春の徳川園・徳川美術館
毎年この時期には徳川美術館で、尾張徳川家に伝わる雛飾りが公開されます。それを見に行かないと、春が来た気がしない私なのでした。
徳川園。
黒門広場。

お彼岸ともなれば、徳川園の花もいよいよ勢いを増しています。黒門を入ったところから既に、美術館に向かう道の左右は花の色。
梅園。

梅園に来ると、さすがにもう紅梅白梅はありませんでしたが、淋子梅は花盛りでした。桜を思わせる、杏の花もすっかり開いて、白い毬のような花の塊を、枝に散りばめていました。

良い天気で、雲一つない青い空を背景に、白や紅の花がよく映えていました。高い樹ばかりではなく、低い木にも、明るい花がたくさん咲いていました。

池をめぐる道で。

梅園から大曾根の滝を通り過ぎ、虎仙橋をくぐって、龍仙湖に向かいます。途中、三椏の花が咲いていました。和紙の原料とは知っていましたが、姿を見たのは初めてかな?

平日だからか、龍仙湖を見下ろす茶室、瑞龍亭は閉まっていました。お茶室の床の間に、小さなお雛様が飾られたり、掛物が雛飾りの絵になっていたりするのが、この時期の楽しみなのですが、残念。傍らに木瓜の花が咲いていました。

早咲きは、河津桜ばかりではありません。池を囲んで、色々な種類の桜が咲いていました。枝が揺れたと思ったら、小鳥が花の間を跳ねていたり……鶯かな? 目白かな?

暖かくて、湖の水も温んでいるみたい。大きな鯉の身体が、ヌルヌルと濃い水に覆われて光っていました。

風はまだ時に冷たくて、日向と日陰の温度差に驚くほど。だけど、おだやかな湖のほとりには、そんな風もめったに吹かず。竹風鈴も、時々ささやくくらいでした。

常設展示室。
さて徳川美術館。まずは常設展から……常設展と言っても、三か月くらいで入れ替わっているので、だいたい来るたびに別のモノが見られます。まれに再開できるのも嬉しい。
武家のシンボル ー武具・刀剣ー

いやとよ弓を惜しむにあらず、義経源平に、弓矢を取つて私わたくしなし、しかれども、佳名かめいはいまだ半ばならず、さればこの弓を敵に取られ義経は、小兵こひょうなりと言はれんは、無念の次第なるべし、よしそれゆゑに討たれんは、力なし義経が、運の極めと思ふべし。
平家物語の一場面、源義経の話。乱戦の中で落とした弓が、平家方に流されていくのを見て、危険を顧みず拾いに行くシーン。船上の平家武者は、馬上の義経を引きずり落そうと、長い熊手を突き出す。馬は、その先端を恐れて逃げるようにのけぞる。義経は熊手を刀で振り払いながら、馬から落ちそうなほど身を乗り出し、弓に向かって鞭をのばす。
岸の源氏方の武者たちの、驚き恐れる表情。平家の武者たちを怒りの目でにらんだり、呆然と口を開いていたり、手を伸ばして岸に走ったりする武者の表情も良い。馬がビックリしたように眼を見開いているのも、漫画みたいで面白い。

「南無八幡大菩薩(…)この矢外させ給ふな」
与一、かぶらを取つてつがひ、よつぴいてひやうど放つ。小兵といふ条、十二束三伏、弓は強し、浦響くほど長鳴りして、あやまたず扇の要際一寸ばかり置いて、ひいふつとぞ射切つたる。
かぶらは海に入りければ、扇は空へぞ上がりける。
馬上から扇の的を射抜く那須与一。弓返りして、弦が腕の向こう側に行っているとか、描写が細かい。体を固めるために、かかとが内側になるほど、馬の胴をギリギリ締め付けている。

この那須与一が腰につけている箙とほぼ同じものが、隣に展示してありました。見て描いたんじゃないかというほど、そっくり。
箙の、鏃が入る箱のところに、小さな装飾があるのも似ている。象牙かな? 柘植かな? 細かな細工は、刀剣の三所物の目貫みたい。

