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『シナリオs』映画史を究極に削ぎ落とし、諧謔を残したmétrage raffiné

ゴダールは『映画史』において映画博物館を創り、『イメージの本』では図書館を実現した。
ではこの短い遺作は何か?

映画で創った音楽だろう。

彼がずっとこだわっていた、対位法から和音を生み出したかったのだ。

和声法においては和音がメロディを生む。逆に対位法ではメロディそのものから和音が生み出される

『イメージの本』  u59m

と言っていたが、
それをついに彼は自身の作品で成し遂げた。

対位法とは

Geminiさんに説明任せた🙌

映画における対位法は、音楽の技法を応用し、複数の異なる要素を意図的に組み合わせて、複雑で多義的な効果を生み出す表現手法。

特にジャン=リュック・ゴダールにとって、対位法は単なる技法を超え、映画の基本的なあり方、すなわち

「映像」と「音」の関係性を根本から問い直す

ための核となる概念でした。
映画における対位法は、主に以下の要素を対比・衝突させることで成立します。

映像と音の対位

最も典型的かつ強力な手法

悲しい場面に陽気な音楽

をつけたり、逆に

暴力的な場面に静かな音

をつけたりすることで、感情や意味の単純な一致を避け、観客に解釈を委ねます。

異なる映像同士の対位

直接的な関連性のない二つの映像を連続
させることで、第三の意味や比喩的な
意味を発生させる

台詞と映像の対位

登場人物が言っていることと、
映像に映っていることが矛盾したり、
ずれたりすることで、
台詞の真実性や映像の意味を
相対化させる
ゴダールによる「映像と音の対位法

ゴダールは、従来の映画で当然とされていた

音は映像を補完・説明するもの

という関係性を徹底的に否定し、「映像」と「音」をそれぞれ独立した二つの単位として扱いました。


映画の「人工性」の強調

「映画は現実の再現ではなく、作り物である」という事実を観客に突きつける

観客に求められる主体性

「映像に頼らずに音を聞き取る」主体性や、映像と音の間の空白を「想像力で埋める」ことを観客に求める手法

脳内で探す「音象徴」

ある音が聞こえたとき、観客は自分の経験や記憶に基づいて、それが映像内の何と結びつくのかを脳内で探します。
ゴダールは、あえて非現実的な音を使用することで、この音イメージを混乱させ、音や音楽を、映像のムードを盛り上げます。

音や音楽を「道具」としてではなく、映像と対立し、新たな意味を発生させる対等な表現単位

として用いる。

突然のノイズの使用や、感情的な場面での音楽の停止、あるいは映像と関係ないナレーションの挿入など

『映画史 (Histoire(s) du cinéma)』:
ゴダール後期の集大成ともいえるこの作品では、映像(過去の映画の断片、写真、文字)と、ナレーション、音楽、詩的なテキストが、驚異的な速度と密度でモンタージュされ、文字通り映像、音、テキストの複合的な対位法が展開されています。



2022年9月13日にこの世を去ったゴダール、最後の革命

である、今作。

公式HPより


静止画が多用されていますが、こちら拙稿の冒頭で私はゴダールのことを「人の感覚を超越した、映像とセンス」と書きました。
そして、まさしく

静止画と言うのは、神(天)の視点

によるものだったのだと、よく分かりました。

「あまりにゆっくりで高みから見下ろすとほとんど静止して見える」

『イメージの本』 u1h



本編

1. 『シナリオ』(18分)
2. 『予告篇の構想」(36分)

公式HPより


1. 亡くなる前の2年間 で創り上げた5冊のノートを、

死の数日前

になってカードを切り直し、二部構成の映画を仕上げるように指示を出した。作成当初のタイトル《Scenario》には最終的にはsが足されて《Scenarios》と書かれた。

内容
ブックレットより

「DNA基礎を成す要素」と「MRI オデッセイ」の二部構成。

MRI検査中の音

が長くて、そりゃ死も選びたくなるわな…と、徐々に彼の死が迫ることを感じ、受け入れるためのになりました。

2つのパートはそれぞれ、《Adieu au Langage》のように、まったく同じ一連のシークェンスで幕を開けます。

ニーチェの永劫回帰のようだ

第二部になると単なる繰り返しから分岐していき、

死の前日に撮られたJLG最後のイメージ

-ベッドに腰かけ、腹部をあらわにし、身体の衰えをいっさい隠すことなしでサルトルを朗読し、読み終えたゴダールが「よし」と言ってカメラに視線を向けるところで終わります。

サルトルのヴォルス論
(「シチュアシオンIV」所収)


