【つぶオレンジみかん】 風まかせ文芸部様 投稿作品

お題『みかん』

【つぶオレンジみかん】

子供の頃、夏休みの一番の楽しみは山に囲まれた田舎の祖母のだだっ広い家に行けることだった。


田んぼと畑、それに小さな神社。自然が主役で人が呼吸をあわせるように暮らす長閑なところ。

悠々とした自然溢れる田舎で過ごす夏休み。なんのイベントもないのに楽しさがぎゅっと凝縮されていた。


遊びはごくシンプルで、トランプをしたり従兄弟と網を持って、オニヤンマを追いかけどこまでも走りまわったり。お腹が空いたら、川で野菜や太陽をたっぷり浴びてすごく甘くなった黄色い瓜なんかを洗って食べる。ひたすら外で走って何かを追いかけていた。


朝から遊び過ぎてカラカラに渇ききった喉を潤してくれたのが、祖母の家での楽しみのひとつ『つぶオレンジみかん』というジュース。
ぷちっ?もちっ?つぶの弾力が強い?オレンジ色の缶ジュース。

いっきに果汁とつぶが喉をこすりながらざらついて通る。あの感覚と清涼感は今でも夏の食感として忘れられない。


わたしは少し人の顔を識別するのが苦手みたいで、シャッフルするように逢いに来てくれるたくさんの叔母たちにいつも少しだけ困惑していた。なんせ親戚。ベースの顔が似ていて、さらに識別の難易度は上がっていた。

わたしは毎回へらへら笑って乗り切っていた。あの極上ジュースを用意してくれた九州の叔母の顔はずっとわからないまま大人になってしまった。


そんな叔母や祖母はきっと今頃、みんなそろって遥か空の上で団欒しているだろうな。雛人形のようにひな壇で並ぶみんなの姿なんかを空想してみる。


祖父母から贈られた箪笥の上の雛人形の箱を、祖母が亡くなってから久しぶりに開いた母。お内裏様とお雛様を丁寧に出して屏風の前にそっと飾った後、想い出話は始まる。


綺麗なままのおぼこいお顔で微笑む優しい雛人形。溢れる優しい姿。

ひな祭りの音楽がねじを巻くとゆっくりと鳴るオルゴール付きの板も横に飾ってある。ねじを巻いてないのに突然、意味ありげに音を奏ではじめることがたまにある。

そんな時いつも

『おばあちゃんの帰ってきた合図なんじゃない?』なんて笑いながら。


夏の滞在最終日には必ず、祖母は大きな木をくり抜いた寿司桶で甘みの強い五目寿司を持たせてくれた。『つぶオレンジみかん』と『五目寿司』このふたつは酸味が苦手なわたしでも大好きな想い出の味。


今年のひな祭りに作る五目寿司、祖母の満点花丸は出るだろうか。


【終】

こちらの企画に
参加させていただきました

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