本を読めない私が、主人公の隣をはじめて歩いた話
本を読まない私が、
いや、読めない私が。
気づけば、
最後まで一気に読んでいた。
それ以上に驚いたのは、夢中になっている自分の姿だった。
恥ずかしいくらいに、文学に触れずにここまで来た。
私が読書したといえるのは、遠藤周作の『沈黙』くらいだろう。
読まない割に、なかなか深い作品なのが笑えるが、
課題図書だったから仕方ない。
選んだわけではなく、仕方なく読んだ。
課題をこなすために何度か読み返し、
やっとなんとなく理解した気がした。
学年が変わってもまた同じ本を選んだ。
繰り返し読みたかったからではなく、
私にとって不毛な時間を避けたかったからだ。
けれど、確かに考えさせられる作品だった。
思い返せば、
面白かった本はある。
漫画だって少しは読んだ。
映画も観た。
けれど、記憶に残っているのは「面白かった」という感情だけ。
余韻はあるが、内容は驚くほど覚えていない。
いつからか、効率や正解を求めて、
わかりやすいビジネス書やら自己啓発書ばかり選ぶようになっていた。
でも、もうおなかいっぱいで、ウンザリしかけていた。
そんな私が、長い文章(本人主観)を最後まで一気に読んだ。
文章に惹きつけられていた。
その理由が知りたくなった。
「途中下車」する理由
私は昔から注意力が散漫だ。
衛星アンテナのように、あちこちへ向いた意識が、
勝手に情報を拾い続けている。
読書中も然り。
ひとつの言葉から派生して連想が始まり、別のことを考え始める。
新しい人物が登場するたびに、相関関係の整理に意識を使う。
難しい表現が出てくれば、意味を追うだけで疲れてしまう。
そうして私は、いつも物語から途中下車する。
主人公の隣を歩く
引き寄せられるかのようにたどり着いた
森・カーラさんの『森の奥』という小説は、全く違った。
冒頭から意味不明なのだ。
状況がわからない。
何が起きているのかもわからない。
だが、主人公もまたわかっていない。
「理解できていないのは、私だけではない」という安心感があった。
主人公と私は横並び。
そこから私は、主人公の隣を歩き出した。
白のBMW。
季節。時刻。気候。
丁寧な具体描写が続く。
映像が浮かぶ。
登場人物が少ないから、
わざわざ名前や相関関係を覚える煩わしさもない。
意味不明な世界なのに、
意味理解の難しさが少ない。
私は物語の中を歩けている。
放流されては、連れ戻される
不思議だったのは、
この作品が私の好き放題な思考を許容してくれたことだ。
私は文章を読むとき、思考が頁の外へ飛んでいく。
あいまいな表現の感覚を掴みたくて、私はどこまでも探索する。
今回も同じだった。
イニシャル表記された地名と人口数とその周辺情報。
脳内で日本地図を広げ、自分の知識と照らし合わせた。
わかりそうでわからないからこそ想像は広がり、私は物語の外を浮遊する。
それもつかの間、
現実的な描写や出来事によって、再び本筋へ引き戻された。
自力で戻らなくとも、しっかりお迎えに来てくれるのはありがたい。
想像の海に放流しては、また連れ戻される。
具体と抽象が多次元で交錯する中で、
私は自由な想像と物語への没頭を繰り返した。

私は自由な想像と物語への没頭を繰り返した。
逆境。裏切り。ドロドロ。
これから現実で体験するのはもう御免でも、
少し離れて見守るくらいならできそうで、
そうして私は、主人公の苦境に、昔の自分を重ねあわせた。
私の感情は、完全にこの作品の掌の上にあった。
また謎の人物が登場した。
髪型も、服装も、描写され美しい容姿だと言うのに、
年の頃だけがわからない。
輪郭がぼやける。
私は小さく混乱した。
主人公との会話の口調から、推測はできるが確証はない。
その曖昧さが、むしろ集中力を高めた。
わからないまま、主人公と並んで歩いていた。
私は取り残されてはいなかった。
わからないまま歩ける
この文章構造は、計算されたものなのだろうか。
感覚的に生まれたものなのか。
私にはわからない。
文学に疎い私は、
もしかするとよくある技法のひとつに感動しているだけなのかもしれない。
けれど、私が知りたかったのは、
作品の秘密よりも、「私はなぜ読めたのか」。
なぜ離脱しなかったのか。
なぜ最後まで歩けたのか。
作品を追いかけることで、見えてきたのは自分だった。
私は本が読めない人間だと思っていた。
けれど、私には私なりの読み方があった。
ひとつの物語を通して気づいたのは、
私にとって心地のよい読み方であり、
それは、
私が世界と関わるときの癖のようなものだった。
わからないまま、眺めて、
時に横道にそれながら歩いていく。
この物語が教えてくれたのは、文学の面白さだけではなかった。
おわりに
この記事を書くきっかけとなった『森の奥』の著者、森・カーラさんに感謝いたします。
この作品に魅了された私は、何がこんなにも自分を惹きつけたのかを探求する中で、自分の特性や世界との関わり方への理解が深まりました。
引用と執筆について快くご了承くださり、ありがとうございました。
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自分のために書いたこの文章が、
何かの参考になればうれしいです。
