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コロネさん再来


会社員時代、私はお昼休みのフライング常習犯だった。

ランチにもよく行っていた近くにあるホテルのベーカリー。

さすがはホテルのパン屋さんと言うべきか、売り場にはちょっと高級で上品なパンたちが等間隔にきちっと並んでいた。


人気のベーコンエピやアップルデニッシュ、コロネは、少し出遅れるとすぐに売り切れてしまう。

そのため、毎日お昼休みのチャイムが鳴るか鳴らないかの絶妙なタイミングで会社を飛び出し、ダッシュで買いに行くことが多かった。



数ある魅力的なパンの中でも、私が群を抜いて愛していたのが「コロネ」だ。

これだけは、レジ横にある小さなガラスの冷蔵庫に大切に保管されていた。

コロネと言っても、よくある巻き貝のような円錐状ではない。

円柱型をした薄手のデニッシュ生地の中に、生クリームやカスタード、チョコクリームがこれでもかとたっぷりと詰まっているのだ。

時には、そのコロネのためだけに走る日もあるほど、私はその味にのめりこんでいた。




しかし、別れは突然だった。

そのパン職人さんが辞めてしまったのだ。

後任の職人さんになってからは例のコロネの姿が消え、他のパンたちにも以前のようなときめきを感じられなくなってしまった。

そしてしばらく経つと、寂しいことにベーカリーコーナー自体が閉鎖されてしまった。


あのホテルコロネの味は、私の中で「懐かしい思い出」に変わっていった。



それから数年が経ち、私は会社を辞めた。



ある日、市街地に新しいケーキ屋さんがオープンした。

限られた時間しか営業していないそのお店は、いつ行っても大混雑の人気店だった。



初めて訪れたその日、私はショーケースから「ガトーショコラ」を選んだ。

無事に会計を済ませ、品物を受け取ろうとしたその時、レジの女性から突然声をかけられた。


「あの、もしかして、〇〇建設にいらした方ですよね?」



頭の中で「誰?誰?誰?誰?誰?」の疑問の連打。


取引先の人だろうか、それとも銀行の担当者さんだったか…。

「ええと……もしかして、会社に集金に来られていた方でしたっけ?」

苦し紛れに絞り出して聞いた。


「いいえ、あの……。ホテルのベーカリーで、コロネをよく買いに来られていましたよね」


「えっ!?!? あ、あっ、、はい……!」


「私、あの時のベーカリーで働いていたんです」


そう言われて改めて彼女の顔をじっと見つめると、当時の記憶がうっすらと蘇ってきた。


話を聞けば、ベーカリーが閉まった後、「パティシエになりたい」といろいろなお店で修行を重ね、この店に入ったのだという。



そして、私の顔を見た瞬間に「あ、コロネの人だ!」とすぐに思い出したらしい。

多分彼女の中では「コロネ」の執着が半端ない人として記憶されていたのだろう。

そしてあのホテルで、私は「コロネさん」と呼ばれていたに違いない。


それからというもの、私はそのお店のガトーショコラが気に入り、またしても頻繁に通うようになった。



彼女の中では「コロネさん」改め、きっと「ガトーショコラさん」にされていたのかもしれない。


食べ物に執着する私の顔は、よほど印象的なのだろう。

我ながら…怖いわぁ〜。



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