赤ずきんと不摂生な○○○○ ~赤ずきんちゃんが、本当に倒したものとは? ~
むかしむかし、森の近くの村に、赤いずきんをかぶった元気な娘がいました。
みんなはその子を、赤ずきんちゃんと呼んでいました。
赤ずきんちゃんは、見た目こそ可愛らしい娘でしたが、中身はかなりしっかりしていました。
朝はちゃんと起きる。
起きたら顔を洗い、水を飲み、朝日を浴びる。
食事はタンパク質などを意識し、卵や野菜スープや果物も食べる。
歩く。走る。よく寝る。
たまには甘いものも食べるけれど、毎日だらだらと無限には食べない。
夜はスマホを見すぎず、ちゃんと眠る。
村の人は言っていました。
「あの子は、見た目は赤ずきんでも、中身はちょっと体育会系だねえ」
そんなある日、お母さんが言いました。
「赤ずきんや、おばあさんの家に、このスープと果物を届けておくれ。最近、寝込んでいるらしいのよ」
赤ずきんちゃんは首をかしげました。
「おばあちゃん、寝込んでるの?」
「そうらしいの。近所の人が全然、外で見かけないって。元気がなくて、ずっと家にこもってるんじゃないかって」
「分かった。行ってくる」
赤ずきんちゃんは、かごを持って森へ向かいました。
森の道を歩きながら、赤ずきんちゃんは考えました。
おばあさんは、ちょっと前まで、元気だったはずです。
畑にも出ていたし、よく歩いていたし、季節のものを食べ、陽の光の中で暮らしていました。
それが今、誰とも会わず、家にこもりきりだと聞きます。
「心配だな……」
そう思いながら進んでいくと、森の空気はひんやりとして、木々のあいだから光がこぼれていました。
赤ずきんちゃんは深呼吸しました。
「やっぱり森の空気は気持ちいいな。こういうのも大事なんだよね」
やがて、おばあさんの家に着きました。
コンコン、と戸を叩きます。
「おばあちゃん、赤ずきんよ。入るね」
返事は、少ししわがれた声でした。
「おお……入っておくれ……」
赤ずきんちゃんが中へ入ると、部屋は暗く、空気がこもっていました。
窓は閉まりきり、カーテンも引かれたまま。
テーブルの上には、食べかけの甘い菓子、脂っこそうな食べ物の包み紙、飲みかけの甘い飲料の瓶。
隅には、夜更かしでもしていたのか、画面の光ったままのスマホ。
ベッドには、布団をかぶったおばあさんが横になっていました。
けれど、赤ずきんちゃんは、部屋に入ってすぐに、何かおかしいと感じました。
「おばあちゃん、ずいぶん耳が大きいのね」
「おまえの言うことを、よく聞くためだよ……」
「おばあちゃん、ずいぶん目がギラギラしてるのね」
「おまえを、よく見るためだよ……」
「おばあちゃん、ずいぶん口が大きいのね」
「それは……」
そこまで聞いて、赤ずきんちゃんは、ふと足元のゴミを見ました。
菓子、揚げ物、甘い飲み物、夜中に開けたらしき袋菓子。
スマホの通知は鳴りっぱなし。
部屋は締め切り。
水差しは空。
外の光は遮断。
床にはほとんど歩いた気配もありません。
赤ずきんちゃんは、じーっとベッドを見つめました。
「……おばあちゃん」
「なんだい……」
「何で、ジャンクフードばかり食べるの?」
ベッドの中の“おばあさん”がぴくっとしました。
赤ずきんちゃんは続けます。
「何で換気しないの?」
沈黙。
「何で運動しないの?」
沈黙。
「何でスマホばっかり見てるの?」
沈黙。
「何で夜更かししてるの?」
沈黙。
「何で水じゃなくて、甘いものばっかり飲んでるの?」
沈黙。
赤ずきんちゃんは、ずんずんベッドへ近づいていきました。
「何で朝日を浴びないの?」
「何で歯も磨かないの?」
「何で体を動かさないの?」
「何で具合が悪いのに、もっと体に悪い生活を重ねるの?」
布団の中の“おばあさん”は、もぞもぞしました。
赤ずきんちゃんは、ついに言いました。
「そりゃ、こんな不摂生な生活してたら病気になるわ!!」
その声が部屋に響きました。
「大きな耳だの大きな目だの言う前に、こっちは部屋に入った瞬間に分かったよ!
