デイリーノートの「A」で手が止まる人へ——実習で毎日書くSOAP、それぞれ何を書けばいいのか
実習から帰った、その日の夜。
デイリーノートを開く。
Sは書けた。今日、患者さんが言っていたことを思い出して、書いた。
Oも書けた。今日測ったROMの数値と、歩行の様子を書いた。
そして、Aの欄でカーソルが止まる。
——ここに、何を書けばいいんだろう。
考えても、何も浮かばない。今日の検査結果から、何を読み取ればいいのか。自分の考えを書けと言われても、書けるほどの考えが、自分の中にない気がする。
時計を見ると、もう遅い。明日も実習がある。
結局、当たり障りのないことを一行だけ書いて、Pの欄に「明日も歩行練習を実施する」と書いて、ノートを閉じた。
翌日、指導者に見せると、こう言われる。
「Aのところ、もう少し自分の考えを書いてみようか」
——分かってる。書けないから、困っているのだ。
臨床参加型実習が主流になり、レポートを書く機会は減った。その代わり、毎日書くことになったのが、デイリーノートだ。
施設によって形式は違う。行動目標と反省だけを書くところもあれば、クリニカルレコードと同じようにSOAP形式で書くところもある。
この記事では、SOAP形式で書く場合を想定して、S・O・A・Pのそれぞれに何を書けばいいのかを整理する。
教員として15年、学生のデイリーノートを見てきて、つまずくポイントは、だいたい決まっている。特に、Aで手が止まる学生は多い。
今日は、その手が動き出すための考え方を書きたい。
S(主観的情報)——主訴とhopeを、混ぜない
Sは、患者さんから聞いた主観的な情報を書く欄だ。
ここでつまずく学生は、そう多くない。ただ、一つだけ、よく見かける間違いがある。
主訴とhope(希望)が、混在している。
この2つは、別のものだ。
hopeは、患者さんが「何を望んでいるか」「何をしたいか」だ。「家に帰りたい」「もう一度、庭仕事がしたい」「歩けるようになりたい」——これらは、リハビリの目標設定に関わる、大切な情報だ。
一方、主訴は、今日のリハビリで、患者さんが何を訴えていたかだ。「今日は力が入らない」「膝の痛みが強い」「昨日より体が重い」——その日の状態についての訴えである。
デイリーノートのSに書くべきは、主に後者だ。今日の状態を示す訴えである。
なぜなら、デイリーノートは「その日の記録」だからだ。hopeは入院中そう変わらないが、その日の訴えは毎日変わる。そして、その変化こそが、日々の記録で追うべきものだ。
聞き逃してはいけない訴え
特に、聞き逃してほしくない訴えがある。
「今日の状態を、どうにかできる可能性があるなら、軽くしてほしい」という類の訴えだ。
「今日は、膝が痛くて」 「なんだか、力が入らないんです」 「体が重くて、動かしづらい」
こうした訴えは、患者さんが「なんとかしてほしい」と発しているサインだ。そして、その多くは、その日のリハビリで対応できる可能性がある。
痛みが強いなら、その日のプログラムを調整できる。力が入らないなら、疲労や体調の変化を疑える。体が重いなら、その原因を探れる。
つまり、これらの訴えは、その日の判断材料になる。だから、聞き逃さずに拾って、Sに書く。
「今日は特に何も言っていなかった」という日もあるだろう。それならそれで構わない。無理に作る必要はない。だが、患者さんは意外と、リハビリ中にぽつりと本音を漏らす。その一言を、拾えるかどうかだ。
O(客観的情報)——検査をしたなら、必ず数値を残す
Oは、客観的な情報を書く欄だ。
ここは、シンプルに考えていい。
その日に検査をしたなら、その結果を必ず記載する。
ROMを測ったなら、その数値。MMTを取ったなら、その結果。歩行を見たなら、観察した内容。これらは、客観的なデータとして、必ず残す。
なぜ必ず残すのか。後から比較できるようにするためだ。
例えば、今日測った膝のROMが100度だったとする。この数値は、今日だけ見ても意味が薄い。だが、一週間後に110度になっていたら、「改善している」という判断ができる。そのためには、今日の数値が記録されていなければならない。
日々の記録の価値は、こうして積み重なることで生まれる。だから、測ったものは、必ず書く。
客観的データが出せない日は、無理に作らない
一方で、こういう日もある。
患者さんの体調が優れず、検査ができなかった。他の予定で時間が取れず、じっくり見られなかった。
そういう日に、無理やり客観的データを作る必要はない。
適当な数値を書いたり、測っていないのに測ったように書いたりするのは、記録として意味がないどころか、有害だ。後から見返したときに、誤った判断につながる。
検査ができなかった日は、その日に観察できたこと(表情、動きの様子、離床の状況など)を書けばいい。それも立派な客観的情報だ。
A(評価・考察)——ここが、一番の山場
そして、Aだ。
学生が最も手を止めるのが、ここである。
Aには、「今日のS・Oから、自分がどう考えたか」を書く。だが、その「自分の考え」が浮かばない。だから、書けない。
考え方を、2つの方向に分けて整理する。
方向1:原因を推測する
一つは、問題点の原因を推測する方向だ。これは、レポートで言う「統合と解釈」と同じ考え方になる。
その日に、複数の検査をしていれば、それらを見比べて、共通する原因を探せる。
例えば、膝のROMの検査からは「関節」と「筋肉」が原因の候補として挙がった。筋緊張の検査からは「筋肉」が挙がった。疼痛検査からも「筋肉」が挙がった。三つに共通する「筋肉」が、疑わしい原因として浮かび上がる。
だが、その日に一つしか検査をしていない日もある。
そういう日は、共通点を探すことができない。では、どうするか。
その一つの検査から、考えられる原因を複数挙げる。
