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1万時間の法則は正しいのか~最も効果的な練習法とは~アダムグラントに会いに行く#13

みなさん、こんにちは!
“アダム・グラントに会いに行く”では、彼の著作のなかから、興味ある研究や知見を紹介しています(註1)。今回は最新刊「HIDEEN POTENTIAL」から、「1万時間の法則(10,000-Hour Rule)」についてお届けします。


1.「1万時間の法則」

皆さんは、「1万時間の法則」をご存じだろうか?
マルコム・グラッドウェル(Malcolm Gladwell)が
2008年の著書 『Outliers(邦訳:天才! 成功する人々の法則)』 の中で、
「世界的な成功を収めるには、およそ1万時間の意図的な練習が必要だ」
と紹介した。

この法則は、ベルリンの音楽アカデミーのバイオリニストを対象に行った 研究に基づいている(註2)。20歳までに最高のレベルに達したバイオリニストたちが、平均して約1万時間の「限界的な練習(デリバレイト・プラクティス(deliberate practice)」を積み重ねていたことが示された。

グラッドウェル氏は、この「平均1万時間」というデータを「世界的な成功を収めるために必要なマジックナンバー」として書籍で紹介。一世を風靡したのである。

モーツアルトはスパルタで育った

「限界的な練習」で知られるのが、モーツアルトだ。
彼の父親は、幼い息子に厳しい訓練を強いた。
そのあまりの過酷さに「奴隷のようだった」と描写している人もいる。
モーツアルトの手紙には、燃え尽きそうになる彼の悲痛な叫びが記されている。

偉業を成し遂げるためには、本当に1万時間にも及ぶ「限界的な練習(デリバレイト・プラクティス)」が必要なのだろうか?

2.楽しみながらスキルを伸ばす

別の研究によれば、偉業を達成した人は、モーツアルトのように過酷な練習に励んだ人ばかりではないようだ。

例えば40歳前後で国際的に高く評価されたコンサートピアニストは、
幼少期の練習時間は1日1時間程度だった。
10代になると、日々の練習量を徐々に増やしていったが、
それでも燃え尽きるような過酷な練習ではなかった。
「ピアノが面白いから練習した」
「先生と二人三脚で学ぶことが楽しかった」

というのが、上達の主な理由らしい。

強迫観念にかられるよりも、むしろ目標を達成するまでの過程そのものに
夢中になっていることが特徴だ。
やがてそれは「フロー状態」(精神的な高揚状態)にまで達することがある。演奏に完全に「没入」し、周囲や時の流れを忘れてしまう。
自分自身が楽器と一体化するという。

では、どうすれば、単調な練習に、フロー状態になるような「熱い情熱」を傾けることができるのだろうか?

3.デリバレイト・プレイ~遊び心を生かす~

そこで登場するのが、「デリバレイト・プレイ」である。
これは、楽しみながらスキルを伸ばせるように構築された体系的な活動である(パフォーマンスの向上+ゲームや競争の楽しさ

デリバレイト・プレイは、とりわけスポーツの世界で広く活用されている。ブラジルのあるスポーツ心理学者が、デリバレイト・プレイとデリバレイト・プラクティスのどちらが若手バスケットボール選手に育成に有効かを検証する実験を行った。

  • 一方のグループの選手たちは、練習時間の大半をデリバレイト・プラクティス(限界的な練習)にあてた。ディフェンスのいる状況といない状況で、ドリブル、パス、シュートといった基本的な反復練習を行った。

  • もう一方のグループの選手たちは、練習時間の4分の3をデリバレイト・プレイに費やした。コーチたちは、独自に考案したゲーム形式の練習を 導入した。ある練習では、チームメンバーの1人はパスのみを許可され、 シュートは禁止される。別の練習では、1人対2人とか、3人対4人とか、人数的な不利な状況でプレイを経験させた。

テストから数か月後、心理学者たちは、両グループの選手たちのゲーム・インテリジェンス(試合状況を理解する力)と創造性をテストした。

その結果、より著しい技術向上をを示したのは、ゲーム的なデリバレイト・プレイを 取り入れたグループだったのである。

ステフィン・カリー

NBA史上最高のシューターとして名高いステフィン・カリーも、
デリバレイト・プレイで才能を開花させた。
名コーチのブランドン・ペインは、練習に「トゥエンティワン」という
ゲーム
を取り入れた。1分間のうちに、スリーポイントシュート、ジャンプシュート、レイアップシュートを組み合わせて21点をあげることを目標とする。ただし、1回シュートするたびにコート中央までダッシュして戻らなければならない。
「常に時間との闘いであり、得点を追い続けなければなりません。」
ハードな練習をゲームにすることによって、カリーは大きく成長した。

4.インターリーブ(同時進行法)

「理想の練習法は、集中して1つの技を徹底的に磨きあげることだ。」そう考える人は多い。
しかし同じ課題を延々と繰り返すよりも、多様な要素を組み合わせたほうが上達が速いことが知られている。
異なるスキルが交互に刺激されるとき、人は急速に進歩するのだ。

これは心理学に言葉で「インターリーブ(同時進行法)」と呼ばれる。
絵画から数学に至るまで、あらゆる分野に応用可能である。類似するスキルと複雑なスキルを交互に磨くとき、とくに効果が高いという。
NBAのステフィン・ラリーは、トゥエンティワンでシュートとダッシュを交互に組み合わせたゲームで大きく成長した。

1つのことを練習することも大事だが、変化を取り入れることで、モチベーションが高まる。そして学習の質も高まる。
これは、数百にのぼる実験が明らかにしていることだなのだ。


註1「アダム・グラントに会いに行く」について

アダム・グラントとは?
ペンシルベニア大学ウォートン校教授。組織心理学者。1981年生まれ。同大学史上最年少の終身教授となる。「世界で最も影響力のある経営思想家10人」の1人と目され「フォーチュン」誌の「世界で最も優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれるなど、受賞歴多数。彼の著作は世界で数百万部を売り上げるベストセラーとなり、TEDトークは3000万回以上再生されている。元ジュニアオリンピックの飛込選手。

この連載「アダム・グラントに会いに行く」は、そんな彼を偏愛する「とある大学院生(私)」が、ツテもコネもないのに来年の夏に彼に会いに行くまでのドキュメントである。

(註2)
グラッドウェル自身が「法則」を発明したわけではない。
彼が引用したのは、心理学者 アンダース・エリクソン(K. Anders Ericsson) による以下の研究である。
Ericsson, K. A., Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993)
“The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance.”
Psychological Review, 100(3), 363–406

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