短編小説 『逢瀬』 第二話
*
気温は下り坂へ、空気は冬へと歩み始めていたというのに、その週は急激に気温が上がり、季節外れの桜が咲いていた。
所長の呼び出しから戻り研究室の扉を開けたそこに、自身の机で頭を抱えるようにして項垂れている春也くんの背中を見つけた。私の前に所長に呼び出されていた彼も、きっと私と同じ話を聞いたはずだ。火星移住計画の話。わざと音が響くように扉を閉めて、靴音を鳴らして、彼の向かいにある自分のデスクに足を運んだ。おまけにぎい、と椅子がきしむように体重をかけて座る。そうすると、春也くんの頭はうずくまるように、いっそう深く沈み込んだ。私たちは今、きっと同じことについて気を巡らせている。彼の言葉を聞きたい。彼も同じことを思っているはずだ。
「春也くんも同じ話、聞いたんでしょう?」
「……火星の話なら、聞いたよ」
「そう、それ。同じ話だ」
来期から新たなプロジェクトとして火星移住プロジェクト、そして地球保護プロジェクトが始動する。春也くんは前者、私は後者に配属されるらしい。
「嫌なら断れば?」
そういう問題じゃあない、そう言い返されそうだなと思いつつ一応、聞いてみる。
「そういうことじゃあないだろう……そもそも拒否権もないだろうし……」
ほら、やっぱり。窓の外で穏やかに咲く桜の木を眺めながら、冷え切ってしまった机上の珈琲をすすり唇を湿らせる。言葉を探す間の沈黙。
「だって、こんなこと考えもしなかったんだよ……」
春也くんが呟いた。黙って頷いた後に、顔を伏せた彼にそれは見えていないことに気が付く。それでも彼は私が続きを待っているのを理解してまた言葉を零していく。
「本当に、考えもしなかった。僕の研究だって、僕らが地球で生きていくためのものだよ。それなのに……いきなり火星、って言われても……」
そう言って春也くんはまた黙り込んでしまった。あまりにも赤裸々に動揺を打ち明ける彼を見て、逆に私の頭の中が澄んでいくような感覚がした。この星を捨てるなんて考えもしなかった。それでも私たちは今、それを考えなければいけないほどの場所に立たされている。
「あらゆる可能性のためにあらゆる選択肢を用意するのは、合理的”では”あるのよね」
「そうなんだ、合理的”では”ある」
春也くんがゆっくりと顔を上げる。額を両の掌に押し付けるようにしてうめき声をあげている。火星移住計画と地球保護計画を同時に進めるのは、合理的”では”ある。
「でも、故郷を諦めるにはまだ早い。そうだろう?」
「うん、まだ私たちにできることはいくらでもある」
「そうだよ、そして僕らならなんだってやるさ」
「そう、私たちならね」
顔を見合わせてどちらともなく困ったような顔で笑いあう。笑いが収まれば、困り顔だけが残る。
「どうして僕ら、別々のプロジェクトになっちゃったんだろう。一緒に地球のプロジェクトを任せてくれれば良かったのに」
ため息をついて俯いて、また少ししんみりとした空気が漂う。私たちはまだ地球を諦めたくない。手遅れになってから移住計画を始めたら人類は滅亡してしまうよ、なんて正論は私たちに何ももたらさないし、私たちの心の中の暗い靄を晴らすことはできない。そんな正しさはお呼びでないのだ。
「私達みたいな優秀な人材がそれぞれのプロジェクトに入れば、きっと両方成功しちゃうね」
「……はは、そうだ、そうだね」
少し持ち上がった彼の視線を逃すまいと、身体全体を彼の方向に向けなおす。
「わたしたちが、なんとかしてみせようよ」
逸らさないようにじっと目を見つめながら、ゆっくりと伝える。私たちが悩んでいる暇なんてないのよ。悩んでいるうちに、地球も人類も滅んでいくのよ。春也くんは少しの沈黙の後、覚悟を決めたように目を合わせたまま強く頷いた。
