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差別化はしていない。なのに世界に届いた。鳥取・星空舞に学ぶブランド戦略【いいものインサイト #5】

地方にはまだ知られていない価値がある。

この価値を広く紹介していく記事を【いいものインサイト】としてシリーズ化していきます。

前回記事は境港サーモンでした

これまでの「いいものインサイト」の記事は、マガジンで読めるようになりました!



6〜7年前から、親族が育てたお米「星空舞」を食べるようになりました。

毎年秋になると、実家のように届く星空舞の新米。鳥取に来てからは、自分でお米を買う機会がほとんどなくなりました。おいしいのは当たり前として受け入れていたけれど、あるとき関東に住む友人に送ってみました。

「つやつやで、味もおいしい! これどこのお米?」

メールの返信を見て、気づいたことがありました。わたしにとっての「当たり前」が、誰かにとっての「特別」になっているということに。

星空舞という名前もきれいです。パッケージも素敵です。でも、このお米のすごさは見た目や食感の話だけではありません。誕生の「理由」のほうに、本当の物語があります。


30年間、農家のために研究し続けた一人の研究者

星空舞の開発には、約30年の歳月がかかっています。
https://www.zennoh.or.jp/tt/rice/histry.html

農家の家に生まれた橋本俊司室長(鳥取県農業試験場)は、天候に左右されながら苦労する家族の姿を見て育ちました。「倒伏や病気に強く、悪天候の年でも美味しいお米を作りたい」という思いが、研究の起点になりました。

通常の品種開発は、両親を一度交配して終わります。しかし橋本室長は、病気に強い「ササニシキBL1号」を母、コシヒカリ系の良食味品種「ゆめそらら」を父として交配し、その子どもにさらに「ゆめそらら」を交配、またその子にも交配と、5年かけて繰り返す「戻し交配育種」を選びました。

ここで重要なのは、この研究の目的が「売れるお米を作ること」ではなかった点です。「農家が困らないお米を作ること」でした。消費者に選ばれることと、生産者が報われること。その両方を目指した研究が、30年という時間を生みました。


「星取県」という名前がつく前から、星空はここにあった

星空舞がデビューした2019年より少し前、鳥取県はもうひとつのことをしていました。

環境省の全国星空継続観察で何度も日本一に輝いた鳥取県。どの市町村からも天の川が見え、夜空を見上げれば星に手が届きそうなこの県は、「星取県」という別名を使い始めました。CATCH the STAR というスローガンのもと、星空を軸にした地域振興が動き出したのです。

宇宙産業にも取り組んでいることを以前note記事にも書いております

そして平成30年(2018年)10月31日、鳥取県庁でのお披露目式。「鳥系93号」という番号だけを持っていた新品種は、この流れの中で「星空舞」という名前を得ました。

注目したいのは、この名前が「ゼロから作られたブランドではない」という点です。鳥取に星空があったのは、ずっと前からです。誰かが発明したのではなく、ただ、そこにあり続けた。それを守り、「星取県」と呼び始め、そして米の名前にまで渡してきました。ブランドが「生まれた」のではなく、すでにある価値が「形になった」のです。


星空が、国際線ファーストクラスに届いた

2019年(令和元年)の本格デビュー時、生産者は625人、作付面積は366ヘクタールでした。

翌2020年には生産者数が1,621人、面積は1,019ヘクタールへと急拡大。わずか1年で生産体制が約3倍になりました。

そして2025年には、日本穀物検定協会の食味ランキングで「特A」評価を獲得。さらに同年、ANA国際線・日本発欧米路線のファーストクラスで提供されることが決定しました。

鳥取の農業試験場で生まれたお米が、太平洋を越えて欧米の上空で食べられることに。

重要なのは、この過程で星空舞が「スペック訴求」を主軸に戦ったわけではないということです。ツヤ・粒感・冷めても美味しいという特徴は確かにあります。

でもブランドの核心にあったのは、ずっと「星空」という物語でした。差別化のために星空という名前を「当てた」のではなく、星空という土地の価値が自然に米の名前になった。だからこそ、世界に届く強さを持てたのかもしれません。


ブランドは差別化から生まれるのではなく、守り続けてきたものから生まれる

ここまで読んで感じるのは、「鳥取はブランド戦略が巧みだ」ということではありません。

もっとシンプルなことです。「すでにそこにあるものを、ちゃんと見た」ということです。

SNS時代の今、多くの企業や個人は「差別化ポイントを作る」「バズる要素を仕込む」「独自性を磨く」という方向に動きます。強みは、新しく作り出すものだという思い込みがあります。

でも星空舞の物語は、逆のことを教えてくれます。

星空はずっとそこにありました。農家の苦労も、30年の研究も、ずっとそこにありました。鳥取が「発明した」ものは何もありません。ただ、すでにあるものに気づき、名前をつけ、守り続けた。それが「星空舞」というブランド資産になりました。

差別化のために何かを生み出すより、手元にある「当たり前」を丁寧に見直すほうが、ずっと強いブランドが育つことがある。星空舞はそれを証明しています。


あなたの「当たり前」に、まだ名前はついていますか

親族が当たり前に育てていた星空舞は、関東の友人には「特別なお米」でした。

あなたの周りにも、そういうものがあるかもしれません。毎日やっているのに誰にも言語化されていないこと。地元では普通なのに外から来た人が驚くもの。何年も続けてきたけれど、まだ名前がついていないこと。

それが、あなたのブランド資産かもしれませんね。

今日からできる一歩はひとつだけ。
「これ、名前をつけるとしたら何だろう?」と問いかけてみることです。

星空舞は「星取県の星空」という名前を得た瞬間、ただの新品種米ではなくなりました。あなたが持つ「当たり前」に名前をつける日が、ブランドの始まりになります。

鳥取が育てた星空のようなお米、ぜひ一度食べてみてください。


参考サイト


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