もう一方の壁のケースは、刀剣とその拵え。中央のケースには具足ひとそろい、槍と旗印などが収まっていました。
大名の数奇 ー茶の湯ー

『葵紋散蒔絵棗』 18世紀
『安南染付花鳥紋水差』 17世紀(ベトナム)
『責紐釜』 17世紀
展示室内には「猿面の茶室」がしつらえられていました。ボタンを押すと水屋の戸が開いて、しまってある茶道具が見えるというギミックつき。
茶室内には、今にも亭主が茶を点て始めるように、道具が置かれています。安南染付花鳥紋水差の耳は、蟹の意匠になっているんだろうか? ちょっと遠くて、細かいところが見づらいのだけど、本当に茶室に招き入れられたような雰囲気が伝わってくるのです。
展示室には、香炉や茶壷、掛物などが展示されていました。
大名の室礼 ー書院飾りー
次の展示室には、殿様が座る場所と、臣下が控える場所を再現してありました。パッと見た感じでは、あまり展示品がないように見えるのだけど、復元された障壁画や、文房四宝をはじめ、細かく見ていくとやはり数が多い。
殿様の後ろに飾られる花、掛けられる三幅の掛物は、季節にちなんだものが多いのだけど、今回は鶴と猫と寿老人で、どういう繋がりなのか、よく分からなかった。
武家の式楽 ー能ー

能に関する衣装と能面と、扇などの小物の展示。能の事は全然分かりません。お面は彫刻として、衣装などは工芸として楽しんでいます。邪道かしら?
大名の雅び ー奥道具ー
徳川美術館は、武威や権勢に関わるモノよりも、国宝『源氏物語絵巻』とか国宝『初音の調度』など、私的な楽しみというか、奥座敷の雅な生活に関わるモノが多いような印象。他人に見せないモノに……いや、私的なモノだからこそ、良いモノでなければならない、という発想って、今の世にはあまりないですね……

徳川義直が字の練習をするのに使ったお手本。松花堂ってお弁当に関係あるのかな? お寺か何かか。そんな人に手本を書いてもらって、その上、この料紙は染めた上に金銀の箔まで散らしてある……言うならお習字のお手本なのに、ここまでやるか……

お手本がこのレベルだと、鑑賞する書となると、本阿弥光悦……国宝の『舟橋蒔絵硯箱』とか作った人! さっぱり読めないけど、このシュルシュルした筆の跡がとんでもなく美しいというのは、よくわかる……トロリとした一筆一筆の、柔らかな太り方が、筆の穂のしなりを未だに伝えるようで、ひょっとしたらまだ濡れているようにすら見える。料紙の模様は羊歯みたいだけど、何だろう? 色は鬱金かな? 空刷りの跡もあるような……

奥座敷の文化的な様子って、武家というより公家に近い雰囲気。この近衛って人も、名前からして公家なんだろう。能筆というやつかしら? 上手すぎて読めない……それどころか、色々な書き方、字体を、自由自在に書き散らしているみたいで、コレを一人で書いたとは信じられないレベル。
秋酒家……莫空管領……碧浪……水の面?
黛……海上泉祥逼? 銀儥僜朗責秋……?
読めそうな字を拾ってみる。意味はは分からないけど、なんか楽しい。「この字をこう書くの?」みたいな、驚きがある。

読める字を探すのは面白いんだけど、時々困る事もあります。どうしても「その字だ」にしか見えないのに、どう考えても間違ってる場合とか。
例えば右から二番目の面……「山鏜面」云々などと書かれた、その右隣……「いまうんこ」って書いてありませんか。自分だけですか。そう思っちゃうとそれ以外に読めなくなっちゃう……困ったものです。もしこのnoteの読者で、識者の人がいたら、本当はどう読むのか、どういう意味なのか、教えて欲しいです……
追記。雛飾りのお話。
この後いちばん本題の、雛飾りを見に行きました。時代によって顔や作りが違う……享保雛とか古今雛とか、色々と種類があるらしいけど、そのあたりの詳しい解説はなかったなあ……人形の歴史の研究ではなく、あくまで昔の姫君を思う事がメインの展示なのでした。
