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二代目で会社に入って、最初に決めたのは「変えすぎない」ことだった

事業を引き継いだら、何かを変えなければいけない。

古いやり方を見直す。
非効率な仕事をなくす。
新しい仕組みを入れる。
組織を変える。

二代目や事業承継について調べると、そんな話をよく目にします。

実際、私自身も会社を引き継いでから、かなり多くのことを変えてきました。

それでも、経営を引き継いだ当初から一つだけ強く意識していたことがあります。

最初から変えすぎない。

むしろ、これが事業承継ではかなり重要なのではないかと、今は思っています。

「今までこうだった」は、思っていた以上に強い

会社を引き継いでから、何度も経験したことがあります。

現場を見て、

「このやり方は少し変えたほうがいいのではないか」

と思う。

データを調べてみても、今までの方法より別の方法のほうが合理的に見える。

そこで変更を提案すると、

「先代はそんなやり方をしていなかった」

「今までそんなことはしたことがない」

という反応が返ってくる。

最初は、少し不思議でした。

こちらとしては先代を否定したいわけではありません。

過去のやり方が間違っていたと言いたいわけでもない。

ただ、時代も変われば、設備も変わる。
人も変われば、経営環境も変わります。

昔は最適だった方法が、今も最適とは限りません。

それでも、長く続いてきた会社では、

「これまでそうしてきた」という事実そのものが、非常に大きな力を持っています。

これは、大きな会社で組織を変えるときとは少し違う感覚でした。

でも、先代のやり方を否定したいわけではない

ここは、自分の中でかなり大切にしています。

私は、先代がやってきたことを否定するつもりはありません。

むしろ、いろいろなやり方を積み重ねてきたからこそ、会社が今まで続いてきた。

その事実は尊重すべきだと思っています。

一方で、

「先代がやっていたから、これからも続ける」

というだけでもいけない。

今、経営を任されている以上、

今の時代、今の人員、今の経営状況ならどうするべきか

を判断するのは、今の経営者の仕事です。

過去を否定しないことと、過去と同じことを続けることは違います。

この区別は、会社を引き継いでから強く意識するようになりました。

「改革した結果、会社が壊れる」こともある

私が「変えすぎない」ことを強く意識するようになった背景には、ある会社で見た出来事があります。

業種や細かい事情は伏せますが、地域で長く続いてきたサービス会社でした。

創業者と長年一緒に働いてきたスタッフがいて、私から見ても非常に仕事のできる方たちでした。

その会社も代替わりしました。

新しい経営者は、それまでとは違う会社にしようとしたのだと思います。

自分の考えに近い人を経営側に入れ、新しいやり方を次々と導入していきました。

考え方だけを聞けば、合理的な部分もあります。

経営方針に合わない人が辞める。

新しい方針に賛同する人を採用する。

組織の新陳代謝が起きる。

経営論として説明できなくはありません。

ただ、実際の現場では違うことが起きました。

長年働いてきた人たちが次々と辞めていきました。

新しく採用しても、その業界特有の仕事や文化に馴染めず、また辞める。

残ったベテランが新人を育てる。

ようやく少し仕事ができるようになった頃に、その新人も辞める。

また採用する。

また残った人が教える。

その繰り返しで、現場はどんどん疲弊していきました。

そこで私が強く感じたのは、

組織には、数字や組織図では見えない「土台」がある

ということでした。

古いものを残せ、という話でもない

では、何も変えないほうがいいのか。

私はそれも違うと思っています。

会社もサービスも、維持しようとするだけでは少しずつ古くなります。

時代に合わせて、

少し変える。
試す。
直す。
また変える。

これは必要です。

ただ、

全部を一気に変える必要はない。

長く続いてきた会社には、長く続いてきたなりの理由があります。

商品。

サービス。

顧客との関係。

スタッフ同士の連携。

言葉になっていない仕事のコツ。

経営者から見ると非効率に見えても、実はその仕組みが別の何かを支えていることもあります。

そこを理解しないまま根本から入れ替えるのは、かなり危険です。

新しいことは、横で小さく始めればいい

私は、新しいことをやりたいのであれば、

