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超再生受信機が走らせた玩具

1990年代27.145 / 40.685 / 49.860MHzトイラジコンの民俗学


1990年代の安価なトイラジコンは、今日の2.4GHzデジタルRCとはまったく違う性格を持っていた。固定周波数、単純な符号列、そして多くの場合、超再生式受信機によって動いていたからである。

それは高精度な通信装置ではなかった。むしろ、空中のざわめきから命令を拾い上げる玩具だった。

本稿では、TX-2B/RX-2B型の制御ICを参照しつつ、1990年代の27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzを中心とするトイラジコンを、子供の遊び、混信経験、輸出玩具産業、そして超再生受信機の民俗学として読み解く。


1. 玩具トランシーバからトイラジコンへ

27MHzや49MHzの玩具文化を考えるうえで、玩具トランシーバの存在は重要である。

玩具トランシーバでは、超再生受信機は雑音まじりの「声」を拾う装置だった。少ない部品で構成され、感度は高いが選択度は甘く、ノイズも多い。それでも子供にとっては、離れた相手の声が聞こえること自体が大きな驚きであった。

この玩具トランシーバの系譜は、トイラジコンにおいて別の形で生き残った。玩具トランシーバでは、超再生受信機は声を拾った。トイラジコンでは、それが命令を拾う耳になったのである。[5]

玩具トランシーバ:
  超再生受信機
  ↓
  雑音まじりの声
  ↓
  「遠くの相手と話せた」

トイラジコン:
  超再生受信機
  ↓
  雑音まじりの符号列
  ↓
  「遠くの車が動いた」

つまり、トイラジコンとは、玩具トランシーバの超再生文化が、音声通信から機械制御へ変形した姿でもあった。

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2. 超再生受信機という安価な耳

1990年代のトイラジコンを考えるうえで、受信機が超再生式であったことは決定的である。

超再生受信機は、発振寸前、あるいは発振可能な状態に置いた回路を周期的に抑え込み、微弱な電波を大きな状態変化として取り出す方式である。少ない部品で高い実効感度を得やすく、安価な玩具には都合がよかった。

しかし、その代償も大きい。

超再生受信機の特徴:
  部品点数が少ない
  安価
  感度を稼ぎやすい
  選択度が甘い
  ノイズが多い
  受信機自身の発振成分・クエンチノイズをアンテナから漏らしている
  電池電圧やアンテナ状態に影響されやすい

このため、トイラジコンの受信機は、静かに命令を待つ装置ではなかった。

それは、空中のノイズを聞き、自分自身も発振しかけ、送信機からの搬送波によって状態を乱され、その揺らぎの中から信号を拾う装置だった。

空中のノイズを聞く
↓
自分でも発振しかける
↓
送信機の搬送波が来る
↓
発振状態やノイズの様子が変わる
↓
その変化を符号信号として取り出す
↓
後段ICが命令として読む

さらに、超再生受信機は受信しているだけの静かな装置ではない。発振寸前、あるいは発振状態をクエンチで周期的に断続させるため、動作中には受信機内部の発振成分やクエンチノイズがアンテナから外へ漏れている。

つまり、超再生受信機は「ざわめく耳」であると同時に、周囲へざわめきを放射する耳でもあった。

ここで見落としてはならないのは、超再生受信機がASK/OOK的な信号の受信と相性がよかったことである。

トイラジコンの送信信号は、複雑な変調方式ではなく、搬送波の有無や振幅変化によって符号列を伝えるASK、あるいはOOKに近い単純な方式だった。超再生受信機は、周波数を精密に選び分けたり、複雑な変調を忠実に復調したりするのは得意ではない。しかし、搬送波が「来た/来ない」、あるいは「強くなった/弱くなった」という変化を拾う用途には向いていた。

TX-2B:
  操作ボタンを符号列にする
  ↓
RF送信部:
  搬送波をON/OFFまたは振幅変調する
  ↓
超再生受信機:
  搬送波の有無・強弱を拾う
  ↓
RX-2B:
  パルス列として読み、命令に戻す

