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【8】なぜ「まだ足りない」と言われると、動けなくなるのか ――JTC管理職が見つけた「前進の実感」を作る5つの問い


1.「まだ足りない」と言われ続ける環境

「まだ足りない。」
仕事をしていると、この言葉を自分に向けることがあります。

「計画より遅れている理由は?」
「どうリカバリーする?」
「今月の課題は?」

組織には目標があり、成果責任があります。
だから、「足りないもの」を見ることは必要です。

でも、その問いばかりが続くと、人は少しずつ前に進んでいる実感を失ってしまいます。

ある管理職が、こんな違和感を話してくれました。
「毎週の1on1が、できていないことの反省会になっている気がするんです。」

部下は悪くありません。 管理職も悪くありません。

ただ、「まだ足りない」という問いを繰り返した結果、前へ進む力を失ってしまっているのではないか。

そんなことを考えさせられました。


2.挑戦を増やすのは「前進の実感」

その管理職は、ベンチャー企業への出向を経て、「問いを投げる」マネジメントを実践していました。

彼は、正解のない環境で、心理的安全性が挑戦を支えていることを実感しました。そして、「人が動ける環境をどうつくるか」という組織開発の本質を現場で学んだのです。

帰任後も、
「あなたはどう思いますか。」
「まず小さく試してみませんか。」
「次は何をやってみたいですか。」
そう問いかけ続けました。

しかし、返ってくるのは、
「特にありません。」
「もう少し整理してから持ってきます。」
という言葉ばかり。

そのとき、彼は気づいたそうです。
「未来の話をするには、まだ早かったんだと思います。」


そこで、ある日の1on1で質問を変えました。
「この1年で、できるようになったことはありますか。」

しばらく沈黙が流れたあと、メンバーがぽつりと答えました。
「異動したばかりの頃は、お客さまへのヒアリングも怖かったです。でも今は、一人でも行けるようになりました。」

「半年前は?」
「まだ怖かったですね。」

「じゃあ、この1か月では?」
「一人でも行けるようになりました。」

「今週は?」
「初めて新しいお客さまに、自分から声を掛けました。」

「…それって、大きな前進ですよね。」
「そう言われると、そうかもしれません。」

その日を境に、1on1は少しずつ変わっていきました。


3.「できるようになったこと」を見つめる5つの問い

彼は、前進を実感できるよう、このように問いかけていきました。

ポイントは、時間軸を少しずつ短くすることです。

1年前なら、多くの人が変化を思い出せます。
そして、半年、3か月、1週間と解像度を上げると、
「お客様に一歩踏み出した。」
「30点の企画を出した。」
「初めて自分から相談した。」
そんな小さな前進が見えてきます。

しかし、人は、改めて誰からか問われなければ、過去のことは思い出さないものなのです。


そして、段々と変化が起きました。
部下からの相談が変わったのです。

以前は、「どうしたらいいですか?」だった相談が、「ここまで考えました。」に変わりました。

完成した答えを待つのではなく、途中の仮説を持ってくるようになりました。

「ちょっと試してみました。」という報告が増えました。30点で始まるアイデアが増えました。失敗談も自然に共有されるようになりました。

すぐに目覚ましい成果が出ている訳ではありません。
社内でも、決して暖かい言葉をかけられるばかりではありません。

それでも、そのチームは非常にモチベーション高く、「楽しそうに」仕事をしていると評判です。
活動量が多く、社員意識調査でも非常に良い数字が出ています。

「自分たちは前に進んでいる。」
その実感を、チームが持てるようになったからなのです。


4.正論を「現場の前進」に翻訳するために

会社では成果が求められます。だから、成果を見ることは必要です。これは紛れもない正論です。

でも、毎日の対話まで「できていないこと」だけになってしまうと、人は少しずつ自信を失っていきます。

「まだ足りない。」
「もっと頑張らなければ。」
「もう少し整理してから話そう。」
そうして、前向きに動けなくなっていきます。

さらに、自分の力で出来ることはもう無い、と思ったとき、人は他責思考になっていきます。

だから私は、未来を考える前に、一度、後ろを振り返る時間が必要なのだと思っています。

「ここまで、何が変わった?」
「何ができるようになった?」
「この1週間で、何が前に進んだ?」
その問いは、自分を甘やかすための問いではありません。

変化を言葉にする問いであり、
前進を見えるようにする問いです。

そして、「自分たちは変われる」という実感を取り戻す問いなのです。


5.未来は、「過去の前進を実感すること」から始まる

このシリーズは、「なぜ、誠実な人ほど止まるのか。」という問いから始まりました。

見えてきたのは、とてもシンプルな事実です。

人は、未来を信じられるようになってから動くのではなく、「ここまで来られた」という実感があるから、次の一歩を踏み出せるのです。

私は、この考え方を「ゴールシーク」ではなく、「プログレスシーク」と呼んでいます。

だから管理職の大事な仕事は、
「前はできなかったよね。」
「でも、今回はできたよね。」
その前進を、一緒に可視化していくことです。

現場を動かすのは、高い目標でも、美しいミッション・ビジョン・バリューでもありません。

一件のお客さま訪問。
30点から始まる企画書。
「分かりません」と言えたこと。

成果としては小さくても、その一歩が積み重なった先にこそ、組織変革は起こるのです。

だから、次の1on1では、未来の話をする前に、一つだけ聞いてみてください。

「この1年で、できるようになったことはありますか?」

未来は、いつも過去の前進から始るからです。


(参考)本記事は「なぜ、誠実な人ほど止まるのか―変革停滞論を考える」というマガジンの8話となります。

次回、このシリーズでお伝えしてきた内容を支える理論や考え方を整理した補足編をお伝えして、このマガジンをひとまず一区切りとする予定です。

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