それからは、そうなったら地球と火星、どっちに住む?なんて他愛もない、いや、当時の私たちにとっては他愛のない話に花をさかせた。窓の外の季節外れの桜が、視界の端でいやに綺麗に揺れていたのを覚えている。
*
心なしか、いつもより弱い太陽の光で目が覚める。弱い光を、淡い黄色が反射している室内。ほんの一瞬だけ夢の中にいるような気分になってから、自分がいま火星にいることを思い出した。寝ぼけ眼のままベッドを出ると、薄黄色の壁の一部が百八十度回転して洗面所が現れる。これはハイテクと言っていいものなのかしら、と思いながらおぼつかない足取りで朝の支度を始めた。
「おはよう、聡子さん。遅いからご飯先食べてたよ」
「うん、春也くんおはよ」
昨日の説明をおぼろげに聞き流していたせいで、自室を出てからリビングにたどり着くまで相当時間がかかってしまった。一口かじった私の分のトーストは焼いてから時間がたっているせいでしんなりしてしまっていて、何とも言えない気持ちになる。
「今日は聡子さんがやりたいことがあれば出来る限りやる予定なんだけど、なにかご希望は?」
そう言って春也くんはトーストの最後の一口を口に放り込んだ。
「やりたいことねえ……考えるから、ちょっと待ってて」
「わかったよ」
マドレーヌを塗りたくってどうにか美味しく食べられるようにトーストをドレスアップする傍ら、「やりたいこと」について考える。映画を見るのも本を読むのも、帰ってからできる。どうせなら火星でしか出来ないことをやりたいものだ。では、オンライン対戦ゲームはどうだろうか。地球にいると、火星とのラグが大きすぎて話にならない。最近はソロプレイ用のオープンワールドゲームをやりつくしてしまい困っていたところだ。
「対戦ゲームがやりたい。火星ならラグなんてないでしょう?」
なかなかに名案だろう。そう思って春也くんの顔を見上げると、眉毛をㇵの字にして下唇を強くかんでいた。あ、なんともいえない、って時の顔だ。
「それは、物珍しい出来事を一通り体験した後の玄人の楽しみ方じゃない?」
「なに、生活の方法に玄人も素人もないじゃん」
そっちからやりたいことないかって聞いてきたくせに、文句つけやがって。少し癪に感じながら次の案を考える。
「じゃあ、今日は春也くんの普通の休日についていくことにする」
再び春也くんはなんともいえないという顔をしながら、一応この案を了承してくれた。
MARSじゃがいも、 エウレカニンジン、夏日星みかん。
「……仕送りと一緒だ」
「そうだよ、いつもここで買い物しているからね」
春也くんの普通の休日、最寄りの大型スーパー。彼はいつも休日にまとめて買いだめをするらしい。火星に来て初めて商業施設に入ったが、利用客の多さ、というよりも単純に人の多さに驚いている。そういえば人間ってこんなにたくさん生きていたっけ。地球から社会が去ってからそれほど時間はたっていないはずだが、暇と退屈は脳みそを麻痺させるものだ。以前これだけの数の他人を見たのはもう遥か昔のことであるように感じられた。
店の内装はかつての地球にあったそれと大して変わっていない。ノスタルジーというか、懐かしさを覚えるほどだ。当の地球には、今はもう最低限の施設しか無くなってしまっている。
「聡子さんはなにか買いたいものないの?必要なものあれば買ってあげるよ」
「うん、ほしいものあったら勝手にかごに入れるから大丈夫だよ」
「それは大丈夫とは言わないだろ、言ってから入れて」
「言えばいいんだ」
「うん、言えばね。そこまでケチじゃないよ」
春也くんは買い物メモから目を離さずぽいぽいとかごに商品を積み込んでいく。普通の日常を送る彼を横目に、私も店内を物色していく。目に馴染みのある食材ばかりだが、どれもこれも火星の環境に適応できるように品種改良されたものばかりで品種名は見たことがないものばかり。懐かしいようで目新しいような不思議な景色だ。