つまり、超再生受信機は単に「安いが不安定な受信機」だったのではない。ASK/OOK的な単純な命令信号を拾う限りでは、非常に都合のよい受信方式だったのである。

アンテナを伸ばすと届く。近づくと効く。電池が弱いと曲がらない。これらは単なる欠陥ではない。超再生受信機という「ざわめく耳」が、子供の遊び場に露出した結果である。


3. TX-2B/RX-2B型ICと命令文法

TX-2B/RX-2Bは、トイラジコン用の送受信制御ICとして知られる。データシートでは、リモートコントロールカー用のCMOS LSIペアであり、前進、後退、右、左、ターボの5機能を制御するものと説明されている。[1]

ここで重要なのは、RX-2Bが「無線受信機そのもの」ではないことだ。RX-2BはSI入力に入った符号信号を読むデコーダICであり、その前段にはアンテナと超再生RF受信部が存在する。

送信機:
  操作ボタン
  ↓
  TX-2B
  ↓
  RF発振・変調回路
  ↓
  アンテナ

受信機:
  アンテナ
  ↓
  超再生RF受信部
  ↓
  RX-2B
  ↓
  モータードライバ
  ↓
  モーター・ステアリング

つまり、TX-2B/RX-2B型トイラジコンとは、超再生RF受信部、コード式デコーダIC、簡素なモータードライバによって成立する玩具である。

TX-2B/RX-2B型ICは、前進、後退、左、右、ターボといった命令を、玩具における行動文法として固定した。

前進せよ
後退せよ
左へ曲がれ
右へ曲がれ
速く走れ

子供は連続的な比例制御をしていたのではない。命令を押し、車体がそれに応じて動くという、離散的な操作をしていた。

その意味で、トイラジコンの操作は「滑らかな操縦」というより、ボタンによる命令文の送出に近い。


4. トーン式からコード式へ

1980年代的なトーン式、あるいはより単純な周波数・デューティ判定式のトイラジコンでは、超再生受信機が拾った信号を、比較的単純なトーンやパルスとして判定していた。

80年代的トーン式:
  超再生受信機
  ↓
  トーン・周波数・デューティの判定
  ↓
  1〜数個の動作

この方式では、回路は単純で済む。しかし、超再生受信機のノイズや混信を命令として誤認しやすい。機能数も限られる。

これに対し、1990年代に普及したTX-2B/RX-2B型の構成では、受信部そのものは相変わらず超再生式でありながら、その後段でスタートコードやファンクションコードを読むようになった。TX-2B/RX-2Bのデータシートでは、W2がスタートコード、W1がファンクションコードに使われ、Forward、Backward、Left、Right、Turbo、およびForward & LeftやForward & Turboのような組み合わせが定義されている。[1]

90年代的コード式:
  超再生受信機
  ↓
  ASK/OOK的な符号列の抽出
  ↓
  スタートコード・ファンクションコード判定
  ↓
  前後進・左右・ターボ

つまり、受信の耳は荒いままだが、後段の読み取りが賢くなったのである。

この変化によって、誤動作は減り、ファンクションは増えた。前進・後退を1チャンネル、左右操舵をもう1チャンネル、そこにターボやライトなどの追加機能を載せることで、玩具価格帯でも疑似的な2CH+1ファンクションが成立するようになった。

受信方式:
  超再生のまま

命令判定:
  トーン式からコード式へ

結果:
  安価さと不安定さを残しながら、
  操作体系だけが豊かになった

90年代トイラジコンの核心は、次のように言える。

受信の耳は超再生のまま、命令の文法だけが高度化した。

ただし、これは超再生受信機が無理にデジタル化されたという意味ではない。ASK/OOK的な単純な信号を拾うという点では、むしろ超再生式の性格とよく噛み合っていた。


5. 制度史と産地史:27.145 / 40.685 / 49.860MHzへ

ここで注意しなければならないのは、27MHz、40MHz、49MHzを同じ制度のものとして扱ってはいけない、という点である。

1986年、郵政省は一般微弱無線の基準を改めた。「3メートルで500μV/m」という測定可能な新基準が導入され、玩具トランシーバのような一般微弱無線機器は大きな影響を受けた。従来型の玩具トランシーバは、この基準のもとでは従来の到達距離や遊び方を維持しにくくなり、やがて幼児用のごく短距離モデルなどを除いて、市場から姿を消していった。

しかし、国内のラジコン用発振器は、これとは別の枠で扱われていた。電波法施行規則第6条第1項第2号の枠であり、昭和32年郵政省告示第708号によって、免許を要しない無線局の用途、電波の型式、周波数が定められていた。[2]

