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【第十三話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第十二話(前回)
あらすじ:定期入れを届けに行ったら、奥さんの背後に……

第二章:のろわれた定期の怪 第十四話(次回)


 会釈する真純の後ろに、はらはらと涙を流しながら和夫が立っていた。
 家に帰ってこれた嬉し涙なのか、それとも何か悲しいことでもあったのか、雫を零し続ける目元の闇からは判断がつかなかった。

 仲條にも見えていたらしく、振り返った姿勢のまま固まっている。ただ、見えたのもほんの一瞬のことで、二人の横をスーツ姿の若い男性が通りかかったときには和夫の姿は消えていた。

 我に返った仲條と峰城は顔を見合わせて駅方面へと足を向け、金橋家の隣家を曲がる直前で明るい声が響いた。再びそっと振り返ると、さきほどすれ違ったスーツの男性が奥さんと親しげに会話しているが見える。仲良くしている近所の人だろうか。

「峰城クン」

 あまり見過ぎるのも失礼だと思った峰城が視線を外そうとしたところへ、仲條に声をかけられる。注意される覚悟で彼を見ると、曲がり角に身を隠す形で様子を伺っていた。探偵気取りの姿勢だ。

「先輩、何を――」

「シー」

 口元で人差し指を立てて峰城の呆れ声を止め、視線は真純と男性に向けたまま口元にやっていた指をさす。すると、真純が迎え入れる形で男性と二人家の中に消えて行った。見てはいけないものを見てしまった気がする。

 金橋家の息子である可能性は真純との会話からして低いうえに、男性の年齢的にも峰城や仲條の年齢に近そうだ。結婚してからの子どもというには年齢が合わない。

「……」

「なるほど。だから紫陽花、ね」

 峰城が凡その年齢を計算して一番平和な予想が裏切られ、最悪な想像を胸に押し黙っていると、仲條がいつの間にか手にしていたスマホから顔を上げて興味深げに鮮やかな色を放つ花の名前を呟いた。

「峰城クン、これで調査は終了だ。後日、高木さんに結果を報告しよう」

 立ち竦む峰城の横で、しゃがんでいた足を伸ばしながら仲條が高木に連絡を取るよう指示を出す。

 仲條が納得した理由は分からないが、きっと峰城の想像を事実に変える物事が彼には見えているのだろう。想像を事実にする勇気が持てず、峰城は聞かずにスマホを手に取った。

 怪異が現れないか経過観察をするためにも、予定は三日後の夕方を指定して高木に調査結果を報告する旨を連絡した翌日。

 夜中に金橋家が全焼し、屋内にいた男女が亡くなったとのニュースがネットの記事に上がった。

「先輩!」

 金橋家を訪れた翌日の夕方。峰城は仲條に呼び出されて、再び金橋家を訪れていた。正確には、家の骨組みだけが残った火災現場付近だ。

 ドラマの現場検証シーンを思い浮かべていた峰城は、実際に現場に飛んできてみれば物々しい雰囲気はあまりなく拍子抜けした。規制線のテープが張られているものの現場検証がある程度落ち着いたのか、現場を荒らされないための監視要員としてパトカーが一台残っているだけだ。周囲にはまだ野次馬がおり、遠巻きに現場を見ている。

「やぁ、来たね」

「一体、何してたんですか? 朝一で連絡したんですよ」

 通学中にネットニュースで事を知ってすぐ仲條に連絡したが、一向に返事がなく、昼休みは小屋にも行ったものの案の定鍵かかっていた。モヤモヤを抱えたまま午後の授業を受けていると、突然金橋家に来るように連絡が来たのだ。それからというもの授業の内容は一切頭に入らず授業終わりの合図後いの一番で教室を抜け出してきた。

 峰城の質問と不満をものともせず、仲條が一方を見つめて動かないことに気づいて視線を追うと野次馬に紛れて高木を見つける。彼女も二人を視界に収めると、綺麗なお辞儀をしてみせた。

「なんで、高木さんがここに――」

「僕が呼んだんだよ」

 状況についていけない峰城を置いて、高木がいる野次馬に仲條が歩みを進める。峰城は慌てて後を追い、人混みから少し離れた位置に移動した高木と対面した。

「急にお呼び立てしてすみません」

「いいえ、調査が完了したことは峰城さんから聞いていましたから。予定より早く、結果を聞かせていただけるとか」

「はい。ですが、その前に――心より、お悔やみ申し上げます。そして、今回の怪異を止めることができず、申し訳ありません」

 突然、お悔やみの言葉と謝罪を述べて仲條が腰を折った。その姿を無表情で高木は見つめている。理解できていない峰城だけが取り残され、一人オロオロしているのが情けなく感じた。

「仲條さんは、何か勘違いをされているようですね」

「いいえ。僕の予想だと、あなたは被害者のご家族なんです」

「……内容が内容なので、どこか落ち着ける場所に行きませんか」

 顔を上げた仲條が真っすぐ高木を見返し、視線を受け止めた彼女は一度目を伏せ、場所の移動を提案した。彼女のスマホの案内で、駅近くの古びた喫茶店へと足を運ぶ。

 店員はお好きにどうぞ、と言わんばかりに店内を手で差すとカウンターの中で新聞を読み始める。仲條は客もまばらな店内を眺めて、店の奥のボックス席に進むと奥の席を高木に勧め、手前側の席の壁際に仲條が座り、その隣に峰城が席に着いた。

 手短に各々が注文し、湯気の立つカップが届けられる頃には仲條と高木が穏やかに睨み合っている。相変わらず、峰城だけがのけ者だ。

「高木さん――いえ、金橋さんはこうなることが分かっていたのでは?」



第二章:のろわれた定期の怪 第十四話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n257000fec001?magazine_key=m82f76b0d5c3a

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