しばらく生鮮食品コーナーを歩いたのち、調味料コーナー、冷凍食品コーナー、菓子類コーナー、生活用品コーナー、と順番に回っていく。途中で手に入れた買い物かごには冷凍ポテト、紅茶パック、知育菓子などほしいものを何も考えずに放り込んでいく。たまにはオフラインショッピングも楽しいものだ、なんて考えているところにふと気が付く。春也くんがいない。というか春也くんの存在をすっかり忘れていた。こんな年齢にもなって迷子だなんておかしな話だ。来た道を引き返しながら春也くんの顔を探す。さっきまで商品棚に集中していた視界が、店内全体に行き届く。懐かしいようで、目新しいような。見覚えのあるようで、初めて見たものばかりで、さきほどまで私をわくわくさせていたものたちが、今度はなんだか不気味な様相を呈している。首元を通り過ぎる冷たい風が全身の温度をゆっくりと下げていくのを感じた。
「あ、いた!聡子さん!こんなところにいたのか、心配したんだから」
声のしたほうを振り向くと、先ほどよりも買い物かごをいっぱいにした春也くんがゆっくりとした足取りでこちらに向かって来ていた。彼の顔をみて安心するなんて。少し悔しい気持ちになった。
「もう、春也くんたらどこいってたの?迷子?」
「こっちのセリフだよ」
ふたりでけらけらと笑いあう。春也くんは眉をㇵの字にして口角を硬直させている。これは、呆れ笑いの顔だ。
*
例年よりずいぶん早く梅雨入りをした直後、窓を容赦なく打ち付ける大きい雨粒たちに対して、テレビが繰り返し警報を鳴らしていた。左と下を鳴りやまない警報に圧迫されたテレビ画面では、ニュースキャスターがいつも通り真面目な表情で世の関心事を述べ続けている。袋小路にはまった思考の中で、とめどなく流れてくる情報は邪魔者以外の何物でもなかった。リモコンを乱暴に手に取りテレビの息の根を止めようとしたところで、次のニュースを見て手が止まる。
「__次のニュースです。世界火星移住計画、WMIPは日本時間の今日十一時半からの記者会見で、人類の火星移住の具体的なプランについて公表しました。」
耳は言葉を拾わなくなってしまったが、ぼんやりと流される宇宙空港の映像だけは瞳に染み込んでくる。私と春也くんが別々のプロジェクトに配属されてからしばらく経ち、私たちはそれぞれの場所で全力を尽くして研究に勤しんでいた。尤も、それが功を奏しているのは春也くんのプロジェクトだけだったが。私はというと、停滞どころか後退するばかり。どんな手を打っても環境の悪化を止めることができず、地球では日常に支障をきたすほどの異常気象がもはや日常になりつつある。坂道で重い台車を押し上げているような、ゾウと押し相撲しているような、ここから歩いてローマに行こうとしているような。まあつまり、打開策の効果よりも状況の悪化のスピードが圧倒的に早いということ。私たちがまだ早いと思っていた「故郷を捨てる」という選択肢が、日々現実味を増して迫っていた。
「今回我々は、特別にWMIPの満島春也さんにインタビューする機会を頂きました」
テレビの向こうに、小綺麗に身なりを整えた春也くんが登場する。そういえばしばらく彼と連絡を取っていないな。ぼうっと春也くんのインタビューを眺めていると、携帯が鈍く振動する。着信元は春也くんだった。噂をすればなんとやら。ねえ、わたしたちがなんとかしようって言い出したのは私だったよね。掌の中の携帯の振動だけを感じる時間がしばらく続いたが、いつの間にか着信は途切れてしまった。少しおいて、新着メッセージ通知。
『いつでも良いので、都合の良いときに折り返し連絡ください』
春也くんからだ。追ってスタンプも送られてきた。今連絡しないともう一生彼と話せなくなるような気がして、すぐに電話をかけた。三コール目で発信音が途絶えた。