RCKは、ラジコン用発振器の電界強度について、電波法施行規則第6条第1項第2号で規定され、500mで200μV/m以下とされること、さらに郵政省告示第708号によって用途・電波型式・周波数が定められることを説明している。[2]

日本国内向け:
  27MHz / 40MHz
  ↓
  電波法施行規則 第6条第1項第2号
  ↓
  昭和32年郵政省告示第708号
  ↓
  ラジコン用発振器

一方、49MHzは日本国内ラジコン制度の中心ではない。49MHzは、米国や英国向けの輸出玩具と結びついていた。米国FCC Part 15には49.82〜49.90MHz帯の規定があり、英国でも玩具ラジコンの周波数として49MHzが扱われていた。[3][4]

1970年代、米国ではCB無線の混雑を受けて制度改革が進んだ。FCCは1976年に、CB無線を従来の23チャンネルから40チャンネルへ拡張することを発表し、1977年1月1日から新しい40チャンネル体制が実施された。[7]

このCB無線改革以降、玩具向けの単純なラジコンでは、輸出市場ごとに代表的な周波数が次のように落ち着いていった。

27.145MHz   日本 / 欧州 / 米国向け
40.685MHz   日本 / 欧州向け
49.860MHz   米国向け

27.145MHzは、日欧米にまたがる玩具RCの代表周波数として現れた。FCC提出資料にも、27.145MHz単一周波数で動作する玩具RC送信機の例が確認できる。[8]

40.685MHzは、日本・欧州向けのもう一つの代表周波数として用いられた。日本では27MHz帯および40MHz帯がラジコン用発振器の枠に置かれ、40MHz帯はラジコン用の重要な周波数帯として整備されていった。[2][6]

49.860MHzは、米国向け玩具RCの代表周波数として現れた。FCC提出資料にも、49.860MHz単一周波数で動作する玩具RC送信機の例が確認できる。[9]

したがって、1990年代のトイラジコンにおける「27MHz」「40MHz」「49MHz」という表示は、単に広い帯域名を示すだけではなかった。実際の輸出玩具の世界では、多くの場合、27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzという代表周波数に収束していたと考えられる。

27.145MHz:
  日本 / 欧州 / 米国向け

40.685MHz:
  日本 / 欧州向け

49.860MHz:
  米国向け

ここで、産地の問題も重なる。

1970年代までの日本は、玩具の有力な産出国であり、輸出国でもあった。戦後の日本玩具産業は、中小工場群に支えられ、輸出産業として成長していた。[10]

しかし、1990年代のトイラジコンを「日本製玩具」としてだけ見ることはできない。1980年代以降、低価格玩具は生産拠点を海外へ移していった。バンダイは1980年代に中国生産へ踏み出しており、背景には日本国内生産コストの上昇、香港・台湾などの玩具メーカーとの競争、委託生産の広がりがあった。[11]

この流れは玩具産業だけに限らない。1985年のプラザ合意後の円高を背景に、日本企業全体で生産拠点の海外移転が進み、1990年代には産業空洞化が大きな論点となっていった。[12]

したがって、1990年代トイラジコンの実体は、しばしば次のようなものだった。

ブランド:
  日本

企画・設計:
  日本企業、または日本市場向け仕様

生産:
  中国、香港、台湾、東南アジア

販売先:
  日本、欧州、米国

ここで重要なのは、トイラジコンの周波数が単に国内制度だけで決まったのではなく、輸出先市場と海外生産の組み合わせの中で決まっていたことである。27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzという代表周波数は、国内玩具メーカーの技術史であると同時に、海外工場で作られ、各国市場へ振り分けられた輸出玩具の仕様でもあった。

この変化を象徴するメーカーの一つが、株式会社ニッコーである。

NIKKOは、トイグレードRCカーの代表的ブランドの一つであり、国内市場だけでなく欧米市場でも存在感を持っていた。しかし、2014年、Toy Stateは株式会社ニッコーの日本および香港における連結事業を買収し、NIKKO製品の世界的権利を確保した。同時に、欧州部門であるNikko Entertainment BVも買収された。[13]

