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松家仁之(まついえ まさし)「火山のふもとで」

ミニチュア作家のいわなり ちさとです。
紹介した作品は販売します。気軽にお問い合わせください。


七宝焼きの次の教室までに図案を描いていくことになりました。
そこで、Bの鉛筆を削っては絵を描いています。Bは柔らかいので、何度も削ります。すぐに芯がちびてしまうから、、、


まだまだ練習段階です。先生に見ていただいて決定します。

鉛筆を削っているうちにかなり昔に読んだ小説「火山のふもとで」という作品を思い出しました。

1980年代にある建築事務所に入った主人公の話。
仕事のはじめに鉛筆を削る場面があります。

CADが当たり前になるより少し前のことだけれど、その事務所では毎朝9時になるとほぼ全員がナイフを片手に鉛筆を削りだすのが習慣となっていたと描かれています。

入所すると先生が名入れをしたナイフを鉛筆削り用に手渡されるのです。

鉛筆を削る音で一日が始まるのは、北青山でも夏の家でも同じだった。はじめてみると、たしかにこれは朝一番の作業にふさわしい気がしてくる。コーヒーを淹れる香りのように、鉛筆を削る匂いで、まだどこかぼんやりとしている頭の芯が目覚めていく。カリカリカリ、サリサリサリという音で、耳の神経にもスイッチが入る。
(中略)
午前と午後で最大10本の鉛筆を使うぐらいが仕事の正確さを守ることになるし、鉛筆の扱いもていねいになる、それ以上削らなければならないのは、筆圧が強すぎるか、乱暴か、急ぎすぎか、のいずれかで、つまり考えなしにやっている証拠だという。線を引きつづけているとどこかで意識がとぶことがある。その隙を狙って間違いがすべりこんでくるから、鉛筆の減り具合には注意が必要なのだ。

「火山のひもとで」 p51~p52より抜粋

設計図を引くという仕事と鉛筆の使い方が密接に結びついているということを考えて仕事の作法が決まっているというのはとても興味深く、そして、わかりやすい法則だなと最初に読んだ時に思いました。


この、鉛筆を一日に10本使うために一日2回削り、それ以上使わないといけない時に間違いがすべりこんでくるという、人間の集中力を客観視した法則を見出しているということに驚きと感動を覚えました。


人が図面を引くという作業がパソコンを使わずに成立していたことに今更ですが、感動します。


手作業がほとんどなく、パソコンに向き合って作業するのが今の設計です。そして、鉛筆の作業より失敗は減り、修正も簡単にはなっていることでしょう。でも、人の力はどうなんだろう?


何年か前にあるイベントで昔の設計図を見せて、これが朽ちてしまうと無くなってしまうものだと説明されたので、なぜ、絵取って残さないのか?と聞いたんだけど、そういう感覚がないようで怪訝な顔をされたことがあります。若い女性の設計士さんでした。

鉛筆を削るという作業をしたことがある人が今の時代にどれだけいるかなと思います。

”線を引きつづけているとどこかで意識がとぶことがある”という表現で、設計という仕事の一端を垣間見た気がしました。


鉛筆を削ってから仕事にかかるという手作業があることが集中を高め、人の五感を高めるのだろうと。

今の時代、鉛筆で描く人はいないでしょうね。
物書きの作家さんもパソコン入力でしょう。

私自身は絵のために鉛筆を削ります。自分で削った鉛筆はなんとなく柔らかい気がします。扱いやすく、友達のような感じ。たくさん描かないので、間違いがすべりこむということはないかな?

ただ、納得がいくまで描き直すことはあります。何日か寝かせてからもう一度ということが多いです。だから制作途中の作品が並んでいたりします。

粘土細工の下絵を描くこともあります。大きさの確認などのためには欠かせない作業です。一つきりの作品のためにパソコンを使うのは面倒です。小物を縫うのにミシンを使うより手縫いのほうが早いのも同じ感覚です。

作品の話に戻りますが、鉛筆の話は話の最初のほうに出てきたつかみの部分でした。

設計の基本として事務所の所長が、寝室は広すぎないほうがいい、天井も低いほうがいいとか、食事のにおいは食べる前にはうれしいものだが、食べ終わって満腹になるとうとましくなるから空気の入れ替えをよく考えるほうがいいとかいう考え方を持っていることが語られています。

時代を超えて、納得できる、住む人のための家づくりの理念。
こんな人に家を作ってもらえたらうれしいだろうなと思う思想の持主の話は本当に面白かったです。


作品には設計の話はもちろん、夏、軽井沢に近い青栗村の夏の家で泊まり込んで仕事をする話や合宿のような夏の日々に食べるおいしそうななお料理の話、夏の家の周辺の人々との交流や設計コンペの話、事務所の所長のことやその恋人の話などいろいろなエピソードがあって、ぐいぐい引き付けられました。

この作品の前段となる村井設計事務所が皇居の設計をする話が去年出版されました。「天使も踏むを畏れるところ」という作品です。
後日談ではなく、前段。
「火山のふもとで」の主人公はまだ生まれていない時代の話です。

事務所の所長村井俊輔の設計士としての話、宮内庁との折衝や権力闘争、ときおり語られる登場人物たちのプライベートがあってめくるめく分厚いストーリーが展開していきます。

こちらも紹介したいけれど、私の筆力ではうまくまとまりません。
「火山のふもとで」を読んでいいなと思われた方にお勧めしたいです。

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