この大きな口で、体に悪いものばっかり詰め込んで、頬張ってきたんでしょ!!」
その瞬間でした。
ベッドの中の“おばあさん”が、ばさっと布団をはねのけました。
現れたのは、おばあさんではありません。
大きな耳。
ぎらつく目。
鋭い牙。
腹をだぶつかせた、でっぷりとしたオオカミでした。
「ガルルルル……!」
赤ずきんちゃんは腕を組みました。
「やっぱりね」
オオカミは唸りながら言いました。
「この口はなぁ……お前を食べるためだぁ!!」
そう言ってオオカミは飛びかかってきました。
けれどその瞬間、赤ずきんちゃんの体はすでに動いていました。
日々の散歩で鍛えた脚。
きちんと食べてきた筋肉。
よく眠って回復してきた反応速度。
毎日の積み重ねで整えた体幹。
赤ずきんちゃんは一歩引き、軸を作り、
左蹴り一閃。
バシィィン!!
見事な一撃がオオカミの肩に決まり、オオカミは吹っ飛びました。
机にぶつかり、菓子の袋をまき散らしながら、オオカミは床に倒れます。
「ぐふっ……!」
赤ずきんちゃんは、ずきんを整えながら言いました。
「残念だったね」
オオカミはふらふらしながら顔を上げました。
「ば、馬鹿な……どうして、こんな小娘に……」
赤ずきんちゃんは、まっすぐオオカミを見て答えました。
「日々の積み重ねよ。」
オオカミは目を見開きました。
赤ずきんちゃんはさらに言いました。
「私は別に、特別な力があるわけじゃない。
でも、ちゃんと寝る。ちゃんと食べる。ちゃんと動く。ちゃんと休む。
それを日々続けてきた。
あなたは逆に、夜更かしして、食べすぎて、動かず、空気も入れ替えず、刺激ばかり追って、自分を弱らせてきた」
オオカミは床に転がったまま、荒い息を吐きました。
「そんな……そんな地味なことで、差がつくものか……」
赤ずきんちゃんは言いました。
「つくの。派手じゃないけどね。
人を本当に強くするのは、必殺技じゃない。
毎日の生活よ」
そこへ、物音を聞きつけて、本物のおばあさんが奥の部屋から出てきました。
どうやらオオカミはおばあさんを丸飲みにしたのではなく、押し入れに閉じ込めていただけだったようです。
「まあ、赤ずきんや、助かったよ……」
赤ずきんちゃんはすぐ窓を開けました。
新鮮な空気が部屋に入ります。
光も差し込みました。
「おばあちゃん、まず換気しよう。
それから水を飲んで、あったかいスープを飲もう。
少し元気が戻ったら、外の光も浴びよう」
おばあさんはうなずきました。
床に倒れたオオカミは、まだぴくぴくしていました。
赤ずきんちゃんは最後に、気絶しかけたオオカミへ言いました。
「覚えておきなさい。
不摂生は、最初は楽に見える。
でも積み重なると、自分を食べるオオカミになるの」
オオカミは、その言葉を聞いて、がくりと気を失いました。
その後、おばあさんの家は少しずつ整えられました。
窓を開ける。
朝の光を入れる。
食事を見直す。
甘いものだけで済ませない。
スマホは夜ふかしの道具にしすぎない。
無理なく歩く。
疲れたら、ただだらけるのではなく、ちゃんと休む。
まあ、おばあさんは元々出来ていたことです。
オオカミに押し入れに閉じ込められていただけでしたので、すぐに元々の習慣を取り戻しました。
おばあさんは少しずつ元気を取り戻し、顔色も良くなっていきました。
村の人々は、オオカミを倒した赤ずきんちゃんの強さに驚きましたが、赤ずきんちゃんは特別えらそうにはしませんでした。
「すごいのは私じゃないよ。
生活の積み重ねが、人を助けるんだよ」
そう言って、また朝になると、水を飲み、光を浴び、元気に歩き出すのでした。
教訓
人を弱らせるオオカミは、森の外から来るとは限らない。
夜更かし、ジャンクフード、運動不足、換気不足、刺激への依存。
そうした不摂生の積み重ねが、体と心を食べるオオカミになる。
だが人を守るのもまた、毎日の積み重ねである。
派手な奇跡より、整った生活のほうが、最後には強い。
※その後のオオカミが心配な心の優しい方々へ
オオカミはその後、赤ずきんちゃんの言葉がどんなインフルエンサーの言葉よりも刺さり、生活を見直して、健康的になり、メンタルも穏やかになり、人も襲わず、充実した一生を送ったそうです。