その後、Toy State自体も2018年に取引停止へ至ったと報じられている。[14] だが、NIKKOブランドはそこで消滅したわけではない。旧Toy State関係者らによってNikko Toys Limitedが立ち上げられ、NIKKO、Road Rippers、Machine Makerなどのブランドが引き継がれた。[15]

現在のNikko Toys公式サイトでは、グローバル拠点として香港のNIKKO TOYS LIMITED、欧州拠点としてオランダ・アムステルダムのNIKKO TOYS Europe B.V.が示されている。[16]

1970年代:
  日本は玩具の有力な産出国

1980〜90年代:
  日本ブランド、海外生産へ
  中国・香港・台湾・東南アジアへの生産移転

1990年代:
  27.145 / 40.685 / 49.860MHz仕様のトイラジコンが、
  市場別・輸出先別に作られる

2014年:
  株式会社ニッコーの日本・香港事業がToy Stateへ

2018年以降:
  Toy State失速後、NIKKOブランドはNikko Toys Limitedへ

現在:
  NIKKOは香港・欧州拠点のグローバル玩具ブランドとして存続

NIKKOの消息は、「日本のトイラジコンメーカーが消えた」という単純な話ではない。むしろ、日本発のトイラジコンブランドが、海外生産化、国際ブランド化、買収、再編を経て、ブランドだけがグローバル市場に残った例として見るべきである。


6. 27.145 / 40.685 / 49.860MHzという見えない遊び場

子供の目には、箱や車体に書かれた表示は「27MHz」「40MHz」「49MHz」程度に見えた。しかし、実際の玩具輸出の世界では、それぞれの市場に向けて代表的な周波数があった。

27.145MHz:
  日本 / 欧州 / 米国向け

40.685MHz:
  日本 / 欧州向け

49.860MHz:
  米国向け

この整理によって、27MHz、40MHz、49MHzは単なる三つの数字ではなく、市場ごとの輸出仕様を示すものになる。

27.145MHzは、日欧米にまたがる汎用的な玩具RC周波数として使われた。
40.685MHzは、日本・欧州向けのもう一つの選択肢だった。
49.860MHzは、米国向け玩具RCの代表的な周波数として現れた。

日本国内向け:
  27.145MHz
  40.685MHz

欧州向け:
  27.145MHz
  40.685MHz

米国向け:
  27.145MHz
  49.860MHz

同じ周波数の車は、同じ送信機の声を聞いてしまう。違う周波数の車なら、同時に遊べる可能性がある。

ただし、送信側は水晶発振であり、27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzといった搬送波そのものは比較的安定していた。揺らいでいたのは主に受信側である。超再生受信機の同調の甘さ、広い受信帯域、アンテナや電池電圧への敏感さによって、周波数の境界は遊び場では曖昧に感じられた。

だからこそ、周波数は単なる数値ではなく、遊び場で経験されるものだった。

「同じ27MHzだから一緒に動く」
「こっちは40MHzだから大丈夫」
「米国向けは49MHzだった」
「なんか違うリモコンでも動く」
「近くにいると混ざる」

ここでは、電波という見えないものが、車体の動きによって可視化される。

子供は電波を見ない。しかし、ラジコンが勝手に動くことで、電波の存在を知る。


7. 競走に向かないラジコン

1990年代のトイラジコンは、しばしばスポーツカー、レーシングカー、F1カー、ラリーカーの姿をして売られていた。パッケージには「レーシング」「ターボ」「フルファンクション」といった語が並び、複数台で競走する遊びを想像させた。

しかし、実際の低価格トイラジコンは、競走に適した無線システムを持っていなかった。

国内向けや欧州向けの玩具では、周波数表示は多くの場合、27MHzと40MHzの二択として現れた。代表周波数で言えば、27.145MHzと40.685MHzである。この場合、同時に安定して走らせられるのは、基本的に27.145MHzの1台と40.685MHzの1台である。

日本・欧州向け:
  27.145MHz機:1台
  40.685MHz機:1台

→ 2台競走はできる
→ 3台目からは混信・同時動作・ノーコンの危険が出る

米国向けでは、27.145MHzと49.860MHzの組み合わせが代表的だった。

米国向け:
  27.145MHz機:1台
  49.860MHz機:1台

→ 2台競走はできる
→ 3台目からは混信・同時動作・ノーコンの危険が出る

もちろん、ホビーRCの世界には、より細かい周波数チャンネル管理やクリスタル交換、周波数札の文化があった。しかし、安価なトイラジコンの子供文化では、箱に書かれた「27MHz」「40MHz」「49MHz」が、事実上の区分だった。

