見出し画像

私は、いらないことにした 🔥3

中学2年生の頃、私は部活で1つ上の先輩と
仲良くなった。

部活全体は明るく、
先輩も自然に輪の中心にいた人だった。

2人で話すと、なぜかいつも笑いが止まらなかった。どうでもいい内容で涙を流しながら大笑いした。

その時間だけ、私は
“普通の人間”になれたような気がした。

気づけば私は、先輩のことを好きになっていた。
でも、告白する勇気はなかった。

ただ、同じ空間で笑っていられれば、
それでよかった。

ある日、体育祭でハチマキを交換するという話を
聞いた。

告白はできなくても、記念として、
せめてハチマキだけはもらえたら。
そんな小さな願いを、胸の奥にしまった。

そんな時だった。

クラスでいつも一緒にいる5人のメンバーと話していた。
私はその中に属しているようないないような、
ふわっとした立ち位置で生きていた。

その時、メンバーの中心にいる、
私と同じ名前の”みのりちゃん“が言った。

「私、先輩の事かっこいいって思ってて。
ハチマキ貰おうかと思ってるんだ」

あ。
みのりちゃんが。
そっか。

みのりちゃん、私と同じ名前なのに可愛いし、
みのりちゃんにあげた方が先輩も嬉しいかも。

別に楽しく話すからって仲良いかは分からないし。

そもそも、こいつ気があるのって
先輩に引かれるの、嫌だし。

「うわぁ、青春!羨ましい!」
私は手を叩いた。

ハチマキもらうの、やめよ。

本当に私が怖かったのは、
先輩に引かれることではなかった。

嫌われること。
揉めること。
無視されること。

もう二度と、あの痛みを味わいたくなかった。

傷つくくらいなら、自分の気持ちなんていらない。

私は自分の感情をゴミ箱に捨てた。
それがいいと思った。

─────

先輩に会った時、言った。
「私の友達に、みのりっていう私と同じ名前なのに私よりかわいいイチオシの子がいるんですよ!
是非みのりちゃん用に、ハチマキ取っといてください!わたしのよしみで!」

「なにがよしみなんだよ」
先輩は笑っていたけれど、快く応じてくれた。

─────

体育祭が終わった。
廊下を歩いていると、
向こうからみのりちゃんが歩いてきた。
笑って手を振ったら、睨まれた。

ドクン

心臓が跳ね上がり、手が止まる。

「あなたが先輩に頼んだの?信じられない」

なぜ怒られているのか、わからなかった。
何が悪かったのかも、わからなかった。

「ごめん、あのね……」

声をかけても、みのりちゃんは続きを聞かず、
背を向けて立ち去った。

それから何度話しかけても、
許されることはなかった。

分からなかった。

─────

「みのりちゃん、怒ってるみたいなんだけど
なにか悪いことしたのかな」
いつもいるメンバーにこっそり聞いてみた。

その子は呆れたような目で言った。

「みのりちゃんに頼まれてもないのに、先輩に勝手に言うとかありえないでしょ」

「自分が先輩と仲いいっていうアピール?」

「違うよ、私は……」

その子は、ため息をついて言った。

「だからそういうところじゃない?」
「ほんと分かってないよね」

その子は、そのまま向こうの方に歩いて行った。
もう、何を言っていいのか、分からなかった。

気づけば私は、
みのりちゃんを含む4人の女の子たちから、
露骨に無視されるようになっていた。

私は、クラスで孤立した。

少し離れた場所で、ヒソヒソと笑う声。
視線だけが刺さる空気。

ああ、また。

小学校の頃の記憶が、一気によみがえった。

無視されること。
笑われること。
存在しないもののように扱われること。

吐き気がするほど怖かった。
息が、うまく吸えなかった。

それから私は、人に話しかけるのをやめた。

隣のクラスの仲の良い子や、
小学校からの友達は、変わらず接してくれた。

小さな救いだったけれど、
それももう怖くなった。

私は少しずつ、人と距離を取るようになった。

先輩とは、もう話してはいけない気がした。

そして、ぎこちないまま、
先輩は部活を引退していった。

私はまた、ひとりぼっちになった。

“結局、私は無視される側の人間なんだ”

そんな感覚が、
心にこびりついたままだった。

おばの家で猫を撫でながら、
ぼーっとそんなことを考えた。

─────

あの日、ゴミ箱に捨てた気持ちは、
時間が経っても
時折、胸の奥で小さな音を立てた。

あれは恋だったのかもしれない。

でも私が本当に守りたかったのは、
先輩への気持ちじゃなかった。

無視されること。
嫌われること。
仲間外れになること。

私はそれが怖くて、
自分の気持ちを先に捨てた。

それでも、嫌われることからは逃げられなかった。

──────────
🫧この形の私

▶ ︎  次の出来事へ(燃やされたお金)

←  この章の目次へ【ひずみ】
←  この物語全体を読む【シリーズ一覧】

いいなと思ったら応援しよう!