シンデレラをやって、私は裏方になった。
『ヒューヒュー!』
『めっちゃキスしてるー! キャー!』
そんな声が飛び交う中、公演は無事に終わった。
幕が下りた瞬間、私は張りつめていた糸が一気に切れた。
ドレス姿のままトイレへ駆け込み、その場で吐いた。
あまりの緊張と、人前に立ち続けた反動だった。
高校生の頃、友達に誘われて演劇部へ入った。
毎日、屋上で発声練習をして、演劇部なのに「これダンス部?」と思うような基礎練習もあった。
先輩の指示だからと、必死についていった。
ある日、学園祭で公演をすることになった。
白雪姫、シンデレラ、赤ずきん、人魚姫……
童話の主人公たちが勢ぞろいする、少しコミカルなお芝居だった。
私は髪が長かったという理由だけで、シンデレラ役に決まった。
……本当は裏方がやりたかった。
でもロングヘアの子が少なく、消去法で選ばれてしまったのである。
台詞を覚え、舞踏会で踊り、12時の鐘とともにガラスの靴を置いて走り去るシーンまで、一生懸命練習した。
しかも当日着たのは、本物のウェディングドレス。
仲の良かった女性教師が結婚する予定だったものの、破談となり、着られることなく残っていたドレスだった。
刺繍もレースも、本当に美しかった。
舞踏会のシーンでは、相手役のプリンスと見つめ合い、角度を合わせ、唇が触れる寸前まで顔を近づける。
もちろん実際にはキスはしていない。
でも客席からは、
『本当にキスした!』
と大騒ぎだった。
……そのまま誤解させておいた(笑)。
そして幕が下りた瞬間、私はトイレへ直行。
人前に立つことが、ここまで自分に向いていないとは思わなかった。
その日、悟った。
人には、合う・合わないがある。
それ以来、舞台に立つ役は徹底して断るようになった。
その代わり、私は音響に夢中になった。
「この場面なら、こんな曲が合うんじゃないか。」
「この音なら、お客さんはこの先を想像できるかもしれない。」
そう考えることが、たまらなく楽しかった。
顧問の先生に、
「部費を少し音響に回してください!」
とお願いし、
楽器店やCDショップ、レコード店を回っては、演劇に合う音を探し続けた。
舞台の少し高い場所にある音響席。
そこが、私の特等席だった。
舞台を見ながら、
音量を上げたり、
静かに絞ったり、
曲を切り替えたり。
役者さんの演技を引き立てるために、その一瞬一瞬に集中した。
そしてコンクールでは、普段は設けられていない『音響特別賞』のような賞までいただいた。
あの時は、本当に嬉しかった。
シンデレラ役で吐いた日。
あの日があったからこそ、私は知った。
人には、合う・合わないがある。
そして、自分に合う場所で力を発揮できることは、こんなにも楽しいんだということを。