さらに、受信機が超再生式だったことが効く。

超再生受信機は安くて感度を稼ぎやすいが、選択度は高くない。水晶発振の送信機が決まった周波数で電波を出していても、受信側の同調が広く、近くの強い送信機や外来波に影響されやすかった。つまり、複数台が同時に送信される競走環境には向かなかった。

さらに、超再生式では受信機同士の近接も問題になった。超再生受信機は、受信回路内部で発振とクエンチを繰り返しているため、動作中にはその発振成分やクエンチノイズをアンテナから外へ漏らしている。

そのため、複数台の車体が近くに並ぶと、送信機同士の混信だけでなく、車体側の受信機同士が互いに干渉し、本来の送信信号を読めなくなることがあった。

つまり、トイラジコンが多台数競走に向かなかった理由は、周波数の少なさだけではない。超再生受信機そのものが、近接した受信機にとって妨害源にもなったのである。

競走に向かなかった理由:

1. 周波数が少ない
   日本・欧州向け:27.145MHz / 40.685MHz
   米国向け:27.145MHz / 49.860MHz

2. 超再生受信機の選択度が甘い
   強い送信機・外来波に影響されやすい

3. 受信機同士も干渉する
   近接した車体の超再生ノイズで受信不能になる

ここに、トイラジコンの逆説がある。

トイラジコンは、競走玩具の顔をしていた。しかし、無線システムとしては競走に向かなかった。

ホビーRCの競走は、チャンネル管理、プロポ、受信機、サーボ、比例制御によって成立する。一方、トイラジコンの競走は、せいぜい兄弟や友人との2台勝負に留まることが多かった。

しかも、その2台勝負も安定しているとは限らない。超再生受信機の広い耳は、隣の送信機、電池の弱り、アンテナの向き、距離、そして近接した別の受信機の超再生ノイズによって簡単に揺らぐ。

したがって、トイラジコンにおける競走とは、厳密なレースというより、混信しない範囲で偶然成立する遊びだった。

トイラジコンは、レーシングカーの形をした、競走に向かない無線玩具だったのである。


8. 混信・ノーコン・到達距離の民俗学

現代の2.4GHzラジコンでは、ペアリングやID管理によって、隣の送信機で動くことは少ない。しかし27.145MHz、40.685MHz、49.860MHz時代のトイラジコンでは、混信やノーコンはしばしば日常的な事件だった。

ここで注意すべきなのは、「混信」「ノーコン」「暴走」を同じ現象として扱わないことである。

TX-2B/RX-2B型のようなコード式制御では、単発のノイズや一瞬のビット乱れが、そのまま有効な命令になるとは限らない。スタートコードやファンクションコードが一定の形式を満たさなければ、デコーダはそれを命令として扱わない。そのため、多くの場合、単発の乱れは全速前進ではなく、無反応、停止、途切れ、一瞬のピクつきとして現れる。

単発ノイズ・一瞬のビット乱れ
  ↓
有効なコードとして成立しない
  ↓
無視される
  ↓
無反応・停止・ピクつき

一方、同じ周波数で、同じような符号体系を持つ別の送信機が近くにある場合は話が違う。これはノイズではなく、受信機から見れば有効な命令信号である。

同じ27.145MHzの別送信機
  ↓
有効なコード列を送る
  ↓
自分の車もそれを読む
  ↓
意図しない前進・後退・旋回が起こる

この場合、車は「誤ってノイズを命令にした」のではない。むしろ、別の送信機の命令を正しく読んでしまったのである。

27MHz帯では、混信の相手は必ずしも別のトイラジコンだけではなかった。当時は不法CB局、とりわけ高出力化された27MHz帯の不法無線局が多く、これらの電波によってラジコンが操縦不能になることもしばしばあった。

RCKも、27MHz帯は市民ラジオ、すなわちCBと共用であったため、ラジコン用無線局がCB設備から発射された電波による混信・妨害を受けるケースが多発したこと、さらに大電力の不法CBの横行による事故も増加したことを説明している。[6]

