徳川美術館『特別展 国宝 源氏物語絵巻』(前)
『源氏物語絵巻』を見るまで。
徳川美術館はいいぞ。
徳川美術館は好きな美術館のひとつで、毎年お雛様を見に行きます。他にも、上掲のように面白い企画展も多いし。
今年の春には『国宝 初音の調度』の特別展もありました。



その時も、体育館みたいな展示室の全ての展示ケースが、全て国宝『初音の調度』のアレコレで埋め尽くされるという、とんでもない体験をしました。
源氏物語のプロローグ。
今回は、徳川美術館所蔵の『源氏物語絵巻』十五点と、五島美術館の四点という、現存する国宝『源氏物語絵巻』が一か所で見られるという、やはりとんでもない展示。
始まって一週間たっていない平日でしたが、建物前のスタッフが掲げる札には「百二十分待ち」の文字が……
先にオフィシャルサイトでチケットを購入していた事もあり、結果としてそこまでは待ちませんでした。とはいえ、総総数を調整しているのか、常設展の前から入場制限で、三十分ほど待つことに。
常設展は今回、初めて徳川美術館に来る人や、めったに来ない人のための展示なのか、第一展示室が刀剣と関ケ原合戦図屏風。後に続く茶室や書院、能舞台も割とスタンダートな品物で、なるほど徳川美術館はこういう施設なのか、というのが伝わるよう。
一番奥の常設展示室は、いつもは国宝『初音の調度』の中の一つを中心に、姫君や奥方の品物が展示されている。しかし今回は特別に、所蔵品の中から源氏物語に関する名品が並べられていた。
江戸時代、十七世紀後半の源氏物語図屏風。六曲一双。
物語を追いかけるのではなく、左隻は秋冬、右隻は春夏の場面を描くことで、四季を題材にしたものだとか。

雪の積もった岸を、船の上から見る。何のシーンだろう?
秋冬の場面なのに花が咲き乱れている……竜胆や菊だから秋でいいのかな? 女房が捧げ持ってきているのは、手炙りか何かかしら。

赤い花の咲いた木は山茶花かな。下男に、積もった雪を払わせている?
紅葉の下で若い男性が仮装して舞を披露している。これは第七帖『紅葉賀』でいいのかな。どっちが頭中将だろう?

鳥居の前の牛車というのは、参拝に来たシーンかな? 誰が乗っているかは分からないけれど、硯の箱を持ってこさせているみたい。

菖蒲が咲き、松からは藤花が下がっている。
上では女性が碁を打っていて、下では男性が花の枝を手に盃を楽しんでいる。桃の花かな? 各人に三方があるのは、何かの行事のシーンなんだろうか。

小さな女の子がいて、それを垣の外から眺めている……
『若紫』だろうなあ。蹴鞠をしている男性たちを、奥から覗いているのは女三宮? 『若菜上』と説明書にはある。

松に並び立つように、桜の花が咲いている。上に目をやると、梅の花も咲いている……室内には妙に女性が多い。小さい子供を抱いた女性が、奥の男性に話しかけているみたい。
実はちゃんと読んだことがないので、何が描いてあるかよくわからない。こういう、美術工芸品でネタになっていると、ちょっと調べてみる、といった感じなので、ポツポツと有名なシーンを知っている程度……
見に来る前に、せめて『あさきゆめみし』くらい読んでおけばよかった。
昔、古文の先生に
「現代語訳の『源氏物語』って色々出てるけど、どれが一番いいですか?」
と聞いたら
「大和和紀『あさきゆめみし』一択」
と言われたんだよなあ。
『源氏物語』は、物語そのものではなく、意匠として楽しまれることも多かった。そもそも「初音の調度」からして、源氏第二十三帖「初音」が元ネタ。
この、金箔銀箔を収めるための箱には、蒔絵で「初音」「須磨」「浮舟」「賢木」「野分」の各モチーフを取り入れた意匠が施されているそうだ。

人物が描かれていないのは「留守模様」という趣向で、月とか、縁側とか、牛車とか、いろんな背景を見て、そこにいる……あるいは、いた……人物を想像するもの。
お話を知らないので、正しい想像はできないけれど、確かに色々と思わせぶりなモチーフが多くて、人の気配は感じられる。それだけでも楽しい……何より、丁寧な職人の仕事が綺麗で、技術もスゴイので、それだけでお腹いっぱいになる。
蓋の留め金は、桔梗の模様なのかな?


この『源氏物語画帖』は、土佐派の絵師、土佐光則の代表作なんだそうだ。詞書は、近衛尚など伝上公家六十人が手掛けているとか。国宝『源氏物語絵巻』の絵を描いたのは藤原隆能と言われていて、土佐派はその流れをくんでいるそうなので、そのあたりの繋がりも含んでいるのかしら。
国宝『源氏物語絵巻』と対面する前に。
さあ、いよいよ国宝『源氏物語絵巻』を見るぞ……と思ったら、通路が人で埋まっていた。「ここから九十分待ち」等と掲示されている。
「一メートルほど後ろからでしたら、すぐにでもご案内できます」
と、スタッフの案内。
源氏物語絵巻に限らず、絵巻物や浮世絵など、台に広げた状態で展示されていると、どうしてものぞき込みながら見る事になる。細かく描き込まれたものや、文字が綴られたものであればなおさら、読み取る時間がかかる。
つまり、そんなふうに展示ケースに張り付いて、のぞき込んで見るのであれば九十分待ち。そうやって見ている人の後ろ、展示ケースから一メートルくらい離れたところから見るなら、すぐに入れる。そういうことらしい。
実際そういうことだった。展示ケースから一メートルのところにロープが張られていた。
九十分待ってロープのケース側に入った人は、ガラスに張り付いてしっかりのぞき込んで見られるけど、立ち止まらずに、ゆっくりでも進むよう促される。
すぐに入れるロープの外側は、自由に歩き回って見られるけど、ガラスに張り付いた人の背中越し、あるいは途切れたところからしか見られない。
もちろん、かぶりつきで見られる方を選ぶ。九十分を惜しめば、次は十年待つ羽目になる。近くで見て、画面の質感を感じたい。それを外すのなら、現物に触れる意味がない……何より、その九十分で色々と予習がしたい。
実はちょっと前、常設展入場に並んでいる時に、まさにこの徳川美術館の学芸員をされている方のnoteを見つけたところだったのでした。
源氏物語絵巻を見てから。
長くなったので、後編を分けました。
書きかけだった後半部分もこちらへ。
会期は来月七日まで。あと二週間ですが、より多くの方が訪れるよう望みます。そして願わくば、私のこの一文が、その方々のお役に立てますよう。
