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ボサ子って呼ばれた日のこと 🔥2

鏡の前で、私は自分の髪を見つめた。

私の唯一の自慢。
それがあっという間に塗りつぶされた。

────

私は小さい頃から、黒くてまっすぐな髪が
少しだけ自慢だった。

光に当たるとツヤが出て、手ぐしを通すだけでまとまる――ただそれだけのことが、子どもの私には十分嬉しかった。

しかし、その安心は中学2年のある頃から
急に崩れた。

染めてもいないのに、髪の色が少しずつ抜けて茶色くなり、一本一本に癖が出て、アホ毛も増えていった。
鏡を見るたび、「これ、本当に私?」と思うくらいボワッと広がって見えた。

────

ある日の帰り道。

小学校からの同級生、マミちゃんとふたりで
帰り道を歩いていた。

「なんか、最近髪の毛がすごくて」
私が言うと、マミちゃんは言った。

「そうなんだ。そんなに気にしてなかったけど」
マミちゃんは笑った。

「そんなでもないんじゃない?」
マミちゃんの言葉に、少しだけホッとした。

─────

それからしばらくした頃。
美容院にカットに出かけた。

「お母さんも切るから」
そう言って、珍しく母と一緒に向かった。

椅子に座ると、いつもの美容師さんが
私の肩にケープをかけながら言った。

「いつもの髪型でいい?」
「お願いします」
そう言うと、その人は私の髪の毛を触りながら
口を開いた。

「どうしたのこの髪」

ドクン、と心臓がはねる。

必死に平気なフリをした。
「いやぁ、なんだか急にこんなになっちゃって」

良かった。
笑って答えられた。

「すごいことになってるね、
1本1本ちりちりになってる」

ズン、と心に重さを感じた。

あまり、触れないでほしいな。
そう思ったけれど、言えなかった。

「ほんとに、急にこんな酷い頭になってしまって。
私もびっくりしてるんです」

なんだか、惨めな気分になる。

「成長期だからかな。
一旦剃って新しく生やせばいい髪生えてくけど」
美容師さんは笑って言った。

「ほんと、そうしたらいいのにね。
急にこんなになって、私もびっくりしたのよ」
母も笑う。

何言ってるの。
そんなこと出来るわけないじゃない。
禿げた状態で学校に行けというの?

イライラしたけれど、黙っていた。

美容師さんに言われたことで、更に怖くなった。
人から見てもわかるくらい、
私の髪の毛ってボサボサなんだ。

それから、外に出るのがさらに嫌いになった。

わかめのような色と質感になっていく髪を、誰よりも気にしていたのは私自身だった。

────

マミちゃんは、同じクラスだった。

その頃からマミちゃんが、仲良くなった子がいた。
その子の名前はエリ。

短いスカートと、金髪の髪。
スラリとした美人だったけれど、なんだか怖かった。

同じクラスだったので、マミちゃんと一緒にいると
自然と私も関わりが増えていた。

─────

ある日の美術の授業。

2人はチャイムが鳴っても教室に来なかった。

「どうしたのかな」

そう思いながらも、私は絵を描くために
キャンパスを用意していた。

すると、しばらくして遅れて教室に入ってきた
二人が私の机に近づいてきた。

エリが、ニヤッと笑いながら言った。

「ねえ、ボサ子。今日から あんたの名前”ボサ子“ね」

私はその言葉に、体が固まった。
笑うことも返す言葉も出なかった。

エリは、ニヤニヤ笑いながら続ける。

「あなたの頭、ワカメみたいで笑える~。
やばいよ、なにその頭(笑)」

黙って固まっている私に、
隣にいたマミちゃんが笑って、私の肩に手を置いた。

「どうしたの〜、ボサ子ちゃん」

その瞬間、胸の奥がズキッと痛んだ。

エリの言葉より、ずっと、ずっと
その一言の方が刺さった。

「なんで、マミちゃんまで……?」
――心の中で、自然と涙があふれそうになった。

過去に、「友達だと思ってないけど」と別の子に言われたことが、暗く蘇る。

“私は、マミちゃんにとって
本当は友達じゃなかったのかもしれない”

――その疑いが、心を締めつけた。

さらに、小さい頃から母に言われ続けたあの言葉。

「あなたは 1 人になる」

――その言葉が頭の奥に蘇る。

それはまるで、体に刻みつけられた烙印のように
どんなに逃げても、
逃れられないもののように感じた。

「私はやっぱり、ひとりになる運命なの?」

不安で、怖くて、胸がきしんだ。
キリキリと痛む心臓は、
夕方になってもずっとそのままだった。

放課後。

マミちゃんと二人になった。
胸が詰まり、手のひらは冷たく汗ばんでいた。

「わかってほしい」

でも、友達だと思っているのが私だけだったら?

息を吸うのもためらうほど緊張した。

私は、思い切って口を開いた。

「マミちゃんにだけは、
髪のこと言われたくなかったな……」

声が震えた。
悲しかった。

言い終えた瞬間、全身の力が抜ける感覚と、
逃げたくなる気持ちが押し寄せる。

マミちゃんは、しばらく黙って私を見つめていた。


「ごめん…」
マミちゃんが小さな声で呟いた。

私は勇気を振り絞って言った。

「マミちゃんは、友達だと思ってる。
…もうボサ子って呼ぶのはやめてほしい」

冗談なのに、大袈裟。
そんなふうに思うかな。

“ 友達じゃないでしょ?”と苦笑いされるかも。

息が詰まる。

マミちゃんは、静かに言った。
「ごめんね。」

それから彼女が私を傷つけるようなことを
言うことは、二度となかった。

─────

髪の変化はコンプレックスだった。
そして、二人に言われたあの言葉は間違いなく
傷ついた。
でも――

その痛みの先に、変わらずそばにいてくれる人がいると、少し感じた。

マミちゃんは、
私のことを友達だと思ってくれたのかな。

髪の色よりも、
私の心に深く残ったのは、そのことだった。

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🫧この形の私

▶ ︎  次の出来事へ(必死に歩いた私の努力)

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