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母娘関係のやっかいさ

いわゆる毒親の話ではない。概ね良き母娘関係ではあるが、それでも簡単ではないと思う。

母はあらゆる不幸を背負ったような境遇でありながら、わたしたち子どもにはきわめて理性的に接してくれた。それでもというべきか、それだからこそというべきか、わたしは母の愛情を疑ってきた。わたしは母に反発し、母との間に壁を作った。母が癌になったことで、わたしは自分の幼稚な感情にこだわっている場合ではないと思い至り、今度はその壁を自ら壊してきたが、最後に残った薄い膜は今でも取り払うことができないでいる。

わたしは母に本音を晒すことを恐れ、自分を守る膜を破ることができず、理性で「良き娘」を演じているように感じることがある。生物学的には、親子兄弟姉妹でも競争関係にあるということらしいけれども、わたしが母の生を幾分か侵食して成長したというところに問題の根があるのかもしれない。
母のおかげで私はそれなりに幸福な大人になった。ひるがえって母の境遇で子を守り育てるという営みは、耐え難い痛みであったのだろうと思われる。おそらく私はその核の部分を認めることを恐れている。やはり母は私を生んだことを悔いているのではないか。わたしが母を選んだのではないのに、わたしが母を侵食したというのはどういうことだろうか。

おそらくは母も、これと裏返しの感情を抱えている。耐え難い痛みを引き受けてきた人生を、子にあからさまに訴えることの理不尽さが分かるだけに、鬱積した感情を内に抱えて生きる苦しみがあるのではないか。

こういう訳で、母の抑鬱のいくらかは、わたしのせいではないかと勘繰ってしまう。母の助けになりたいともがきながら、苦しみの根源である私に何ができるのだろうという疑念に取りつかれる。

母に残された短い時間で、わたしはわたしを包む膜を破ることができるだろうか。膜がなくなったときに、どうなるのかは分からない。ただ、こんな膜はない方がいいのだろうと感じている。


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