おくり人〜栞〜|綴8 『 私…何してるんだろ? 』
※本作品には、葬儀に関する描写が
含まれています。
ご遺体、告別式、供花など、
死に関連する場面が登場します。
※本作品は創作です。
登場する人物、団体、施設、企業は
すべて架空のものであり、
実在する人物、 団体、施設、企業とは
一切関係ありません。
※本作品は、
毎週 火・木・土 更新予定です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おくり人 〜栞〜
綴8 『 私…何してるんだろ? 』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヒヤリとした冷気が手元を伝って
足元まで流れ込む。
「素手で触ったら火傷するから、
これ着けて」
そう言って吉村は栞へ軍手を渡す。
ビリ…ビリビリ……。
ドライアイスを包むクラフト紙が
破かれると、その下には、白い煙が溜まる。
栞は軍手を着けてながら、
吉村とドライアイスを交互に見た。
手際よく、それを綿花で包む。
カチャ。
バタン。
保冷バックに、綿花に包まれた
ドライアイス3つが納められる。
「え〜っと、バンドと…
一応、納体袋と…飾り棚と…」
少し埃っぽい棚から、
吉村はモノを取り出しては、
“はい“っと栞へ渡す。
プップ~~!
栞達が居る倉庫の外から
クラクションが鳴る。
倉庫の扉を開けると、
白のエスティマが停まっている。
「ヨッシー準備でけた?」
「館長!仏式でいいですかね?」
「とりあえず、それでええよ」
エスティマのバックドアが上がる。
車内は、通常の内装とは違い、
運転席後部は、ストレクチャーが入る用に
作られていた。
「ヨッシー。
栞ちゃんと一緒に、平棺積んどいて」
(平棺???)
「しおちゃん。
この箱、一緒に倒して」
吉村の身長より高い箱…
多分、180センチくらい?
重さは…ギリ持てる……けど、
持ちにくい。
吉村と一緒に箱を倒した。
バリ、バリバリ。
ビーーー。
箱が破られると、
その中から木製の棺が姿を現す。
覗き窓と言われる開き蓋を開け、
そこに敷かれた保護用紙とフィルムを
吉村は取りぞいた。
「しおちゃんは、棺拭いて」
そう言って、
硬く絞られた雑巾が差し出される。
「白い粉が付くから、綺麗にね」
そう言って、
吉村ら棺の蓋を近くの壁へ立て掛け、
棺の中に布団セットらしきものが
入った半透明の袋と…
杖らしきもの。
草履。
扇子?
それらをエスティマへ積んでいく。
「拭いた?
あ〜、蓋も拭いてね」
そう言いながら…
栞の持つ雑巾を奪い取って、
吉村自身が、棺の蓋を拭きはじめた。
「ヨッシー。
俺、先に出るから、
段取り出来たら
エスティマで来てな」
「館長!場所はー?」
「東ニコニコ病院や。
一応、カーナビセットしてるよ」
そう言って、
館長は別の車で出ていく。
「ほんじゃ、
この棺を式場にある台車に積んで…」
「えっ?
これ持ってかないんですか?」
「ん?
これは、段取り。
帰ってきたら、
準備してる間ないからね」
「棺の準備も、
コンパニオンがするんですか?」
「しないよー。私がしてるだけ。
それより、急いで館長を追いかけるよ」
バタン。
車で走ること約20分。
病院の裏手にある、
緊急受け入れ口へ警備員に誘導された。
入口では、館長と看護師が待っている。
「ほな、行こうか〜」
そう言って、
エスティマからストレクチャーを降ろす。
「しおちゃんは、とりあえず
私についてきて」
吉村に促されて、言われた通りに後に続く。
ガラガラ…。
ガラガラ……。
裏口から入り。
受付が見える奥の通路を進んだあと、
突き当りのエレベーターを3階へ上がった。
それを降りると、
通路の両脇には病室の扉が並ぶ。
栞達は看護師の先導で進む。
…っと、病室の前で看護師が止まった。
コン。コン。コン。
ガラガラ…。
病室にはベッドが一つと、
その隣に椅子へ腰掛ける老女が一人。
栞は何故か、その老女の顔が見れなかった。
いや……無意識に見ないようにしていたの
かもしれない…。
そのかわり、ベッドへ横になる…
気配の感じない姿を眺めていた。
「この度は、ご愁傷さまです。
故人様のご仕度を整えますので、
一度、
お部屋の外まで足を運んでいただき、
お待ち願えますか?」
館長の案内が終わると同時に、
吉村が、老女の手と腰に手を添えて、
一緒に部屋を出た。
「エンジンケアしてますので、
特に処置は必要ないと思いますよ」
