多言語を話せるのは特殊能力か?成長に必要な“3つの努力”~アダム・グラントに会いに行く~#14
こんにちは!9月から連載をはじめた「アダム・グラントに会いに行く」(註1)。最新刊「HIDDEN POTENTIAL」のなかの興味深い知見・エピソードを紹介しています。
今回は「成長のために必要な3つの勇気」(第1章『「不快な経験」こそ最高の成長剤』)についてシェアします。
1.複数の言語を操る人は「特殊能力」か?
3か国語以上の複数の言語を話す人を、ポリグロット(polyglot)という。
俳優の鈴木亮平は、日本語、英語、ドイツ語、
GACKTは、日本語、英語、中国語(北京語)、韓国語、フランス語、
を話せるらしい。
世界には10か国語以上を話せる人もいるというから驚きだ。
サラ・マリア・ハズバン(Sara Maria Hasbun)もポリグロットだ。
彼女は、
①英語(母語)、②スペイン語、③フランス語、④ドイツ語、⑤イタリア語、⑥アラビア語、⑦ロシア語、⑧中国語(マンダリン)、⑨ポルトガル語、⑪ヒンディー語、⑫ウルドゥー語を話す。
ほかにも日常会話程度なら話せる言語を含めると、12~14言語を話せるという(註2)。
こんな人を知ると、どうしても「特異な能力の持ち主」だと思ってしまう。
生まれつきの能力がある人だ…と。
しかし、どうやら、そうではないようだ。
サラが最初に学んだ外国語はスペイン語だった。13歳のころから6年間学んだにもかかわらず、ほとんど話すことができなかったという。
父親にスペイン語の宿題を手伝ってもらいながら、こう優しく諭された。
「お前はスペイン語を話せるようにはならないだろう。でもいいじゃないか。アメリカに住んでいればスペイン語などは必要ないのだから」
しかし、サラは諦めなかった。
人は18歳を過ぎたころから、言語の習得能力が低下すると言われている。
では、その後サラはどうやって10か国語以上も話せるようになったのだろう。

2.3つの勇気と「居心地の悪い体験」
アダム・グラントは「HIDDEN POTENTIAL」のなかで、内に秘めた潜在能力を引き出すには「3つの勇気」が必要だという。
「自分にとって最適」だと信じ込んでいる手法を捨てる勇気
心の準備が整う前に、挑戦の場に飛び込む勇気
誰よりも多くの失敗を経験する勇気
これらに共通しているのは、あえて不快なこと、居心地の悪いことに向き合うことだ。コンフォートゾーンにととどまらず、そこから飛び出すことだとも言える。
1つ1つ見ていこう。
3.慣れ親しんだスタイルを手放す
スペイン語が苦手だったサラは、教科書を読み込み、膨大な量の単語カードを作成することで、語彙と文法を習得しようとした。大量の単語を暗記するまでは話すことに不安を感じ、間違うことを恐れていた。
やがてサラは、自分のアプローチに疑問を感じ始める。
ピアノやフィギュアスケートの本をどれだけ読みこんだところで、シューマンの協奏曲を奏でたり、トリプルアクセルを成功させることはできない。
同じように、スペインカスティーリャの方言を「見る」ことはできないし、
頭のなかで「図式化」することもできない。
言語を習得するには、自らの耳で聴くしかなく、話すには声に出して練習するしかないと悟ったのである。
これはこれまでの十数件の実験を対象にしたメタ分析によっても裏付けられている。
「使わなければ失う(Use it or lose it)」という格言がある。
いや、失うどことろか、そもそも何も習得していないことだってあるのだ。
4.心の準備が整う前に挑戦の場に飛び込む
サラはマドリードに移住した。
英語教師として働きながら、あえてスペイン語しか通じないホストファミリーを探し出し、そこで生活した。
その結果、数か月後の夏の終わりには、スペイン語も流暢に話せるようになっていたのである。
「不安に身をさらすことに慣れさえすれば、いかなる言語も習得できる」。