「もしもし」
「もしもし聡子さん、今時間大丈夫?」
「うん、いまちょうどニュースで春也くんのインタビュー観ていたところ」
いまも携帯のスピーカーとは異なるところから、画面越しの春也くんが私ではない人々に対して向けた言葉を発している。
「ええっ、関テレのやつ?恥ずかしいから本人に報告しないでよ」
「ふふ、そうそう。かっこいいんじゃない?知らんけど」
「からかうのやめてよ。聡子さんいま、信じられないくらいニヤニヤしてるんだろ」
「ご名答」
くすくすと笑いが漏れる。久々の連絡だった。でも声を聴けばすぐにこの心地よいリズムを思い出す。二言三言あいさつ代わりの世間話をして本題に移った。
「それで、何の用なの?」
「ああ、そうだ。重要な話。僕、来年火星に移住することになったんだ」
やけにあっさりと伝えられたそれに、言葉が詰まる。
「この計画が始動した以上こうなることはわかっていたけどね。やっぱり少し緊張するよ」
「……そうだよね、そっちは、順調だもんね」
言ってからしまった、と後悔する。八つ当たりするような、あてつけるような言い方。彼は優しいから、こんな言葉を聞いたら私の機嫌を取ろうとしてしまうだろう。
「地球がより良い方向に向かえなかったのは聡子さんのせいじゃなくて、数千年間人類がなしてきた愚行の蓄積の結果だ。聡子さんが全てを背負い込む義理はないだろう?」
「そんなの問題じゃない。わたしたちがなんとかしようって言い出したのは、私だったでしょう」
彼は優しいけれど、私は優しい言葉がほしいわけじゃない。あの季節外れの桜の日の約束。あれは希望でも願望でもなく、確かに意思だった。
「確かにそうだ。僕はその言葉のおかげで覚悟を決められたんだ。聡子さんが僕らをここまで連れてきたんだよ」
「やめてよ、惨めなだけじゃん」
「そんなに自分のことを卑下しなくたっていいじゃないか。聡子さんの研究は人類にとって重大な価値を持っている。僕が保証するよ」
違うんだ、春也くん。
「春也くんは人類を救えたけど、私は地球を救えなかった。何よりも明確な答えじゃない?」
自嘲めいた口ぶりで、これじゃあ慰めの言葉を欲しているみたいだ。違う、違うんだ、伝わらない。
「火星計画では昔の聡子さんの研究が役に立つことだってあった。人類を救ったのは僕じゃなくて僕ら、研究者全員だ」
哀れに思って慰めているのではない。本当に彼はそう思って言っているのだということが口調から伝わってくる。私が考えていることが伝わっていないのだということも、伝わってくる。
「違うの。ねえ、春也くん聞いて」
いつから私たちは、ずっと同じものを見ていると勘違いしていたのだろう。きっと最初から、同じ場所にいても瞳に映ったゴールは違うものだった。
「私ね、私が愛していたのはね、人間じゃなくて、地球だったの」
穏やかに咲き乱れる桜、しとしとと降る雨、窓の外から聞こえる虫の鳴き声、雨が降った後の土の匂い、群れで身を寄せ合う雀たち、眠たげな木漏れ日。全てを愛していた。いまはもうどれも滅びてしまった、いつかの日常。人類の行く末を案じていた彼の隣で私が見ていたのは、ほかでもないこの地球そのものだった。
二人の沈黙の間に、電話口の向こうの息遣いと布がこすれる音、雨が窓を殴る音、いつの間にかバラエティ番組に移り変わったテレビの効果音が、境界線を濁しながらこだましている。
*
火星に来てから一週間と少し、この頃には春也くんはもう私がリビングでインクペイント系陣取りゲームをやることに文句を言わなくなっていた。なんならたまに一緒にゲームをプレイしていた。今日も例にもれず、ふたりで大きなスクリーンの前に座り込んでペンキをまき散らしまくっていた。こちらのチームが優勢になってきたところで春也くんの携帯電話が鳴り響き、二人同時に動作が鈍ってキルをとられてしまった。
