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壁に貼られた予定表─監視の目 🔥3

小学3年。

壁に貼られたその白い紙は
ただの予定表ではなかった。

それは、いつも私を見張る視線の象徴。
そして、守らなければならない“ルール”の山だった。

あれは、”私という人間の管理表“だった。

────

ある日、私は横になり、テレビを見ていた。

そこへ父が帰宅した。
慌てて座り直したが、遅かった。

「なんだその行儀は」

上から見下ろされ、体が固まる。

「ごめんなさい」
小さな声でそれだけ言った。

父が部屋に入った瞬間、私は肩をなでおろし、
トイレに向かった。

すると居間から、父の怒鳴り声が響いた。

「みのりぃっ!!!来いっ!!」

飛び上がるほどの恐怖。
恐る恐る居間へ向かうと、
怒り顔の父が立っていた。

指さした先には、こたつ布団。

意味がわからず、体が固まる。

「布団が丸まってるだろうが!
お前は言われたらそれしかできないのか!」

心がざわざわする。
私は布団を直すしかなかった。

怒鳴り声、ため息、足音、
鋭い目つき、物に当たる音――。

父が近くにいるだけで、
手足は冷たくなり、
心臓の鼓動で体が揺れるように感じた。


父は、毎晩机を叩き、立ち上がり、
私を威嚇し続けた。

――

ある土曜日の昼下がり。

妹たちと遊んでいると父に呼ばれた。
居間へ行くと、机の上に大きな白い紙が
広げられていた。

父は、黒いマジックを置いた。

「帰ってからの計画を書け」
戸惑っていると、イライラしたように
机を叩いた。

「書け!!お前が何もしないから、
父さんが、用意してやってるんだろうが!」

慌てて座り、マジックを持つ。

何を、書けばいいのだろう。

私が止まっていると、父が声を荒らげた。
「時間!!時間を書いてその横に
お前が何をするか書くんだよ!」

「考えて書け!!お前の予定だぞ!」

黙って止まっていると、
ゴンゴンと右端の紙を叩いてきた。

「時間!何時に帰るんだ!」

「……4時前」
「書け!早く書け!!」


キュ……と音がして、白い紙に黒くて太い
色がついていく。

4時、と書いた。

「何をするんだ、まず帰ったら!」

なにを、何をする、何をすれば……。

「……ラ、ランドセルを、置いて、えっと、手をあ、洗って」

「なら、それを書け」

「次は」

もう涙で見えない。

「し、宿題をし、して、それで、えっと」
「算数とこ、国語のノートの2ページをやって」

「それを書け。何時だ、何時からやる」
手が震える。
黒いインクが、私を飲み込みそうなほど
恐ろしく見えた。


「よ、4時半か、5時、」

「じゃあ、5時で許してやる。書け」

30分はかかっただろうか。
大きなカレンダーの裏には、私の勉強計画が
並んだ。

「そこに貼れ」

父はその計画表を、居間の入口の襖のすぐ横、
テレビの横の棚のガラスに貼らせた。
「これで見えるだろ」

「みのり、立って読め」

私は泣きながら立ち上がった。
目の前には、父と妹たち。
黙ってこっちを見ている。

「よ、4時から宿題をし、します」
「5時から、こ、こくごと、さ、算数のノートをします」

嗚咽が止まらない。
必死に腕で涙を拭いながら、読んだ。

「ご、5時半から、明日の用意をします」

一通り読み終わると、
父が妹たちに向かって言った。

「お姉ちゃんがちゃんとできるか見ておきなさい」
「お姉ちゃんは全然できないから、こういう予定表を書くんだよ」

カッ、と顔が熱くなるのを感じた。
けれど、何も言えずに、私は黙って立っていた。

――

翌日。

母や妹たちと、夕ご飯の準備をしていると、
玄関の扉が開く音がした。

「こんばんは、ごめんください」

父と同じ会社の人だった。
麻雀をする、よく来る人だった。

その人は父の案内で居間にあがり、言った。
「この大きな紙は、なんですか?」

父は笑って言った。
「こいつ、全然勉強しないんですよ。
何度言ってもダメなんで、
計画表を書かせたんです。
これで少しは性根が入るといいんですけどね」

「へぇ」

その男性はチラッとこっちを見た。

「頑張ってね、みのりちゃん」

「は、はい」
背中に汗をかきながら、苦笑いするしかなかった。
顔から火が出そうだった。

母は何も言わなかった。
何もしなかった。

そして、その計画表は、
半年以上そこに貼り続けられた。

初めの数日間は、何とかやった。

けれどだんだんとまた、やらなくなった。

母は、そんな私に言い続けた。
「お父さんに言うよ」
「なんであんたは、反抗するの」
母は、うんざりした顔で言った。

私は予定表の前を通り過ぎる時、
それを睨むようになった。

予定表は、毎日そこにあった。
私は、そこに書かれた時間を、
ほとんど守ることはなかった。

──────────
🫧この形の私

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