先生、お土産何がいい?
「第一印象って当てにならないなぁ。」
人生を振り返ると、そう思う人が何人かいる。
その中でも、忘れられないのが高校二年の担任だ。
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高校一年。
朝のホームルーム前は、どこの教室も少し騒がしい。
その日も、みんな好き勝手に話していた。
すると突然──
ガラッ!!
クラスのドアが勢いよく開いた。
現れたのは、隣のクラスの担任。
そして、教室中に響く大声で叫んだ。
『おめーら!うるせーんだよ!!
隣で授業やってんだろーが!!
殴られんうちが、花と思え!!』
そう言うと、
バシャン!!
ドアを閉めて去って行った。
………。
教室中が静まり返る。
私は心の中で思った。
(何、この人。)
怖い。
というより、
「近寄りたくない。」
それが正直な感想だった。
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ところが翌年。
高二になった私の担任として教室へ入ってきたのは……
まさかの、その先生。
(うわぁ……。)
私は心の中で密かにあだ名を付けた。
『花の男』
もちろん本人は知らない。
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しばらくして、先生と話す機会が増えた頃、私は聞いてみた。
「先生さ、一年の時さ。
隣の教室開けて、
『おめーら!うるせーんだよ!
殴られんうちが花と思え!』
って言ったよね?
あの時さ、
『何この人!』
って思ってたら、次の年、担任になったんだけど。」
先生は少し考えて言った。
『俺、そんな言葉使わねーし。』
……。
いやいやいや。
忘れてるんかーーい!!
私だけ鮮明に覚えてるやつだった。
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でも。
一緒に一年過ごしてみると、
怖いと思っていた先生は、案外よく笑う人だった。
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修学旅行の時のこと。
家族へのお土産に、当時人気だった少し高めの漬物を買おうと並んでいた。
ちなみに……
漬物を買っていたのは私だけだった。
ようやく買い終え、
「さて、戻ろう。」
そう思った時には……
バスがいなかった。
「あ……。」
時間、過ぎてる。
やってしまった。
どうしようかと思っていると、
一台のバスが戻ってきた。
降りてきたのは担任。
『お前!!
何やってんだよ!!』
開口一番、それだった。
『人数確認したら、一人いねーし!』
私は正直に答えた。
「先生……漬物買ってたら、時間過ぎた。」
先生は一瞬黙り、
次の瞬間、吹き出した。
『……お前さぁ。
漬物買うなよ!!
バスだぞ?
すげぇ匂うじゃん!』
「開封しなきゃ大丈夫。
これ、ご飯のお供として、お土産にちょうどいいし。」
先生は笑いながら首を振った。
『もういい。
列から離れるから、早く乗れ。』
急いでバスへ戻る。
私はみんなに頭を下げた。
「ごめんなさい!
漬物買ってました!
でも開けないので大丈夫です!」
その代わりに、珍しい飴をみんなへ回した。
車内は一気に賑やかになった。
先生は苦笑いしながら、
『まぁ、結果オーライか。』
そんな顔で見ていた。
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そんな先生との忘れられない話が、もう一つある。
旅行へ行く前、私は先生に聞いた。
「先生、お土産何がいい?」
先生は軽く笑って言った。
『俺、カニ好きなんだよな。
カニだったら嬉しいわ。』
私は、
(なるほど。カニね。)
そう受け止めた。
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旅行先はカニの産地。
だったら送ろう。
そう思った私は、産地直送のクール便で先生の家へ送った。
おがくずに包まれた、立派なカニだった。
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数日後。
先生が私を見るなり叫んだ。
『お前!!
マジで送ってくんなよ!!』
私は意味が分からなかった。
「え?
先生、カニがいいって言ったじゃん。」
先生は頭を抱えた。
『冗談に決まってるだろ!!
しかも、あれ高いやつじゃねーか!
俺、お前の親にどんな顔したらいいんだよ!』
私は首をかしげた。
「え?
冗談だったの?
知らんかった。」
先生は苦笑い。
私はさらに聞いた。
「親にどんな顔って……
普通にしてたらいいんじゃない?」
先生はその場にしゃがみ込み、
しばらく笑いが止まらなかった。
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高校時代を思い返すと、
先生にも色んな人がいた。
怖い先生。
優しい先生。
近寄りがたい先生。
でも、一番印象に残るのは、
第一印象とはまるで違った人たちなのかもしれない。
私にとって『花の男』は、
「殴られんうちが花と思え!」
と怒鳴っていた先生ではなく、
修学旅行で置いていかれた私を迎えに来てくれた先生であり、
冗談で言ったカニを、本当に送られて慌てていた先生だった。
第一印象だけで人は分からない。
……とは言え。
あの時、本当にカニを送る高校生も、
そうそういなかったとは思う。
