イケメンのヘタレ顔
直近の職場の出入口には、自動ドアが二つあった。
その間には啓発活動の一環として、センサーに反応すると子供の声で注意を呼びかける装置があった。
「こんにちはー!みんなー……」
そんな感じで、かわいらしい声が流れる仕組みだ。
視覚的には、地元のイラストレーターが描いた、かわいい犬が話している。
職場の三階には、ちょっと有名なイケメンがいた。
私はイケメンにときめくタイプではない。
「整ってますね。以上」 それで終わる。
なのに、なぜかそのイケメンとはやたらと遭遇した。
ある冬の日。
通勤渋滞にはまり、焦ってダッシュで職場へ向かった。
エレベーターの扉が開いている。
「閉まらないで~」
そう願いながら加速し、なんとか滑り込むと……
「足音がしたので、待ってましたよ」
そのイケメン、爽やかさ全開だった。
「ありがとうございます」
そのあと、渋滞していたことなど、少し話した記憶がある。
彼は三階で降りていった。
それからというもの、エレベーターで一緒になることが増えた。
ほんの数秒だが、言葉を交わすようになった。
後日、三階に用があって行くと、そのイケメンが女性職員に囲まれてワーキャー言われていた。
「人気者なんだなぁ」
そう思って見ていると、彼は私に気づき、微笑みながら軽く会釈をした。
やることがスマートすぎる。
でもどこか、
「俺~、イケメンなんすよ~。
ほーら、こんなに仔猫ちゃんたちが集まってきてるでしょ」
そんな空気が見え隠れしている気がしなくもなかった。
そんなある日の遅番帰り。
なぜか彼が、正面の出入口の手前に立っていた。
普段、職員は裏の通用口を使うのに。
見ると、彼はモデルのような立ち姿でポージング、髪をさっとかきあげて
「お疲れ様です」
と、イケメンぶりを撒き散らしながら、私より一歩先に自動ドアを抜けた。
その時だった。
センサーが反応し、本来なら、あの子供のかわいらしい声が流れるはずだった。
だが……
「くぉ~~んにぃ~ちぃ~~ぅわぁ~~~」
機械の不具合なのか、間延びしたような、しかも妙に低くなった、不気味な声が響いた。
その瞬間、イケメンは
「ふぁあ~~~っ!?」
と変な声をあげ、よろめきながら柱にしがみついた。
……怖かったらしい。
イケメンがヘタレ顔になる瞬間。
私の何よりもの大好物だ。
遠慮なく、笑わせてもらった。
「え、びっくりしますよね!?びっくりしません??」
そう同意を求められるほどに、私の笑いは止まらない。
イケメンを前に、大爆笑。
…私はさ。
そこら辺の仔猫ちゃんとは違うのよ。
相当クセのあるドラネコよ。
そう簡単には……懐かないわ🐈⬛
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