち着いていく。
