【赤と青とエスキース】青山美智子|読了
一枚の絵画を起点に、さまざまな“愛”が描かれていく連作短編集。
物語ごとに登場人物も、場所も、時間も違う。
最初はそれぞれ別の人生を読んでいるように見える。でも、読み進めるほどに少しずつつながりが見えてくる。
そのつながり方がとても綺麗だった。
そして中心には、ずっと一枚の絵がある。
絵そのものは変わらない。でも、それを見る人や、その人が生きている時間によって意味は変わっていく。
いくつもの人生を通り過ぎていく一枚の絵を追いながら、自分自身もその絵と一緒に時間を過ごしたような一冊だった。
⸻
一枚の絵が、人の時間を渡っていく
物語の中心にあるのは、一枚の「エスキース」。
その絵と関わる人たちの人生が、少しずつ描かれていく。
誰かが見る。
誰かが手にする。
誰かの記憶に残る。
そして、その絵はまた別の人の人生へと移っていく。
面白かったのは、絵そのものが大きく何かをするわけではないことだった。
ただ、そこにある。
でも、人が変われば見え方が変わる。
時間が経てば、同じ絵でも意味が変わる。
変わっているのは絵ではなく、その絵を見る人の人生の方なのかもしれない。
そう思うと、一枚の絵を軸にした構成がとてもよく効いていた。
それぞれ独立していたはずの物語が、読み進めるほどゆっくり近づいてくる。
その広がり方が心地よかった。
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「金魚とカワセミ」の二人
特に好きだったのは、最初の「金魚とカワセミ」。
何より残ったのは、二人の関係だった。
強く何かを言い切るような関係ではない。
感情も、すべてがはっきり言葉になるわけではない。
でも、だからこそ良かった。
相手を思うこと。
一緒にいる時間。
近づくことと、離れること。
そこにある感情が、必要以上に説明されない。
二人の間にあるものを、読者が少しずつ感じ取っていく。
その距離感が好きだった。
切なさはある。
でも、それだけではない。
ちゃんと温度も残っている。
「こういう関係の描き方が好きだな」と、素直に思えた一編だった。
そして最初にこの物語を読んだからこそ、そのあと一枚の絵が別の人生へつながっていくことにも、より温かさを感じられた気がする。
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絵は変わらない。でも、意味は変わっていく
読み終えてから特に残ったのは、一枚の絵そのものについてだった。
同じ絵なのに、見る人によって違う。
出会った時期によっても違う。
その人が何を経験してきたのかによっても、意味は変わる。
最初に見たときと、何年か経ってもう一度見たときでは、同じ人にとってさえ別のものに見えるかもしれない。
作品は変わらなくても、それを受け取る側は変わっていく。
これは絵だけではなく、本にも少し似ているように思った。
同じ作品を読んでも、読む時期によって残るものは違う。
そのときの自分によって、見えるものも変わる。
『赤と青とエスキース』の中で一枚の絵が人から人へ渡っていくのを読みながら、そんなことまで考えた。
一枚の絵を描いた瞬間だけではなく、そのあと誰かに見られ、誰かの人生の中へ入り込んでいく時間まで含めて、作品なのかもしれない。
そこがすごく良かった。
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描かれている「愛」は、ひとつではない
この作品で描かれている愛も、恋愛だけではなかった。
もちろん、人と人が惹かれ合う気持ちはある。
でも、それだけではない。
誰かを大切に思うこと。
過去の人を忘れずにいること。
仕事や創作に向ける気持ち。
一枚の絵を大切にすること。
長い時間が経っても、何かが心の中に残っていること。
いろいろな形の「愛」がある。
そして、それを大げさに「これは愛だ」と言い切らないところが良かった。
大切だから残っている。残っているから、また誰かへつながっていく。
そんな描き方だった。
うまくいかなかった関係もある。
言えなかったこともある。
時間が経ってから見えてくるものもある。
だから、この作品はやさしいけれど、ただ甘いだけではない。
人と人との間には、届くものもあれば、届かないものもある。
それでも何かは残る。
その残ったものまで含めて、愛として描かれているように感じた。
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つながりが見えたときの温かさ
連作短編集の面白さは、別々に見えた物語が少しずつ重なっていくところにもある。
『赤と青とエスキース』も、最初は一つひとつの物語として読んでいた。
でも、読み進めるほどに「あの話がここにつながるのか」と分かってくる。
その瞬間が良かった。
ただ仕掛けとして驚かせるためのつながりではない。
つながったことで、それまで読んできた誰かの人生にもう一度温度が戻ってくる。
そんな感じがあった。
「ああ、こういうふうにつながっていたんだ」と分かったとき、前の物語まで少し違って見える。
でも、それは大きなどんでん返しのように全部を壊すものではない。
むしろ、それまで読んできたものを包み直してくれるようなつながりだった。
そのやわらかさが、この作品にすごく合っていた。
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一冊を通して、絵とともに過ごした
読み終えたときに一番近かったのは、一枚の絵と一緒に時間を過ごしたような感覚だった。
物語の中では、人が変わる。
時間も進む。
関係も変わる。
でも、一枚の絵はそこにあり続ける。
誰かの人生に入り、また別の誰かの人生へ移っていく。
読者もその流れを追いながら、絵が通り過ぎてきた時間を一緒に見ている。
だから読み終えたとき、単に「いくつかの短編を読んだ」という感じがしなかった。
一枚の絵が辿ってきた時間を、自分も一緒に辿った。
そんな読後感だった。
これは、この連作の構成だからこそ残ったものだと思う。
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読後に残ったもの
『赤と青とエスキース』は、静かで、やわらかくて、それでもしっかり心に残る作品だった。
一枚の絵。
それを描いた人。
見る人。
大切にする人。
そして、その周りにあるさまざまな人生。
絵そのものは変わらない。
でも、人は変わる。
時間も流れる。
だから、その絵が持つ意味も少しずつ変わっていく。
一枚の作品には、それを作った人だけではなく、出会った人たちの時間まで重なっていくのかもしれない。
そして、その中で描かれる愛も一つではない。
恋愛だけではなく、誰かを大切に思うことや、何かを残すこと、忘れずにいること。
いろいろな形がある。
特に「金魚とカワセミ」の二人の関係は好きだった。
切なさもあるけれど、そこにはちゃんと温度が残っていた。
一つひとつの物語が綺麗につながり、そのつながりによって作品全体がさらに温かくなる。
読み終えたあとに残ったのは、強烈な衝撃ではない。
一枚の絵と一緒に、長い時間を過ごしたような感覚だった。
静かで、やさしくて、でも軽すぎない。
とても心地よい余韻の残る一冊だった。
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