弁当完食、泣かなかったから採用
新卒で入った会社は、今でいうブラック企業だった。
当時、東証一部上場のゼネコン。
初任給はどこよりも高かった。
難易度が高いと聞いていたが、すでに他の企業から内定をもらっていた私は、興味本位で受けてみることにした。
当日、聞いていた以上に多くの人が集まっていた。
午前は筆記試験と論文、午後が面接。
筆記試験が半端なく難しかったことは、今でもよく覚えている。
解答できなくても、知っていることだけは書かなければ……と、誤魔化しながら書き続けた。
建設関係の専門的な問題が多く、途中で
「これはダメだ」
と思った。
論文もテーマは覚えていないが、ヤケクソになって冒頭を英語で書いたことだけは記憶に残っている。
午前が終わり、昼休憩になった。
企業側から立派な高級弁当が用意されていた。
私の右隣に座っていた女性が、
「せっかくだから楽しく食べようよ。多分、私は落ちるから」
と声をかけてくれた。
「私もダメですね、さっぱりでした」
そう返しながら、皆がおとなしく俯いて弁当をつつく中、私たちはランチに来たかのように話しながら食べていた。
緊張のせいか、他の人たちは半分ほど残して次々と席を立っていく。
そんな中、
「完食しよう」
そう言って、人事担当者が戻ってきても、私たちは食べ続けた。
最後の一口は、栗の甘露煮だった。
なぜか、そのことだけははっきり覚えている。
面接は応接室で、一人ずつ呼ばれていった。
面接が終わると会議室には戻らず、そのまま帰る仕組みだったため、部屋の中の人数はどんどん減っていった。
私は、最後から三番目の面接だった。
応接室の前には人事部の人が立っていて、無言で促された。
中に入ると、ゼネコンならではの強面のオジサンたちが6人。
部屋の隅には人事部長。
正面に座っていた専務など、今にも噛みつきそうなブルドックそのものだった。
(後にこのブルドックはよく懐いた)
面接は、いきなりこう始まった。
「試験、できませんでしたねー。
うちの会社に入るつもり、あるんですか?」
「入るつもりがなかったら、ここにいません」
怖いもの知らずだった私は、涼しい顔でそう答えた。
そこからは、ひたすらダメ出しだった。
面接というより、公開処刑。
ボロクソに言われ続けた。
そんな中、最後の最後に一番優しげな顔をした常務がふと口を開いた。
「入ってきてからずっと姿勢がきれいなままですが、何かやっていましたか?」
その質問で、ようやく私の顔は少し緩んだ。
面接が終わり部屋を出ると、人事担当者がじっと私の顔を見つめていた。
私は嫌味たっぷりの満点の笑顔で礼を言い、そのまま帰った。
その後、採用が決まった。
私が採用になった理由を後になってから教えてもらえた。
あのときに弁当を完食していたこと。
そして、何人も泣かされた面接で、私は泣くどころか平気な顔で笑っていたこと。
そんな理由で?
……いや。
ゼネコンのブラック企業では、それくらい強くなければ生き残れないのだと、
後になって嫌というほど思い知らされることになる。
*ちなみに自分のいた会社がブラック企業だったと気付いたのは辞めてだいぶ経ったころだ。
いつの間にか社風にどっぷり馴染んで居心地が良くなっていたようだ。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!