あの家で、唯一“居ていい”と思えた瞬間
誰もいない家で、
やっと息ができた。
人がいると苦しくて、
いなくなると、ほっとする。
あの頃の私にとって、
それが当たり前だった。
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夏の終わりの夕方。
親戚が帰るのを送って、
父と妹たちは出かけて行った。
私は車に乗れなくて、ついて行かなかった。
さっきまでのざわめきが嘘のように、
家の中は、しん、と静まり返った。
だれも、いない。
私は鼻からゆっくり、息を吸い込んだ。
父が開け放した縁側の扉が開け放たれ、
風が西から東へゆっくり抜けていく。
私は縁側の廊下に体を投げ出した。
足の指から、肩から、力が抜けていく。
そのままの体制で、外をぼんやり見上げた。
空は濃い青色で、白い雲がのんびり流れる。
頬を撫でる風は柔らかく、少し涼しい。
近くの森からはヒグラシの声。
「カナカナ…」と、夕暮れを知らせるようだった。
夏も、もう終わりかな。
少し離れた仏壇の前に積み重ねられた
い草の座布団から、
青い香りがかすかに鼻に届く。
遠くには深い緑の森。
光を受けて影が揺れる。
レースのカーテンは風にふわりと膨らみ、
風鈴が「チリン」と鳴る。
親戚が帰る前に仏壇に供えた、線香の香り。
人のいない家なのに、見守られているようだった。
パキッ
家鳴りがする。
でも、誰もいない。
ブラックのコーヒーにミルクが注がれるように、
心がまろやかになっていく。
普段の家では、父に威嚇され、
母から否定され、居場所はなかった。
けれど、誰もいない静かな家は
木の軋む音さえ心地よかった。
あれが──過酷な私の子ども時代。
その時だけは、「家」を心地よく感じられた。
“居ていい場所”だと感じることができた。
私は、疲れると寝転んで空を眺める。
ゆっくり流れる雲を見るたび、
あの夏の夕方を思い出す。
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🫧この形の私

あなたの心に、なにか残ると嬉しいです。
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