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おくり人〜栞〜|綴20 『 この葬儀は、誰の未来のため? 』

※本作品には、葬儀に関する描写が
  含まれています。
  ご遺体、告別式、供花など、
  死に関連する場面が登場します。

※本作品は創作です。
  登場する人物、団体、施設、企業は
  すべて架空のものであり、
  実在する人物、 団体、施設、企業とは
  一切関係ありません。

※本作品は、
  毎週 火・木・土 更新予定です。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おくり人 〜栞〜
綴20『 この葬儀は、誰の未来のため? 』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ゴォ~~~ン。


本堂に、再び鐘の音が響いた。


「これより、お別れの儀へ移らせていただきます。お別れの準備、整いますまで、そのままお席にてお待ち合わせの程、よろしくお願い申し上げます」

アナウンスが流れる。

すると、本堂の空気が少しだけ変わった。

祭壇前に、黒服のスタッフが数人集まり…
住職や役僧が使っていた祭器を、祭壇前から
両脇へ移動していく。

何も無くなった祭壇前には、故人の眠る棺が
残った。

栞は、用意されていた白い百合や小菊の
入った花籠を手に取ろうとする。

すると…

「間宮っち」

背後から、穏やかな声が聞こえた。
振り返ると、部長の岩田が立っていた。

「はい?」

「今日は、そっち行かなくていいよ」

「えっ?でも、手伝わないと…」

「いいから、いいから」

そう言って、岩田は祭壇の方へ視線を
向ける。

そこには、故人の周りへ花を手向ける
親族達の姿があった。

泣いている人。

笑っている人。

写真に向かって何かを話している人。

「こんなお別れ、滅多に立ち会えないよ」

岩田は、そう言って栞を自分の横に立つよう
目配せした。

栞は訳も分からないまま、岩田の横に立って
お別れの風景を眺める。

「間宮っち、今日はずっと案内してたよね
 だから、今は眺める時間」

そう言って…
岩田はニヒルな笑みを浮かべた。

栞は少し戸惑った。

今まで、お葬儀の現場で立ち止まったことが
ない。

いつも動いていた。

供花を運び。

受付を手伝い。

案内をして。

香典返しを渡す。

立ち止まる暇なんて無かった。

でも…。

今は違う。

「……」

栞は、ぼんやりとお別れを見つめた。

棺へ一本、また一本と花が添えられていく。

誰かが泣いている。

誰かが微笑んでいる。

誰かが肩を支えている。

その少し後ろでは…
静かに会釈を交わしている人達もいた。

「綺麗ですね…」

思わず言葉が漏れた。
岩田は何も言わなかったが、ニヒルな笑みを
返してくれた。
そして、同じ方向を見ていた。

「でも…なんか、不思議です」

「そうか」

「はい…何かは分からないですけど…」

目の前では、お別れの為に供花を切る山本や
べーさんの姿。

そして…
花籠から参列者へ手渡す吉村や夏帆の姿。

一般の参列者は、備え付けられた献花台へ、
お花を添えていく。

その様子を、栞は岩田と眺める。
少し申し訳なく感じた。

自分だけ…こうして眺めていることに……。

「俺や夏帆っちてさ。
 この風景を想像して挿すこともあるよ」

唐突な岩田の言葉に、思わず栞は彼の顔を
見た。

「…って言ったら、カッコいいかな?」

「……部長、この場で冗談はキツイです」

岩田はニヒルな笑みを返した。

「間宮っちさぁ」

「はい」

「セックスって、どう捉えてる」

「…、……、は?
 はいぃぃぃぃ???」

栞は思わず大声になりかかった口を、
両手で押さえた。

少し声が聞こえたようで…
遠くから信孝が睨みつけている。

それより栞には、今しがた岩田が放った
言葉に意識が向いていた。

(な…、何言ってんの?この人!
 これって、セクハラ?
 その前に、こんな場で何言ってんの?
 もしかして、ヤバい人?ヤバい?)

栞の頭の中では、無数の言葉が飛び交う。
同時に、整理出来ない無数の感情も湧く。
そんな栞をそっちのけで岩田は続ける。

「セックスってさ…花を生けたりするのもだ
 けど、葬儀そのものに似てるんだよね」

ニヒルな笑みが、今やイヤらしい笑いにしか
感じない。

「あ…あのぅ、やめてくれません?
 こんな話。不謹慎です」

「あれ?もしかして未経験?」

「◯✕▲#@………」

栞は言葉にならない言葉を呟いた。

表情には…少し怒っているような…
恥ずかしがっているような…
そんな色が浮かんでいた。

そんな栞を眺めながら、岩田は続けた。

「言葉が強かったかな……俺が言いたいの
 はさ、性行為の話じゃない」

(イヤイヤ!
  普通、誰が聞いてもその話っしょ!)

