Photo by
mado_no_kotoba
#34 夜のキッチン
そうめんのせいか、猛烈に眠い
さっき無表情で吸い込んだそうめんが
胃の中で重く沈んでいる。
食べ過ぎたせいなのか、
心が疲れすぎているのか、
とにかく猛烈に眠い。
時計を見る気力もなくて、
何時なのか分からない。
ただ、
眠りたい。
思考を止めたい。
白い煙が頭の中で渦を巻いて、
その煙に包まれるように
私はベッドに沈んだ。
うつらうつらしていると、
夫が帰ってきた気配がした
玄関の鍵が回る音がしたような気がした。
靴を脱ぐ音、
ビニール袋の擦れる音。
でも、
それが本当に現実だったのか、
夢の中の出来事だったのか、
判別がつかない。
私は布団の中で、
ただ呼吸だけをしていた。
明け方、のどの渇きで目が覚めた
部屋はまだ薄暗くて、
空気がひんやりしている。
喉がカラカラで、
唇が砂漠みたいに乾いていた。
ふらふらと台所に向かうと、
エコバッグが
テーブルの上に無造作に置かれていた。
中には、
ゼリー飲料がひとつ。
夫が買ってきたものだろう。
優しさなのか、
義務なのか、
ただのついでなのか、
分からない。
袋の口は開いていなかった。
ピラティスなんて、とても行けない
ゼリー飲料を見た瞬間、
胸の奥がまたざわついた。
昨日のことが、
白い煙の奥から
ゆっくりと浮かび上がってくる。
あの部屋。
あの箱。
あの色。
ピラティスなんて、
とてもじゃないけど行けっこない。
体を動かすどころか、
立っていることすら
少ししんどかった。
私は水だけ飲んで、
逃げるように布団へ戻った。
布団の中は、
唯一の避難場所だった。
目を閉じると、
世界がまた遠ざかっていった。
