「4%ルールの落とし穴」に感じた違和感
以前、このnoteでも4%ルールについて取り上げたことがある。
そのこともあって、先日「4%ルールの落とし穴」というコラムが目に入ったとき、自然と手が止まった。
読み進めると、論旨の中心はインフレ局面における4%ルールに則った定率や定額取り崩しのリスクについてだった。物価が上昇し続ける環境下で、取り崩し率や額が固定されたままであれば、インフレ下では現金の購買力は時間とともに低下していくため、結果として、想定していた生活水準を維持できなくなるという指摘だ。
確かに、それ自体は正しい。現金だけを考える限り、インフレは紛れもなくリスクだ。
ただ、読み終えた後に私の頭に浮かんだのは、「もう一方の視点が欠けている」という感覚だった。不動産投資に30年以上携わり、CFPとして資産形成の現場を見てきた立場からすると、インフレをめぐる議論には、もうひとつ重要な文脈がある。
インフレに強い資産とは何か
一般に、現金や預金はインフレ下で価値が目減りする。貨幣は保有しているだけで、どんどん価値が下がっていく。これは多くの人が知っている事実だ。一方で、株式や不動産といった資産は、長期的にはインフレに連動して価値が上昇する傾向を持っていると言われている。
企業はインフレ下において物価の上昇に合わせて商品やサービスの価格を引き上げる。例えそれが名目ベースであっても売上と利益が増えれば、株価もそれに追随するはずだ。さらに、総還元性向(企業が1年間に稼いだ純利益のうち、どれだけを株主への還元に回したかを示す指標)を経営指標として重視する上場企業の多くは、利益が増えれば配当を増やす。つまり、インフレという現象は、現金保有者にとってのリスクであると同時に、株などの資産保有者にとっては資産の膨張を後押しする追い風にもなり得るのだ。
アメリカの15年が証明していること
データで見てみよう。過去15年間、緩やかなインフレが続いたアメリカでは、物価は約1.5倍に上昇した。それに対して、S&P500の配当は2.5倍、株価にいたっては4.5倍から5.0倍にまで上昇している。
インフレ率を大きく上回るリターンが、長期保有によってもたらされている。このデータが示しているのは、インフレを「購買力を蝕む脅威」としてのみ捉えるのは、実態の半分しか見ていないという事実だ。
不動産においても同様のことが言える。物価が上がれば賃料相場も連動しやすい。土地や建物という実物を持っていれば、インフレそのものが資産価値と収益を押し上げる方向に働く場面は珍しくない。
時差を考慮する必要性
ただし、株価が上がるにせよ、配当が上がるにせよ、更には賃料がインフレによって上昇するためには、それなりの時間がかかる。
日銀の金融政策を見ていても分かるように、実際に物価が上がっていても、それが本物のモメンタムなのか一時的なものなのかを見極めるのには、それなりの時間が必要だ。
一般消費者を相手にした商売であれば、安易な値上げで客離れが起きないか慎重になる。あれこれ思案のあげく、思い切って値上げをする。そして、それが結実して利益となるにはそれ相応の時間が必要だ。
その利益が確定してからの配当であるから、配当となるも更に遅くなる。
不動産の賃料では更に時差が出る。短期的にはローンの金利が上昇して収益を圧迫する。それを補うために賃料を上げようとしても、時間がかかるのが現実だ。契約期間が短いとされる普通借家契約でも通常2年契約が多いからだ。つまり、2年ごとにしか賃料改定のチャンスがないということだから、全体の賃料改定をするには最低でも3〜4年という期間が必要となる。
時間軸をどう捉えるかで、景色は変わる
コラムが指摘した「現状に想定している定率や定額による取り崩しでは、将来的に購買力が低下するリスク」は、インフレが始まりかけた時期の短期間において、全くその通りである。
しかし長期的な視野で資産管理をすることによって、4%ルールの「落とし穴」とされるリスクは、かなり違った景色が見えてくる。
つまり、インフレの初期の数年間は、物価上昇による不利益が先行する。しかし歴史が物語っているように長期的には、インフレを上回るパフォーマンスが実現する可能性がある。
この事実を冷静に受け止め、周到に準備しておくことが必要なのである。
インフレ初期を乗り越えるための資産とインフレ下でどんどん成長する資産を分別管理して、それらをどんな割合で保有するかという問いが、リスク管理のスタートラインになる。
インフレを恐れるのではなく、インフレが追い風になる資産をインフレ初期に毀損せずに温存させるポートフォリオを整えておくことが、長期的な資産防衛の核心ではないかと私は考えている。
もっと言うと、それらの資産構成を「いついくら必要なのか?」というライフプランと組み合わせることが肝要だ。
極端な楽観論を勧めるつもりはない。ただ、ひとつの見方だけを正解として受け取るのではなく、複数の角度から物事を検討する習慣が、情報過多の時代にはことさら重要だと感じている。皆さまは、どんな攻めと守りをしていますか?
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