現代版 鶴の恩返し 廃人復活編~トゥルーのライブ配信~

ある町の古いアパートに、一人の若者が住んでいました。
悪い人間ではありません。困っている人がいれば、まあ助ける。落とし物があれば、まあ拾う。けれど、自分のこととなると、まるで助ける気がありませんでした。
部屋には空のカップ麺。飲みかけのエナジードリンク。脱ぎっぱなしの服。布団の横にはスマホ。
夜更かし、朝寝坊、ジャンクフード、酒、ポルノ、だらだら動画。
「明日からちゃんとする」
若者は毎晩そう思いました。
そして毎朝、その“明日”は来ませんでした。
ある冬の夕方。
若者がコンビニへ向かって歩いていると、田んぼの端で一羽の鶴が暴れていました。古い仕掛けに足を取られていたのです。
「うわ、マジか……」
若者は面倒くさそうに言いながらも、泥だらけの手で仕掛けを外しました。
自由になった鶴は、じっと若者を見つめました。
「もう引っかかるなよ」
若者がそう言うと、鶴は夕焼けの空へ飛んでいきました。
その夜。
若者がカップ麺をすすりながらスマホを見ていると、玄関のチャイムが鳴りました。
ドアを開けると、白い服を着た一人の女性が立っていました。外は大雨です。
「あの……雨がひどくて帰れなくなってしまって。少しだけ雨宿りさせていただけませんか」
怪しい。
かなり怪しい。
けれど女性は震えていました。
「……まあ、雨がやむまでなら」
若者は仕方なく、女性を部屋に入れました。
女性は部屋を見回しました。空き缶、カップ麺、閉め切った窓、光り続けるスマホ。
少し悲しそうな顔で言いました。
「……お体、大丈夫ですか?」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
しばらくすると、女性は隣の部屋を指さしました。
「少し、別室で作業をさせてください。どうか、決して見ないでください」
若者は首をかしげました。
「昔話かよ」
それでも、妙に真剣な声だったので、若者はうなずきました。
「はいはい。見ませんよ。俺もスマホ見るんで」
女性が隣の部屋へ入ると、若者は布団に寝転がり、いつものようにスマホを開きました。
動画、SNS、ニュース、広告、ショート動画。
また動画。
また通知。
そのとき、見慣れない通知が出ました。
『話題のインフルエンサー・トゥルーがライブ配信中!
“現代の仕掛けにかかった人たちへ。不摂生から抜け出す方法”』
普段なら見ません。
健康、生活改善、食事、睡眠、運動。
どれも必要だとは分かっている。分かっているからこそ、見たくない。
けれど、その日はなぜかクリックしてしまいました。
画面には、顔出しなしの配信者。映っているのは傷んだ壁だけ。声は女性でした。
「こんばんは。トゥルーです。今日は、不摂生な生活から抜け出す話をします」
若者は鼻で笑いました。
「トゥルーって、意識高そうだな」
しかし、内容は妙に刺さりました。
「夜中にカップ麺を食べながらスマホを見る習慣。これは体にも脳にも負担が大きいです」
若者の手が止まりました。
目の前には、まさに食べかけのカップ麺。
「エナジードリンクを水代わりにしている人もいますが、疲れをごまかしているだけで、根本的な回復にはなりません」
机の上には、飲みかけのエナジードリンク。
「夜更かし、酒、ポルノ、だらだら動画。これらは全部、現代の仕掛けです。最初は楽しい。でも、気づけば動けなくなる」
若者は眉をひそめました。
「……おいおい」
当たりすぎている。
さらに配信画面の背景を見ると、壁の端に小さな傷がありました。
縦に一本。その横に斜めの傷。
若者は固まりました。
その傷には見覚えがありました。以前、家具をぶつけた、自分の部屋の壁の傷です。
隣の部屋からは、配信と同じ声が聞こえます。
「いやいやいや……」
決して見ないでください、と言われた。
しかし、これはさすがに見るしかない。
若者は戸を開けました。
そこには――
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