看護師が館長へ伝える言葉の意味は、
栞にとって、何一つ分からなかった。
「綺麗な顔してはりますね〜」
そう言いながら、
館長は故人の頭頂部から顎にかけて、
白い帯の様なものを付けた。
「栞ちゃん、
故人様の左手持ってくれるか?」
「え?」
困惑する栞を察してか、
看護師が代わりに動く。
2人は丁寧に、故人の手を胸元で組ませ。
館長は、その故人の組まれた両手を
固定するように、白い帯で巻いた。
「すんません。看護師さん。
故人様を少し傾けたいんですが
ええですか?」
手慣れた動きで、故人の右肩から腰までを
半身分転がした。
そこへ部屋へ戻った吉村が、
ストレクチャーに備え付けてある
タンカーを外し、
故人とベッドの隙間へ差し込む。
タンカーの上に故人が乗ると、
予めタンカーに載せてた敷布団の両脇から
故人を包み込める布が持ち上がる。
その布で、故人は覆い隠された…。
呆然とする栞に、
手招きする吉村の姿が認識される。
「ここ持ってね」
それは、故人の足元に当たる辺りから出る
タンカーの取っ手だった。
「それでは、よろしくお願いします」
“せ〜の“っと、館長が小声で言う。
館長、看護師、吉村、栞の4人で
タンカーを持ち上げ、
ストレクチャーへ乗せる。
ガラガラ…
部屋の扉が開かれると……
すぐそこへ備え付けられてたソファに
老女は腰掛けていた。
その隣には、別の看護師がついてる。
「それでは、お願いします」
部屋で一緒に居る看護師が言った。
吉村は部屋から出る時と同じく
老女の手と腰に手を添えて何処かへ行く。
少し部屋で館長と栞は待った。
珍しく、館長は一言も発しない。
ただ、閉じられた扉を眺めてる。
ガラガラ…。
開かれた扉には、先程の看護師が2名。
その看護師達は、診察室で見かける
移動式のパーテーションを持っていた。
「行こっか」
囁くような館長の声。
ストレクチャーが進む。
そのストレクチャーを隠すように、
パーテーションが動く。
館長も看護師は何も話さない。
ただ進む。
辿り着いたのは、
来た時の緊急出入り口だった。
そこには、パイプ椅子に座った老女と
隣に立つ吉村の姿があった。
エスティマのバックドアが上がる。
ストレクチャーを受け入れるストッパーが
下がる。
カチャ。
カチャ。
シャー。
エスティマの中へ…
ストレクチャーが吸い込まれて行く。
「それでは、合掌下さませ」
吉村の声が響いた。
エスティマの扉が下がるのに合わせ…
その場に居る栞達は合掌する。
「それでは、
これより会館へ向けて出発しますね」
そう言ってドアにあるスイッチを押す。
後部座席の扉がスライドした。
吉村は丁寧に、老女を車へ案内する。
「ありがとうございました。」
乗車寸前、老女は看護師2人へ向き直り
頭を下げた。
看護師2人は老女へ深々と頭を下げる。
老女が車へ乗ると、館長は看護師へ会釈し、
ポケットから何か取り出して吉村へ渡した。
パァ〜〜ン
小さく、短く鳴らされたクラクション。
エスティマが出でいく。
その後ろ姿を……栞と吉村、
看護師は合掌と一礼で送り出した。
吉村は、看護師へお礼を伝えたあと、
館長が乗ってきた車へ栞と向かう。
「ぶっ飛ばすよ?」
車の中で、色々質問しようと考えてた栞。
猛スピードで走る車の中で、その考えは
吹き飛んでた。
エスティマより早く栞達は会館へ着いた。
吉村に先導されるまま、
栞は、会館の正面玄関ロビーで
入口を挟んで直立不動で立つ。
(私…何してんだろ?)
(何見せられてるんだろ?)
次々と浮かぶ疑問の中……。
白いエスティマが到着した。
その後は、館長が「届けだしてくるわ〜」
っと言って出ていき。
吉村は、後から来た親族の対応でパタパタ
走り回ってる。
栞はポツ〜んと、事務所に残された。
「あ…。
そうだ、
一応連絡しとかないと…」
スマホを取り出して、事務所に居る山本へ、
仕事が入ったことを告げる。
山本の返事は沈んだ声に変わってた。
「おー。何してんの?」
事務所に現れたのは、
この会館スタッフの下澤だった。
「あ。お疲れ様です。
さっき、お迎えに行ってました」
「え?花屋なのに?
お迎えに行ってたの?」
そう言うと下澤は笑いながら、
書類の詰まった黒い鞄を持って出ていった。
(私……何してるんだろ……)
再び、事務所で一人になった栞は、
モヤモヤが胸で広がるのを感じた。
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