「今日測った膝のROMに制限があった。その原因として考えられるのは、関節包の問題、筋の短縮、疼痛による回避——このあたりだろうか」
一つに絞れなくていい。複数の候補を挙げておく。そして、翌日以降に別の検査をして、共通点が見つかれば、絞り込んでいける。
一つの検査の日は「候補を出す日」。複数の検査ができた日は「共通点を探す日」。そう考えると、Aに書くことが見えてくる。
方向2:良くなってきたことを記録する
そして、こちらが、デイリーノートならではの視点だ。
Aには、良くなってきた動作や、改善した身体機能も書いていい。
これは、多くの学生が見落としている点だと思う。
レポートの統合と解釈は、「なぜ、この動作ができないのか」という原因追求が中心になる。どうしても、できないこと・悪いことに目が向く。少しネガティブな作業だ。
だが、デイリーノートは違う。日々の変化を追う記録だ。だから、悪いところだけでなく、回復傾向も書ける。
「昨日より、立ち上がりがスムーズになった」 「歩行距離が伸びてきている」 「今日は、痛みの訴えが少なかった」
こうした変化を記録していくと、患者さんの経過が、少しずつ見えてくる。
これが、日々の記録の本当の価値だ。一日だけを見れば、大きな変化はないかもしれない。だが、一週間分を並べて読み返すと、「この患者さんは、回復してきている」あるいは「回復が停滞している」という流れが見えてくる。
デイリーノートは、原因を追求するだけの場ではない。患者さんが良くなってきているか、回復が遅れているかを、記録する場でもある。
良くなったと感じたら、翌日に検査で確かめる
さらに、一歩進んだ書き方がある。
「良くなってきた」と感じたら、翌日にその部分を検査して、データで確かめる。
例えば、「今日は立ち上がりがスムーズだった」と感じたなら、翌日に下肢筋力や可動域を測ってみる。数値が改善していれば、「感覚として良くなったと思ったが、実際にデータでも改善していた」と、根拠を持って言える。
これができると、Aの記述が一段深くなる。
「昨日、立ち上がりの改善を感じたため、本日、大腿四頭筋のMMTを再検査した。前回4から今回5へ改善しており、立ち上がり動作の改善は筋力の回復によるものと考えられる」
こう書けたとき、それは単なる印象ではなく、回復段階の根拠になる。
感じたことを、翌日データで確かめる。この習慣が、あなたの記録を、ぐっと臨床的なものにしてくれる。
P(計画)——翌日のプログラムを書く
Pには、翌日のプログラムを書く。
ここは、シンプルだ。明日、何をするかを記載する。
ただ、一つ意識してほしいことがある。Aで書いたことと、Pがつながっているか、確認してほしい。
Aで「筋力低下が原因かもしれない」と書いたなら、Pには筋力に対するアプローチが入るはずだ。Aで「明日、可動域を再検査したい」と書いたなら、Pにその検査が入るはずだ。
AとPがつながっていないと、「考えたことと、やることが別」という状態になる。逆に、つながっていれば、記録全体に一本の筋が通る。
毎日同じプログラムを書いてしまう、という悩みもよく聞く。だが、Aで今日の変化を捉えていれば、それに応じてPも変わってくるはずだ。Pが毎日同じになるときは、Aで変化を捉えられていない可能性がある。
おわりに
実習から帰った、その日の夜。
デイリーノートを開く。
Sには、今日患者さんが漏らした「膝が痛くて」という一言を書く。hopeではなく、今日の訴えを。
Oには、今日測ったROMの数値を書く。検査ができなかった部分は、無理に作らない。
そしてA。今日は検査を一つしかできなかった。だから、その検査から考えられる原因の候補を、いくつか挙げてみる。そして、今日感じた「昨日より立ち上がりがスムーズだった」という変化も、書き添える。
Pには、明日の計画を書く。Aで「立ち上がりの改善を筋力で確かめたい」と考えたから、明日はMMTの再検査を入れる。
——手が、止まらなくなっている。
Aに何を書けばいいか分からなかったのは、あなたの考えが浅いからではない。Aに書くべきことの種類を、知らなかっただけだ。
原因の候補を挙げる。共通点を探す。良くなってきたことを記録する。感じた変化を、翌日データで確かめる。
書けることは、思っているよりずっとある。
デイリーノートは、実習の負担になりがちな作業だ。だが、これは患者さんの経過を追う、大切な記録でもある。毎日書き続けた記録が、一週間後、二週間後に読み返したとき、その患者さんの物語になっている。
明日のデイリーノートで、一つだけでいい。「今日、良くなったと感じたこと」を、Aに書き添えてみてほしい。
そこから、あなたの記録が変わり始める。
▼ Aの書き方を、もっと深く知りたい方へ
「原因の候補を挙げて、共通点を探す」——統合と解釈の考え方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
「統合と解釈」が書けないのは、頭が悪いからじゃない——点を結べば、原因は見えてくる https://note.com/light_gecko4283/n/n973216f21802
臨床推論の"育て方"|正解探しをやめて、自分の考えを組み立てる5ステップ https://note.com/light_gecko4283/n/n92947c05491b
▼ 評価の進め方で悩んでいる方へ
実習の評価は「計画通りにいかない」が前提——予定が崩れても動ける、評価の進め方と優先順位 https://note.com/light_gecko4283/n/n53cb7e45f27d
▼ 実習や臨床の悩み、聞かせてください 匿名で質問できます。いただいた質問は、今後の記事づくりの参考にします。 https://note.com/qa/light_gecko4283