既存のものをいきなり壊さず、横に小さく作る

というやり方がかなり有効だと思っています。

たとえば既存の商品やサービスは、これまでのやり方で続ける。

その一方で、新しくやりたいことは少人数で試してみる。

うまくいけば少し広げる。

それでもうまくいけば、さらに広げる。

既存事業に匹敵するくらいになったところで、初めて統合や置き換えを考える。

こうすれば、新しいチャレンジもできますし、今まで積み上げてきたものを一度に失うリスクも減ります。

事業承継に限らず、既存サービスのリニューアルや業務システムの刷新でも、同じ考え方が使えると思います。

新しく来た人ほど、最初は「聞く」

もう一つ、会社を引き継いでから強く意識していることがあります。

最初からトップダウンで進めない。

これは事業承継だけではありません。

会社員として、新しい組織を任されたときにも経験しました。

以前、かなり厳しい状態になっていた組織へ入ったことがあります。

人が次々と辞め、組織そのものが崩れかけていました。

そんな場所に新しい責任者として入って、

「今日からこうします」

といきなり自分の考えを押しつけたら、さらに壊れていたと思います。

だから最初にやったのは、すごく地味なことでした。

一人ずつ話を聞く。

何が起きているのかを聞く。

現場を見る。

それから判断する。

会社を引き継いだときも、基本的な考え方は同じです。

新しく来た側には、新しく来た側の知識があります。

でも、長くその場所にいる人には、その人にしか分からないものがあります。

どちらか一方だけで判断すると、たいていどこかでズレます。

現場の話も、そのまま鵜呑みにはしない

ただし、「現場の声を聞く」というのは、何でもそのまま信じるという意味でもありません。

スタッフから、

「こんなことがありました」

「○○さんがこう言っていました」

という話を聞くことがあります。

私は、そういうときも必ず事実確認するようにしています。

人が嘘をついていると言いたいわけではありません。

人間は誰でも、経験した出来事を自分の感情や解釈を通して話します。

嫌なことがあったときなら、なおさらです。

だから、

トップの思い込みだけで決めない。
現場の話だけでも決めない。
自分でも見る。

この3つを揃えることが大切なのだと思います。

「私を信じてくれ」ではなく、「一度、現場を見てほしい」

会社を引き継いだばかりの頃は、私が何か問題を見つけて話しても、

「そんなはずはない」

と言われることが何度もありました。

相手からすれば当然です。

私は来たばかり。

一方、相手は何十年もその会社を見てきています。

信頼の蓄積が違います。

だから私は、

「私を信じてください」

ではなく、

「一度、自分の目で現場を見て判断してください」

というスタンスを取るようになりました。

それを何度か繰り返していると、少しずつ変わってきます。

実際に現場を確認した結果、

「確かにそうだった」

ということが積み重なる。

すると次に何かを話したとき、

最初から否定するのではなく、一度聞いてもらえるようになる。

経営者だから言うことを聞いてもらえるのではなく、

小さな事実確認の積み重ねで、判断への信用を作っていく。

これも、経営を引き継いで初めて実感したことでした。

二代目の仕事は、「前の会社を消すこと」ではない

二代目になると、

「自分の色を出さなければ」

と思いやすいのかもしれません。

私自身も、新しいことはたくさんやっています。

でも最近は、

二代目の仕事は、前の会社を消して新しい会社を作ることではないと思っています。

これまで積み上げてきたものを理解する。

残したほうがいいものは残す。

変えるべきものは変える。

新しくやりたいことは、小さく試す。

そして少しずつ、自分が経営する会社にしていく。

事業承継は、

「旧経営から新経営へ切り替えるイベント」ではなく、長い移行期間

なのだと思います。

だから私は、会社を引き継いだときに、

「何を変えるか」

より先に、

「何を、まだ変えないか」

を考えるようにしました。

一気に変えるほうが、経営者としては分かりやすい。

でも、長く続いてきた会社ほど、本当に難しいのはそこではありません。

過去を尊重しながら、今に合わせて少しずつ変える。

その加減を考え続けることこそ、事業を引き継ぐ側の仕事なのだと思っています。

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