「春也くんのせいで死んだんだけど」
「これは僕のせいじゃないだろ」
軽口をたたいている間にも試合は進行し、着信音は響き続ける。
「電話、出ないの?」
「これは私用携帯だし……あとででも平気……」
相手チームに押されてきている。余裕がなくなって春也くんの返答がとぎれとぎれになってきたところで制限時間を迎えた。
「あーこれ絶対負けた、絶対春也くんのせいだ」
「だから僕じゃなくて……阿久津くんのせいだ」
春也くんはコントローラーを置いて先ほどの着信元を確認した。スクリーンでは太った猫が相手チームの色の旗を振り上げている。
「あー、阿久津氏……懐かしいね……」
「僕にとっては今も仕事仲間なんだけどね。電話、かけなおしていい?」
「うん、いいよ」
春也くんのコントローラーで対戦から離脱しながら返事をした。春也くんは電話の発信元である阿久津恭弥くんに電話をかけ始めた。阿久津くんは私たちの後輩で、春也くんとともに火星移住計画に抜擢されたエリート科学者だ。
「もしもし?こんばんは阿久津くん、どうしたの?」
「こんばんは、お疲れ様です。どうしたの、じゃないですよ、満島さん!いつになったら休暇から返ってくるんですか?」
阿久津くんは相変わらず律儀で活発な青年であるようだ。挨拶も要件も勢いよく述べている。それに対してポテトをつまみながらスピーカーで対応する春也くん。雑すぎる。
「あー、それね。どうしようかなあ」
「どうしようかな、じゃなくて!長く休むならそれはそれでいいので、期日だけしっかり決めてもらわないとこっちも仕事の計画が立てにくいんですよ!」
先輩相手にもハキハキキッパリ喋る阿久津くん。好感が持てる、だが少しうるさい。
「うーん、じゃあ一旦明日にでも出勤しようかな。大丈夫だよね、聡子さん?」
「うん、大分慣れてきたから勝手に生活してるよ」
「え?古谷さんそこにいるんですか?地球にいるんじゃないんですか!?え、つか同居!?」
「阿久津くんうるさ」
「聡子さんはちょっとこっちに遊びに来ているんだ、部屋を貸してるだけ」
えーまじか……。ほぼため息みたいな声がスピーカーから垂れ流される。じゃあ明日出勤するからね、またね、と言って春也くんは電話を切ろうとする。
「まって、待ってください!古谷さん、ひさびさに話しましょうよ!」
やかましい後輩の話相手のターゲットにされてしまった。春也くんがいきなり話しかけるせいだ。
「阿久津くんうるさいからやだな」
「ひどい!」
ふたりで阿久津くんのオーバーリアクションに笑いあう。
「冗談だよ、ごめんね。阿久津くん元気にしてた?」
「ええもう、このとおり!」
姿は見えないが、にっこにこで胸を張っているであろうことは容易に想像できた。喋るだけで面白い後輩だ。
「古谷さんは、こっちに移住する気は無いんですか?」
「それは……」
私たち二人がこの一週間ずっと避けてきた話題を、この快活な青年はいとも簡単にぶっこんできた。ほんの一瞬だけリビングに静寂が広がる。
「……やっぱり阿久津くんうるさいな」
「ええ!?僕なんか変なこと言いました?」
「阿久津くんはいつも変なことしか言わないんだ、許してあげてよ」
春也くんが頬を強張らせている。これは苦笑いの顔だ。
その後は何気ない雑談を少しばかりして、じゃあまた明日、と春也くんは電話を切った。
「……それで、聡子さんはどうするつもりなの」
静かになったリビングで冷たくなってしまったポテトを二人でつまんでいると、春也くんがぽつりと呟くようにして尋ねてきた。
「……どうしようねえ……」
ケチャップで空になったお皿に猫を描いて、適当にはぐらかすことしかできなかった。
