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31【ジジとババと、みなさまと私】ジジが帰ってくる日|1月4日


はじまり、はじまり。


1月4日。父が帰ってくる日だ。
朝10時にショートステイ先に迎えに行くことになっている。

父と歩行器(コロコロ)を乗せられるように、車を片付けた。後部座席の荷物も、どかして準備完了。
家族には「お昼ごろにはババの家にみんな集まってね」と伝えて家を出た。

ショートステイ先に着いたら、父は玄関の近くでコロコロと一緒に待っていた。もう準備万端だ。
職員さんに鍵を開けてもらい「行ってらっしゃい」と見送られて外に出る。

コロコロを車の近くに寄せて、父が自分で車のヘッドレストの棒を持ちながら体を移動させるのを見守る。
病院から帰ってきたときより、ちょっとスムーズに動くことができている。ありがたいことだ。

コロコロを車の後ろに積んで出発した。

動き出した車の中で父がおもむろに話し出した。
「今日なぁ、みんな来るんだろ」
「そうだよ。うちも弟の家も、みんな来るよ」

すると父が、
「ほだろ、俺な、挨拶せなかん」


……はい?挨拶?

正直、私には、父という人間が挨拶するとか、自分の気持ちを言葉にするとか、そういうイメージがゼロだ。人前で話さないというか、話せない人なんだと子どものころから思っていた。
だから、返答をすべて「うるせえ」で返すのだと自分の中で理由付けをしていた。
そうでなければ、普通の家族の会話ができない状況が理解できなかった。
本当は、近所のお姉さんとおじさんのように、私も父と会話がしたかったんだと思う。

そう言えば、結婚式の挨拶……記憶がない。



その父が、80歳を過ぎて自分から
「挨拶せなかん」と言っている。びっくりだ。

と思っていたら、そのまま車の中で練習を始めた。

ジジ、練習中

「今日は俺のために、みんな集まってくれてありがとう」

……いやいや、最初から面白い。

今日の集まりは、父が一時帰宅する日に状況確認をしつつ、みんなで正月に集まりましょうという企画ではあった。
「俺のため」かと言われると、こちらサイドのためでもあったが、まぁ、結果的にそうか?と思いながら、黙って聞く。

ショートステイ先で考えてきたのかなぁ。
思っていたよりずっとスムーズに、話している。

運転しながら聞いていたら、ちょっと涙が出そうになった。

ああ、この人、ちゃんと考えてる人だったんだなと思った。
なら、もっと早く披露してくれればよかったのに。

母と私の間で、口を出す隙間はなくなってしまったのか。話すのをあきらめたのか。

これは、スピーチの内容での涙なのか、
それともモヤモヤした感情の涙なのか。
たぶん、両方だ。

……運転中ですよ。これ以上は危険だ。

涙を拭きながら、私は言った。
あんまりにもよかったから言った。

「わかった、じゃあ私が振るからね。ちゃんとみんなの前で喋ってよ」

父はうなずいた。
この日を父も、楽しみにしていたんだな。

まだ、家で暮らすことはできないけれど、今日が、みんなにとって、父にとって楽しいひとときになってよかった
✨✨✨
と願って、車を走らせた。


今日も、ジジとババと、みなさまと私の一日。


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MISUZ.


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