【7】弱みを見せられる組織は、なぜ強いのか―JTC管理職が越境して知った、未来志向の組織で交わされる"10の言葉"
1.「分かりません」が言えない理由
「すみません。分かりません。」
その一言が、なかなか言えないことはないでしょうか。
途中までしかできていない資料を見せられない。
会議で分からないことがあっても、「こんなことを聞いたら、どう思われるだろう」と考えてしまう。
私自身、そんなことを何度も繰り返してきました。
人に相談するなら、ある程度は自分で考えるべきだ。
30点の資料を見せるくらいなら、80点まで仕上げたい。
当時は、それが誠実な仕事だと思っていました。
それは今でも間違った考えではないと思いますが、正解のない仕事では、その誠実さが自分を止めてしまうことがあります。
振り返ってみると、本当に怖かったのは、失敗そのものではなかったのかもしれません。
「そんなことも知らないの?」と思われること。
「考えが浅い」と思われること。
つまり、恥をかくことです。
真面目であればあるほど、ちゃんとした自分でいたい。
期待されている人ほど、期待を裏切りたくない。
だから、分からないと言えない。
途中で見せられない。
失敗したことを素直に話せない。
そんな小さな躊躇が積み重なって、いつの間にか仕事が前に進まなくなることがあります。
2.「分からない」を楽しめる組織
そんな仕事の「普通」が、まったく違う場所がありました。
ある大企業の管理職が、会社の出資先であるベンチャー企業へ出向することになりました。目的は、新規事業を学ぶことでした。
意思決定の速さや、顧客との向き合い方。仮説検証の方法。
大企業とは違う環境に身を置くことで、新しい仕事の進め方を学ぶというミッションを背負っての出向でした。
ところが、その人が最も衝撃を受けたのは、新規事業のつくり方以上に、
そこで働く人たちが、失敗もオープンに話しており、そしてどこか楽しそうだったことです。
ある日、副社長が顧客訪問から帰ってくるなり、全社員向けのSlackに投稿しました。
「今日の商談、多分失注しました!こういう反応が返ってくると思っていたのに全然違った。」
責任者が、自分の失敗を全社員に公開する。
それだけでも驚きます。
でも、もっと驚いたのは、その後でした。
誰かが、「なるほど、提案先からそういう反応があったのは新しいパターンですね。」と返す。
別の誰かが、「だったら、次はこうしてみませんか。」と提案する。
社長からもすぐに「ドンマイ!振り返りして次行こう。」という反応がありました。
責める人や、言い訳を求める人もいない。
失敗話でありながら、なぜか会話が前へ進んでいく。
そして、どこか楽しそうなのです。
別の日には、会議の途中で誰かが素朴に言います。
「すみません。これ、私の頭では全く理解できません。」
すると、
「確かに、そこ顧客目線で考えても分かりづらいかもね。」
「ちょっと、一緒に整理手伝ってもらっていい?」
と、ごく普通に会話が続いていきます。
「そんなことも知らないの?」とはならず、
分からないことが、新しい対話の入り口になっていきます。
その管理職は、こういった瞬間に、何度も思ったそうです。
「なんで、この人たちは仕事が楽しそうなんだろう。」
3.それは「失敗を恐れず挑戦できる組織」ではなかった
最初は、ベンチャーだから挑戦する人が集まっているのだ、と考えていました。
失敗を恐れず、変化が好きで、リスクを取れる人。
そんな人たちが集まっているからなのだろう、と。
でも、しばらく見ていると、少し違うのではないかと思うようになりました。
彼らが楽しんでいたのは、挑戦そのものではなく、
「前に進めそうな新しい発見」を楽しんでいたのです。
仮説が当ったときに「やっぱりそうだったんだ。」と喜ぶだけでなく、
仮説が外れても、「なるほど。実はこうなのかもしれない。」と、新たな仮説が生まれたことを面白い、と思う。
誰かが素朴な疑問を口にすれば、「それ、面白いね。」と対話が始まる。
失敗が起きても、「誰が悪かったのか。」ではなく、「何が分かったのか。」に話が向かっていく。
この組織は、一人ひとりが挑戦的というよりは、真面目な人の良さを最大限活かしている組織に見えました。
もちろん、失敗しても構わないという話ではありません。
成果はシビアで、掲げている目標はチャレンジングです。
上位職者には業績のプレッシャーもあるし、実際に給与にも反映されるでしょう。
しかし、彼らは、このやり方こそが、不確実性の高い環境で少しでも成功確率を高める方法だと、日々の仕事を通じて知っているように見えました。
だから、失敗が「自分の評価を下げる出来事」だけではなく、
「次の一歩を見つける出来事」として認識される。
挑戦を称賛する文化というより、前進を喜ぶ文化。
この環境でこそ、人は特別な勇気を振り絞らなくても、また次を試せる。
そして、それが成果につながっていく。そんな文化なのです。
4.動き続ける組織の日常的な「問いかけ」
その管理職は、研修でマネジメントや組織論などに触れることもあり、
「これが心理的安全性の高い職場か」と感じたそうです。
でも、実際にその職場に入ってみて気づいたことがありました。
「知っている」ことと、それが職場の普通になっていることは、まったく違う。
そこでは誰も、「今日は心理的安全性を高めよう。」とは言いませんし、難しい理論を語る訳でもありません。
ただ、日々の仕事の中で、
「何が引っ掛かってる?」
「30点くらいの生煮えでも見せて。」
「まず一週間だけ試そう。」
「何が分かった?」
「次は何を試してみたい?」
そんな言葉が、ごく自然に交わされていました。
そして、そういった言葉を、積極的に上位職者が使っているのです。
私はこの話を聞きながら、自分がこれまで見てきた新規事業の現場や、動き続ける人たち、そして動ける人を育てる管理職の姿を思い返しました。
すると、そこにも共通するものがありました。
それは、「前に進んでいる」と実感できる「瞬間」を大事にしていることです。
①違和感を、消さない。
②まだ曖昧な考えを、一緒に育てる。
③最初から大きな成果を求めず、小さく試す。
④うまくいかなかったときには、そこから得た学びを見る。
⑤そして、また次の一歩を選ぶ。
そして、その一つひとつの瞬間に、次の行動を促す問いかけがありました。
私はこれを、前回記事でお話しした誠実前進サイクルの各ステップ毎に「未来志向の組織で交わされる10の言葉」として整理しました。

意識しなくても、これらの言葉が日常の中で繰り返される組織が、真面目な人が、真面目さを捨てなくても前に進める組織になる。
数々の組織を観察する中で、私はそう確信しました。
5.組織は、半径5メートルから変わり始める
では、どうすれば自分の組織の「普通」を変えられるのでしょうか。
普通を変える。つまりは組織の風土を変えるということです。
そう考えると、理念や制度、評価の仕組みのような、自分一人では変えられない大きなものに思えます。
ただ、今回見てきたような、日々の小さな反応こそが、その組織の「普通」をつくっています。
特に管理職には、自分が思っている以上に大きな影響力が、本人の「半径5メートルの範囲」にあります。
評価制度や人事制度をすぐに変えることはできなくても、明日の1on1で投げかける一つの問いは変えられます。
その人がどう反応するか。何を面白がるか。何を問いかけるか。
それによって、組織の「普通」は少しずつ変わります。
真面目な人が、真面目なまま、また次の一歩を踏み出せる。
そんな「普通」は、明日の一言からつくり始めることができるのです。
(参考)本記事は「なぜ、誠実な人ほど止まるのか―変革停滞論を考える」というマガジンの7話となります。
