おくり人〜栞〜|綴10『手放される風船』
※本作品には、葬儀に関する描写が
含まれています。
ご遺体、告別式、供花など、
死に関連する場面が登場します。
※本作品は創作です。
登場する人物、団体、施設、企業は
すべて架空のものであり、
実在する人物、 団体、施設、企業とは
一切関係ありません。
※本作品は、
毎週 火・木・土 更新予定です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おくり人 〜栞〜
綴10 『 手放される風船 』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日から2連休だった栞は、
昨日までの出来事で、寝付けない……
こともなく、グッスリ眠れた。
逆に、朝起きるのがダルく感じてて、
未だに布団から出られずにいる。
(何もしたくないなぁ…)
頭から布団へ潜り込むと、シャンプーの甘い
香りが濃くなるのを感じた。
ブー。ブブーー。
枕元から振動を感じる。
スマホの画面には『花奈』と表示されてた。
「おはよう。
どうしたの?」
「栞〜。連休だって?暇してるかなぁ〜?
私も今日休みだから一緒に出かけない?」
「ごめん花奈。なんか……
そんな気分じゃなくて…」
「へ〜。栞にしいちゃ〜珍しいねぇ。
そんな時こそ、美味しいものでも
食べてさ、パァ〜っと買物でもしよ」
「う〜ん。なんかなぁ……」
「ほんじゃ、10時にね〜。
待ち合わせ場所は、LINEで送っとくね」
プッ。
半ば強制的に呼び出された感じが残りつつ、
栞は渋々、布団から這い出て着替えた。
待ち合わせ場所に指定されたのは、
大型ショッピングモールだった。
休日ということもあり、駐車場には
次々と車が入っていく。
栞は車を停めると、大きく息を吐いた。
(帰ろうかな……)
そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎる。
でも、花奈に強引に呼び出された以上、
今さら断るのも悪い気がした。
ブー。ブー。ブー。
ポケットからスマホを取り出した。
『到着〜♪
3階のフードコート前いるから
逃げたら許さん!!』
(なんでバレてんの……)
栞は小さく、クスッと笑う。
エスカレーターから眺める景色は、
日常感じられる喧騒とは違っていた。
子供の笑い声やはしゃぎ声。
遠くでは、赤ちゃんが泣いている。
店員の呼び込みや、流れる音楽。
どれも華やかで、まるでこの世界には
悩みや苦しみなんてないように感じられた。
「おーーーい!」
人混みの向こうから、大きく手を振る
花奈が見える。
白いブラウスにデニム。
肩まで掛かった、ウェーブした髪を
揺らしながら近付いてくる。
花奈は栞に近づきた瞬間、
栞を指さして笑った。
「栞〜!顔死んでるーーアハハハ〜」
「失礼な!!!」
「いや、死んでるって〜。
ゾンビ化してるよ?
いつも、“私が正義です“って凛としてる
栞がぁ〜、ゾンビ〜〜アハハハ〜〜」
「人を何だと思ってるの」
「あっ。喋れるなら大丈夫だ」
花奈は涙を拭きながら、
なおも笑い続けた。
栞は花奈の笑い声に、少しだけ肩の力が
抜けていくのを感じる。
二人は近くのカフェに入った。
注文を済ませた直後、花奈は栞を見据えて
口を開く。
「で?」
「で?」
「何があったの?」
「何がって?」
「ゾンビ化の理由。
絶対に、なんかあるじゃん」
栞は少し視線を逸らした。
何から話せばいいのか分からない。
……というより。
説明しようとすると、自分でも何に
引っ掛かっているのか分からなくなる。
「仕事……」
「あーー。栞の部署、ヤバいもんね〜」
花奈は即答した。
「ヤバいってもんじゃないよ!
ねぇ花奈、聞いてよ〜〜」
栞は、昨日の出来事を話す。
暇なのに、自分だけ作業をしてたこと。
更に、
関係ない業務まで同行させられた…
おまけに、
突然入った仕事の為に残業したこと。
皆は、好き勝手に帰ったり休んだりしてて、
トドメに訳の分からない言葉を残したこと。
栞は真剣な表情で話続けていた。
…っと、花奈が吹き出した。
「マジでー!ウケる!
