化け物もびっくりする物忘れ
夢の中に、よく化け物が出る。
だいたいは、友達と楽しく歩いていてふと横を見ると、いつの間にか友達が化け物にすり替わっていたり、建物のドアを開けた瞬間に化け物がわんさか飛び出してきたりする。
私の夢における化け物の出現率は、世界の平均よりずっと高いほうだと思う。
けれど、私には強い味方がある。
昔からこういう化け物系に出会ってしまったときには、決まって邪気払いの呪文を唱えることだ。
もちろん、夢の中での話だが、これまではその呪文さえ唱えれば百発百中で化け物を退散させることができていた。
それが、先日のこと。
同じように化け物の夢を見て、いつものように「呪文を唱えよう」とした瞬間に、信じられないことが起きた。
夢の中で、呪文が綺麗さっぱり出てこないのだ。
「えっ……」 夢の中の私は、本気で焦った。
え? 何だっけ??
ちょっと……え?…物忘れ??
化け物を前に、頭の中が真っ白になる。
結局、そのまま目が覚めてしまった。
起きてからも必死に思い出そうとしたのだが、言葉が途中まで出かかっては消え、どうしても最後まで辿り着けない。
スマホで調べれば一発で分かることだが、「こういう時は自力で思い出したほうが脳に良い」と聞いたことがある。
だから意地でも検索せずに、何度も記憶の引き出しをひっくり返した。
しかし、頑固な呪文は一向に姿を現さない。
《最近やたらと朝にカレーが食べたくなるのは、この物忘れのせいだったのだのか???》
モヤモヤしたまま、出かけようと車に乗り込み、エンジンをかけた瞬間だった。
突然、頭の霧がサーッと晴れて、驚くほどスラリと呪文が出てきたのだ。
「これだ!」
忘れないよう、車内でしばらく呪文をリピートした。
これでもう、いつ化け物が出ても大丈夫、そう一安心したところで、ふと疑問が湧いてきた。
あの時、夢の中で私が呪文を思い出せずにフリーズしていた間、目の前の化け物たちは一体どうしていたのだろう?
追いかけられた記憶も、襲われた記憶もない。
思い出すのを待っていてくれたのか?
もしかすると、最強の呪文を唱えるはずの人間が「何だっけ……」と本気で焦っている姿を見て、さすがの化け物たちもびっくりして勝手に去って行ってしまったのではないか。
それなら、もう、初めからあの呪文は要らなかったのではないか、とさえ思えてくる。
ちなみに、この前も大好きな「川口春奈さん♡」の名前がどうしても思い出せず、頭の中でずっと「箕輪、箕輪……(いや、それはハリセンボンのはるかだ)」と謎のループに陥っていた。
この時もやはり、車に乗ってエンジンをかけた瞬間に「川口春奈!」と閃いた。
もしかして、私の物忘れのスイッチは、車のエンジンと連動しているのだろうか。
次から何かを忘れたら、とりあえず車に乗ってエンジンをかけることにしよう。
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