見出し画像

商社営業のリアル10 ── コーヒーの味を消した違和感の正体


私はある違和感に囚われ、インドネシアの雑踏に立ち尽くしていました。

話は3時間前に遡ります。

私は交通インフラ向け資材の商談をインドネシア企業の経営層と行っていました。

ひとしきり商談の方向性がきまり、一同がリラックスした雰囲気に包まれた時、先方の役員の1人が話し出しました。

「先の東日本大震災は大変でしたね。心からの哀悼の意を表したいと思います。 というか、我々も決して他人事ではすまないのです… ご存知の通りインドネシアも震災と隣り合わせの国でして、その脅威に晒されているという点では貴国と同様の戦慄を覚えます…

無論、同じ地震大国としての課題を抱える国同士、彼の言葉に強い共感を感じたのは確かでした。 ただその深刻な雰囲気に触発され、何かが私の中で出現しようとしてはすぐに隠れてしまう違和感を同時に感じたのです。

その違和感に囚われ気づけば雑踏に立ち尽くし、携帯に着信があったのも見過ごしていました。

ホテルに戻っても、せっかくインドネシアの美味いコーヒーを喫しながら、続く違和感で味を感じずにいました。

東日本大震災。

言葉に尽くせぬ大災害でした。 尊い人命が奪われ、インフラは寸断され、未曾有のパニックは被災地から日本全体へと波及しました。

「ん、待てよ。」思わず声に出ました。

役員は『震災と隣り合わせ』『貴国と同様の戦慄』と言った。しかし、ただの地震による揺れの話であれば、あそこまで深刻なトーンになるだろうか。 あの震災をさらに壊滅的な被害に追い込んだのは、寧ろ二次災害だったよな。 つまりは、津波による大災害。 これは、海洋性の高い島国、日本特有の地政学的リスクでもある。

「あっ❗️」

インドネシアも同じ状況なんだ。 島国で、近隣の海に震源を持つ大地震が起きると、さらなる津波の脅威が甚大なんだ。

きっとあの役員は、2004年のスマトラ沖地震による津波被害の凄まじさを、東日本大震災に重ねていたのだ。

私の違和感は消え去りました。

すぐに私は、日本における津波に関する研究、対策、製品を夕食を摂るのも忘れて調べ始めました。

調査を進めるうちに、私はある特殊素材メーカーの技術に行き当たりました。

「こんなことがこの素材でできるのか」


日本に帰国して、次の週。 私は初めてアポイントを取った、ある特殊素材メーカーの前に立っていました。

事務所に通されると、40代前半と見られる社長が私を真っ直ぐに見据えます。

「はじめまして❗️至急会いたいとのご依頼でしたので、今日は急ぎの仕事だけ片付けてお待ちしてました。」

見た目だけでなく、その声も含めて、発電機のようにエネルギッシュな人物でした。

「貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございます。一度思い込むと、居ても立ってもいられない性分でして…」

そう恐縮する私に、

「ハッハッハッハ❗️それは素晴らしいご性格ですね❗️」

まるでダイナモが回り出したかのような反応。

「早速、話を伺いましょう。」

私の話を聞くにつれ、製造メーカーの社長の表情がまるで通電したかのように動的になります。

(面白い社長だな、良い意味でわかりやすい)そう思いながら、私がひと通り話し終えると、

「設計思想は素人‼️」 社長が吼えます。

私はムッとしてすぐに、甘かったか、と思うや否や、

「しかし、事業構想はめちゃくちゃ面白いじゃないですか‼️ハッハッハッハ❗️」 雷鳴のような笑い声でした。

社長が続けます、 「どうでしょう、おっしゃる製品の設計に関してウチがプロトタイプの青写真を描きますので、それを叩き台に事業を協業で進めて行きませんか⁉️

「えっ、それでは…」

「ハッハッハッハ‼️今日は会えてよかった❗️まず、第一関門を突破しないとね❗️楽観は禁物ですよ、これからこれから❗️しかし特殊素材を使った水害対策ユニットは、ウチでも初の取り組みになるな。」

「はい、短期間ですが寝食を忘れて調べた結果御社の技術に惚れこみました。気づけば社長に電話してました。」

「ハッハッハッハ‼️惚れていただくのは、試作が出来上がってからにしてください。」

実はある種の方向性が浮かび上がっていました。 津波という二次災害に対して、家庭単位で備える手段は作れないのか。 素材の強度と浮力を備えた、防災モジュールを作れないか、この製造メーカーにかけあったのです。

日本とインドネシアの沿岸部への対策として、両国同時にパイロット販売を展開できないか、そんな構想を持ちかけたのです。

さらに2ヶ月をかけて、プロトタイプの設計が出来上がった段階で、私はインドネシア企業の、あの震災を深刻に捉えていた役員にメールを送り、直後に電話をしました。

「驚いたな。私のあの時のコメントだけを頼りに、そこまでの段階に仕上げてしまったのですか。」

「はい、とはいえ設計図、設計思想はまだまだ青写真にすぎません。あなたのインドネシアでのお力をお借りできませんか⁉️」

「私の本業ではない上に、もし私が興味をもたなければどうしますか。」

「先ずあなたが震災の話をされた時、東日本大震災からすでに8年は経過していました。このような天災を真摯に憂慮されている方だなと印象をもちました。 そんな方がこのような事業に興味を持たないはずがないと勝手に解釈し、さらには普段からこの分野を分析されていて、人脈を含めて造詣が深いのではと拝察しました。」

「あなたにはかないませんな。インドネシアに来ていただくわけには行きませんか。一度案内したいところがあります。そこで話を伺いましう。」

「喜んで」

その後、私はインドネシアを何度も訪れました。

例のインドネシア企業の役員が案内したいと言ったのは、地震専門の学究機関でした。 そこでは、津波に対する対策が限定的にとどまっていることなど、現地の課題を知ることができました。

当初、日本とインドネシアで同時進行で進めるはずだったこのプロジェクトは、インドネシアから先行する形となりました。
その背景には、インドネシア企業の役員と特殊素材メーカーの社長の、決して折れることのない意志と尽力があったことは言うまでもありません。

後日、あの熱血社長から雷鳴のような笑い声と共に電話がかかってきました。 「いやあ、想定以上の手応えを感じてるよ❗️ あの時、あなたの話に乗って本当に良かった!」 彼のその言葉が、あの日の違和感に対する、何よりの答えでした。


最後までお読みいただきありがとうございました。 気に入っていただけたら、ぜひスキやフォローで応援していただけると嬉しいです。


「英語だけでなく、国際取引を通じて世界と関わるための基礎知識も、子どもに渡しておきたい」と感じる方は、ぜひこちらもご覧ください。

✈️ KTE(Kids' Trade Easy)

KTEには2つのシリーズがあります

①【カケル編】世界の仕組みを知る国際教養コンテンツ
STORESにて公開中
⬇︎⬇︎⬇︎

STORESショップへ


②【ミナ編】世界の中に自分の居場所を見つける物語

子どもと一緒に読みたい 国際教養コミック。 世界を知るたびに 未来が広がっていく。 オールカラー・ふりがな付き

noteにて公開中
⬇︎⬇︎⬇︎


いいなと思ったら応援しよう!