それ、全員終わってるね。
ある意味、敵だらけじゃん」
「そうなの!」
栞の声が、思わず声が大きくなる。
「聞いてよ!まず館長
人の話聞かないし、一方的に話すの」
「ヤベ〜よね!マジありえないよね〜」
「そうそう。
しかも、会社が違うのに、
勝手に仕事させるし!」
「やっばぁ〜。
それって、労基案件じゃない?」
「しかもさ、何の説明しないの!
だから、私、意味分かんない」
「だよね〜。
ただでさえ関係ない仕事させた上に、
“直しておいて“だけじゃ、わからないよね」
「さらにさ!
夏帆さんも酷いんだよ」
「ふん。ふん。
何されたの?」
「何考えてるか分かんないし、
質問しても答えない!
何なら、煙草ばっか吸ってる」
「精神的ストレス以外にも、
副流煙被害受けてるよね〜
栞、死んじゃうよーー」
「本当、それ。
さらに、山ちゃんも酷いの!」
「お〜!でた!山本!」
「仕事押し付けるし、知らん顔ばっか。
しかもさ、忙しくなると居なくなるし、
都合悪いと、自販機へ向かうんだよ」
「ぎゃはははは〜。
ダメダメ男の山本らしいね〜。
マジムカつくね〜〜」
「ホント、ムカつく!
ほいでさ、べーさんは電話出ないの!
私、大ピンチなのに無視よ?無視!」
「ぎゃはははは〜〜!
栞、可哀想〜〜。
もう踏んだり蹴ったりだよね」
「しかもさ、姉さんも意味分かんないの!」
「えっ、お姉さんまで?」
「私、悩んでるのに、話聞いてくれないし
意味不明な言葉ばっかり返すんだよ」
花奈は腹を抱えて笑い出した。
「ちょっと!笑い事じゃないんだけど!」
「だってさぁ〜」
花奈は涙を拭きながら言った。
「栞の職場って、変人ばっかじやん。
真面目な栞には合ってないよ」
「そう思う?」
「思う、思う〜。
だから、葬儀なんて暗い世界やめて、
ブライダルしよって言ったじゃん。
栞、頑固だから聞かなかったし〜」
「いや…私は、お葬儀の仕事自体は
嫌いじゃないよ。
職場とか、そこで働く人がーー」
「ガチャ外れたね〜。
そんなトコさ、早く辞めて
ウチにおいでよ。
栞、顔も綺麗だし、
生ける花もセンスいいし、
ブライダル向けだよ?」
「……」
「それにさぁ〜。
ブライダルのプランナーって、
イケメン揃いなんだよね〜。
元部さんとか川上さんとか、
元モデルだから、身長高くてねーー」
花奈の話は、
途中から聞こえなくなっていた。
栞は、自分の頭の中で広がる
白いモヤを見つめる。
正直、華やかなブライダルの装花を生けて
みたい気持ちがないわけではなかった。
でも…何か違う。
私は……お花を生けるは好きだけど…
何か違う…。
「……ぇ…。
栞……。
お〜い!栞〜。
聞いてるかぁ〜?」
突然、花奈の近づた顔が視界へ飛び込んだ。
「あっ。
ごめん。
聞いてなかった」
「もぉ〜。
こりゃ〜かなり重症だね。
そうだ!
ウチの店長に話しとくからさ、
今度、ウチへ面接受けにおいでよ」
「え?」
「そんなトコ、さっさと辞めて
パ〜っと心機一転、
ウチで一緒に働こう?」
「か…花奈、私ーー」
「でさ、合コン開こうよ!
花奈が居れば、
絶対イイ男群がってくるよ」
盛り上がる花奈に戸惑いながら…
栞の頭に浮かぶ言葉が拭えない。
“そんなトコ、早く辞めちゃえよ“
言葉の主へ、強く否定もできないし…
そのための言葉が浮かばない。
何故、彼女の…花奈の言葉が、
こんなにも自分を揺らすのかが
分からないまま…
栞の頭の中では…職場を離れた未来と、
働いてる過去の姿を並べていた。
カフェの外で、子供が転んだ。
手にした風船が…
その手を離れて、飛んでゆくのが見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
🔽次の話〜綴11〜
🔽前回の話