言葉には出さなかったが表情には浮かべ
た。

「それぞれの想いと感覚、価値ってさ
 重なる点が多い程…
 感情に深く響くって思う」

岩田の言葉は、栞の頭の中の声と湧き上がった無数の感情を鎮めた。

「…それって、どういう事ですか?」

ニヒルな笑みが返る。

「俺達、花を挿すだろ?
 でもさ、それだけを見たらそれで終わる。
 花を生ける前に、届ける相手がいる。
 花を生けたら、見る相手がいる。
 花を手向けたら、残る相手がいる」

栞の表情を見て、岩田はニコッと微笑む。

「…って、言ったらカッコいいかな?」

「………。
 もういいです」

何かが響きそうだった。

………けど、彼の余計な一言が台無しにしている。でも、微かに…胸の奥で何かが引っ掛かったような感覚だけが残った。

だけど…その感覚を栞は言葉に出来ずにいる…。

「多分ね、間宮っちが見えてる今日のお葬式
 は…俺の話に感じた違和感に似てるかもな」

「……セクハラの正当化ですか?」

「そうも見えるよな」

そう言って、
岩田はニヒルな笑みを浮かべた。

「花は、一本じゃ…ただの花。
 だけど、ああやって生けると、1つの
 形になるっしょ?」

「……はい」

「人と人の繋がりもさ、想いの重なりも、
 多分、離れてみると形が見える…。
 って、俺は思うんだよね」

「……」

なんか…この人の言ってる言葉は何故か染みる。だけど…

「俺って渋い?」

染みる直前に、自分自身でブチ壊す。
…これって、ワザと?

そんな事を考えていると…栞の目の前を、お別れを終えた参列者が出口へ向けて移動していく。

出口へ向かう参列者達の背中を眺めながら、岩田がポツリと呟いた。

「間宮っちさ…もし、付き合ってる彼氏が
 いたとしたらさ、誰の彼氏になるの?」

「……は?」

栞は、思わず岩田の顔を見る。

「いや、そのまんま」

「いやいや…。そのまんまって…」

「間宮っちの彼氏ってさ、間宮っちだけの
 彼氏になるのかな?」

「そりゃ…そうじゃないですか?」

「そうかなぁ?」

ニヒルな笑みが返ってくる。

その表情を見るだけで、何となく嫌な
予感がした。

(あっ…。これ、また変な話になる)

栞は、そう確信した。

「その人には親がいるっしょ?」

「……はい」

「友達もいる」

「はい」

「仕事もある」

「はい」

「趣味もある」

「はい」

「過去もある」

「はい」

「色んな人との繋がりもある」

「……はい」

「でも、彼氏になる」

「……」

言われてみれば、そうだった。

当たり前のことなのに…何故か少しだけ
不思議に聞こえる。

「誰か一人のものになる訳じゃないんだよね」

「……」

「色んな繋がりを持ったまま、関係って
 重なっていくんだよ」

岩田は、本堂の方へ視線を向けた。

「葬儀も似てるんだよね」

栞も同じ方向を見る。

棺の周りには…
まだ何人もの人が集まっていた。

手を合わせる人。

涙を流す人。

写真へ語り掛ける人。

少し離れた場所では、名刺を交換している
人の姿も見える。

「故人だけのお葬儀じゃない」

「……」

「残された家族のお葬儀でもある」

「……」

「久しぶりに再会した人のお葬儀でもある」

「……」

「人生が動く人のお葬儀でもある」

「……」

「未来が動く人のお葬儀でもある」

栞は本堂中央で、出棺に向けて並ぶ喪主や
親族、そして…まだ残っている参列者を
眺める。

誰かと会話している。

誰かが笑っている。

誰かが頷いている。

その輪は、少しずつ広がっていた。

その光景を眺めていると、
ふっと岩田が呟いた。

「でもさ…俺は、未来って作るもんじゃない
 と思ってる」

「え?」

「勝手に出来るもんなんじゃないかな」

栞は、首を傾げた。

すると岩田は、出口へ向かう人達の背中を
指差した。

「あの人達さ」

「はい」

「今日、何か持って帰ると思う?」

栞は、少し考える。

「……出来事、とか?」

「うん」

「出会いとか…?」

「うん」

「故人様との思い出…とか」

「うん」

岩田は、ニコッと微笑んだ。

「それ、それ」

「え?」

「そうやって残ったものが、勝手に未来に
 なると思うよ」

「……」

「だからさ、間宮っち。
 俺としてみる?」

「……。
 …………ん?
 んん? 
 ……何をですか?」

「セックス。俺としてみる?」

話の脈絡が全く分からない。
暫く考えて……栞は頭に血が上るのを感じた。

「誰がするかーーーぃ!!」

その声は、本堂に響く。
親族や参列者の数人が、栞達を見る。

栞は思わず口を両手で押さえた。
離れた場所で夏帆がニヤニヤしてる。

そして…凄い形相で、こちらへ近づく信孝の姿が見えた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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