第2編|正解を出せる人ほど、動けなくなる瞬間――なぜ「優秀な人材」から新規事業は生まれないのか
新規事業の現場で感じる違和感
新規事業の現場で、
何度も感じてきた違和感があります。
それは、
議論の質が高く、正論が揃い、
誰も間違ったことを言っていない場面ほど、
意思決定が止まってしまうという感覚です。
この違和感は、
事業開発に限った話ではありません。
DX、組織改革、人材育成——
企業が「何かを変えよう」とする場面で、
同じように顔を出します。
①|止まるとき、現場では何が起きているのか
こうした場面では、
決まって似た言葉が並びます。
「検証条件がまだ足りない」
「もう少し情報を集めてから判断したい」
「失敗した場合の説明が難しい」
どれも、正しい指摘です。
慎重さとして、むしろ評価される判断でしょう。
しかし、
この「正しさ」が積み重なるほど、
決断は少しずつ先送りされていきます。
気づいたときには、
「やらないこと」が、最も安全な選択肢になっている。
企業は、この瞬間に静かに止まります。
②|これは能力の問題ではない
ここで強調したいのは、
これは誰かの能力不足や意欲の欠如の話ではない、
という点です。
論理的に考えられる
過去事例をよく知っている
組織の期待を理解している
こうした「優秀さ」を備えた人ほど、
無意識のうちに「外してはいけない判断」を選び続ける構造に置かれます。
その結果、生まれるのは、
正解は出せるが、
仮説を動かす経験を持たない人材です。
③|変化は「正解」からは生まれない
変化の初期段階で必要なのは、
完成された正解
ではなく動かしながら修正できる仮説
です。
しかし多くの組織では、
仮説よりも説明
試行よりも合意
行動よりも再現性
が優先されます。
このとき、
優秀な人材ほど組織に適応的に振る舞い、
「失敗しない判断」を積み重ねていく。
結果として、
誰も失敗していないのに、
変化だけが起きない、という状況が生まれます。
④|「事業が生まれない」は、変われない企業の症状
私自身、
事業づくりと人材・組織の両方に関わる中で、
この構造を何度も目にしてきました。
そして次の仮説に行き着きました。
事業が生まれないのは、
意思や能力が足りないからではない。
変化を生む経験が、
人材育成や意思決定の中に組み込まれていないからではないか。
「事業が生まれない」という現象は、
企業が変われなくなっていることの、
最も分かりやすい症状なのだと思います。
結び|年末に残したい問い
年末は、
少し立ち止まって考えられる時間でもあります。
なぜ、正しい判断を積み重ねているのに前に進まないのか
なぜ、優秀な人材が揃うほど、挑戦が難しくなるのか
この問いは、誰かを責めるためのものでも、責任の所在を探すものでもありません。
組織の設計そのものを問い直すための問いです。
この違和感を起点に、
これから言葉にしていきます。