サラは確信するに至った。
習いたての外国語を初めて使おうとしたことが皆さんにもあるだろう。
外国語は、「恥ずかしさ」と「羞恥心」との闘いである。
言葉がスムーズに出てこなければ恥ずかしいし、うっかり無礼なことを言ってしまうかもしれない。
子どもが大人よりも早く外国語が習得できるのは、羞恥や失敗への不安にあまり左右されないからだ。
驚くべきことに不安、恐れ、恥ずかしさといった「不快感」を避けず、
恥ずかしい経験を積極的に重ねることによって、人は成長できるのである。
多くのプリグロットに共通するのは、「恐れ」という障壁を徐々に乗り越えたことだ。
彼らは決して最初から特殊能力の持ち主ではなかった。学習プロセスに必然的に伴う不安感に自らを意図的に慣らしていったのである。
5.1日に200以上の間違いをする
サラの友人で、ペニー・ルイスというアイルランド人がいる。
彼もサラと同じく、数か国語を使いこなすポリグロットだ。
彼は「誰よりも失敗を重ねる」という3つ目の勇気によって、短期間に外国語をマスターした。その方法は「ソーシャル・スカイダイビング」というユニークな方法だ。
彼は新たな外国語を学ぶ際には
・数か月以内に見知らぬ人と会話できるレベルに達すること
・かつ、その習得法を人々に伝授すること
を目標に掲げる。
そして、行ったこのない国に到着(ダイビング)すると
周囲の見知らぬ人に思い切って話かけるのである。
そして単なる雑談をするのではなく、一歩踏み込んだ試みを行う。
例えば、スペイン人とはご当地ソングを歌ったり、
ブラジル人とホテルのチェックインで知り合ったときは、自分
も残業が多くて薄給だった経験を語った。
「外国語を習得するには、知識ではなく、コミュニケーション力を磨くことなんだ。流暢に話したいのだったら、間違いを回避するのではなく、むしろ積極的に間違いを重ねることだ」。
1日に200以上の間違いをする。新たな言語を学びはじめるとき、ペニーはこな野心的な目標を掲げる。
進歩の度合いを失敗の数によって測るのである。

6.学習によって獲得される勤勉性
この過程で、ペニーが恥ずかしい経験をしたことは、一度や二度ではなかった。自己紹介のときに自身を女性として紹介してしまったり、意図せずに相手のお尻をほめてしまったり…。
しかしそのようなときでさえ、ペニーは自分を責めることはない。
なぜなら失敗をすること自体が、彼の目標だからである。
「数多くの失敗を経験することが、不安に対する最善の対処法なのです」
たとえ失態を演じても、周囲の人々はたいてい彼の努力を称えてくれる。
それが彼の意欲を高め、さらなる努力を促すのである。
心理学において、専門家はこうした循環を「学習によって獲得される勤勉性」(「Learned Industriousness(ラーンド・インダストリアスネス))という。
努力が認められ賞賛されると、努力を費やす行為に伴う肯定的な感情が二次的に強化される。その結果、人は努力を継続するように自身に強いるのではなく、自ら進んで努力をしたいと思うようになるという。
<次週に続く>「アダム・グラントに会いに行く」
註1)アダム・グラントとは?
ペンシルベニア大学ウォートン校教授。組織心理学者。1981年生まれ。同大学史上最年少の終身教授となる。「世界で最も影響力のある経営思想家10人」の1人と目され「フォーチュン」誌の「世界で最も優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれるなど、受賞歴多数。彼の著作は世界で数百万部を売り上げるベストセラーとなり、TEDトークは3000万回以上再生されている。元ジュニアオリンピックの飛込選手。
この連載「アダム・グラントに会いに行く」は、そんな彼を偏愛する「とある大学院生(私)」が、ツテもコネもないのに来年の夏に彼に会いに行くまでのドキュメントである。
註2)