2021年10月、『シナリオ」という長篇企画の構想を、アシスタントのジャン=ポール・バタジアとファブリス・アラーニョに説明しているドキュメント。

「指と指ならざるもの」

「指を用いて”指は指に非ず"を説明するよりも、指ならざるものを用いて"指は指に非ず”を説明するほうが有効である。
白馬を用いて"馬は馬に非ず”を説明するよりも、馬ならざるものを用いて“馬は馬に非ず”を説明するほうが有効である」

サルトル「海と指ならざるもの」の一部


「宇宙は1本の指であり、あらゆるものは1頭の馬だ」

ねこじゃらし発行のブックレット内、

映画研究者 堀潤之のエッセイ

に、こう書かれている。

後半で、自作「はなればなれに」(1964)から、クロード・ブラッスール演じるアルチュールが長い撃ち合いの末に相撃ちに倒れるという、悲壮さと滑稽さが同居するシーンを引用。


二重写しで、老人が杖をついて砂漠を歩く姿が映し出される。
この人物はゴダールの遠戚でもある博物学者テオドール・モノー


ゴダールが好んでいたゴヤ晩年の素描『私はまだ学ぶ』を思い起こさせる。

https://blog.goo.ne.jp/spring-ok/e/e65aaa58873c176899c765880f621240より

死にゆくアルチュールの頭に

「最後の想念」としてオディールの顔が思い浮かんだ

と言うナレーション。
オディールアンナ・カリーナ演じる登場人物であり、ゴダールの母親の名前でもある。


エルシェ・クリスティアンスの処刑を描いたレンブラントの素描


ベルゲン゠ベルゼン収容所付近の死体が散乱する道を歩く少年の写真(ジョージ・ロジャー撮影)


梯子の上から下界を見下ろす女優アイリーン・セジウィックの合成画像


内容: 6つのパート

序曲(事物の本性について)

権力奪取の連鎖

資本主義→社会主義者→女性→子供たち→動物たち→自然、と、権力が移行していく物語

ここではその権力奪取の連鎖が、古代ローマの詩人ルクレティウスの著作のタイトルを借りて「事物の本性」であると考えられている。


1フェイクニュース

テレビ・アナウンサーの女性の昼の生活と夜の生活(ジキルとハイド)を対比させる。
彼女は恋人に捨てられるという設定。
参照されているのは、

ジャン・コクトーの戯曲
「人間の声」

マルセル・カルネ「ジェニイの家」(1936)の
フランソワーズ・ロゼー

ロベール・ブレッソン「ブローニュの森の貴婦人たち』(1945)の
マリア・カザレス


2唯一の神

エジプトの作家ナギーブ・マフフーズの小説「アクエンアテン(1985)に基づく。

ノートには、

チュニジアの映画作家ナーセル・ヘミール「バーバ・アジーズ』(2005)
「シェヘラザード 千夜一夜物語』(2011)からのイメージ。

『イメージの本』後半パート「幸福のアラビア」で使われていたもの




3ニセフォール・ニエプス/ハムレット

写真の発明者の一人であるニエプスがいかに現実を捉えたのか。
写真発明の栄誉がダゲールにのみ与えられたことに抗議した写真家イポリット・バヤール

ニエプスが使ったとおぼしきカメラに「洞窟」と書き込みがなされ、アーサー・ペンの「奇跡の人」(1962)のヘレン・ケラーデューラーの版画「メランコリア

創作ノートより


4消え去った現実

「ゴダール・ソシアリスム』(2010)にも出演した哲学者アラン・バディウの2015年の講演録「失われた現実を求めて』(未訳)が下敷き

2人の少女が操り人形を動かし、それがエイゼンシュテイン「イワン雷帝」第2部(1946/58)の宴で踊る仮面の男と接続される


フィナーレ

アッサ・トラオレを起用して、ルーヴル美術館のピラミッドでラシーヌの悲劇「ベレニス」を読ませるというアイデア。

トラオレは、2016年に弟のアダマを警察の暴力によって亡くしたことをきっかけに抗議のために立ち上がった黒人女性

2017年の大統領選挙の際にまさにルーヴル美術館のピラミッドで勝利宣言をしたエマニュエル・マクロンに対する批判。


さて、そろそろ締めますが、黒沢清さん、ゴダール好きなのね。


お気に入りのレビューたち

『イメージの本』こそがゴダールの遺作である、否、以後の作品もまた、彼自身の作品であるーの間で揺れ動きながらも、今日私たちは、この作品を前にしている。

ジャック・マンデルボーム
Le Monde

ゴダールは、最後にもう一度、映画における物話、形式、視覚のシステムに革命を起こすことで、我々観客に同様の振る舞いを、メディアへの絶え聞ない考察を続けることを促す。

マリー=ボリーヌ・モラレ
Bref cinéma


感想

観終えた時、ゴダールの

「続きは、また明日。もっと面白くなる」

と言うナレーションが、聞こえた気がしました。

41万かあ…。詳しくは公式HPへ


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