ただし、不法CB局の強い電波が入った場合も、それがそのまま前進コードに化けると考えるべきではない。むしろ、強い外来波によって超再生受信機が抑圧されたり、本来のASK/OOK的な信号を読めなくなったりすることで、停止、無反応、ノーコンとして現れる方が自然である。

強い不法CB電波
  ↓
超再生受信機が引っ張られる・抑圧される
  ↓
本来の送信機のコードが読めない
  ↓
停止・無反応・ノーコン

さらに、ノーコンの原因は送信機側だけではなかった。超再生受信機は動作中、内部の発振成分やクエンチノイズをアンテナから漏らしている。そのため、複数の車体が近接すると、一方の受信機から出た超再生ノイズを、もう一方の受信機が拾ってしまう。

これは、別送信機の有効コードを読んで動く混信とは異なる。受信機同士の相互干渉によって、本来のASK/OOK信号が読みにくくなるノーコンである。

子供の側から見える現象は単純だった。

走っていた車が急に止まる
送信機を押しても反応しない
近づくとまた動く
友達のリモコンで動く
同じ周波数の車が一緒に反応する
車体を近づけると動きが悪くなる

しかし、その背後では、いくつかの異なる現象が重なっていた。

同一周波数の別送信機:
  有効なコードを読んで動く

不法CBなど強い外来波:
  受信不能・停止・ノーコンになる

近接した別の車体:
  相手の超再生ノイズで受信不能になる

距離が遠い・電池が弱い:
  信号が読めず、途切れる・止まる

直前出力の保持:
  一瞬だけ前の動作が残る

駆動系の故障:
  命令と無関係にモーターが回ることがある

つまり、子供が「勝手に動いた」「急に止まった」「リモコンが効かない」と語る現象の中には、同一周波数混信、外来波による受信不能、受信機同士の相互干渉、出力保持、電源低下、駆動系異常が混在していた。

ここで重要なのは、コード式ICの導入によって、80年代的なトーン式よりも単発ノイズによる誤動作は減っていたことである。TX-2B/RX-2B型の制御は、超再生受信機の粗い耳の後段に、一定の文法を持ったデコーダを置いた。だから、一瞬の雑音がただちに命令になるわけではない。

しかし、受信の耳そのものは超再生式のままだった。
したがって、強い外来波、同一周波数の別送信機、近接した別受信機、弱電界、電池電圧の低下には弱かった。

この意味で、1990年代トイラジコンの不安定さは、「すぐ暴走する」という単純なものではない。むしろ、それは 有効な別信号を読んでしまう混信 と、本来の信号を読めなくなるノーコン のあいだで起きる、低価格無線玩具特有の揺らぎだった。


9. アンテナ、電池、身体で調整する玩具

27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzのトイラジコンでは、子供の身体がしばしば受信状態に介入した。

アンテナを伸ばす
送信機を車に向ける
車に近づく
しゃがむ
電池を替える
車体の向きを変える

これらは、単なる迷信的操作ではない。多くの場合、実際に受信状態や電源状態に影響していた。

超再生受信機は、アンテナ長、電源電圧、周囲の金属、人体、車体の向きに影響されやすい。そのため、子供は説明書を読まずとも、経験的に電波との関わり方を覚えていく。

伸ばすと届く
近づくと効く
電池を替えると強くなる
向きを変えると反応が変わる

これは、電子工学の知識ではなく、身体化された無線の知識である。

トイラジコンは、子供に電波を理論として教えたのではない。届いたり届かなかったりするものとして、身体に覚えさせた。


10. ターボボタンと1990年代的加速感

TX-2B/RX-2B型の操作体系において、ターボは特別な意味を持つ。

技術的には、ターボは追加のファンクションコードに過ぎない。TX-2B/RX-2Bのデータシートでも、Turbo単独、Forward & Turbo、Turbo & Forward & Left、Turbo & Forward & Rightなどのコードが定義されている。[1]

しかし、玩具文化としては、それ以上の意味を持つ。

普通に走る
↓
ターボを押す
↓
本気になる
↓
速い気がする
↓
勝つ、逃げる、ぶつかる

1990年代の「ターボ」という言葉は、自動車、ゲーム、パソコン、家電、玩具に広く存在していた。それは実際の過給器だけを指す語ではなく、「通常状態を超える」「一時的に強くなる」「速くなる」という感覚の記号だった。

トイラジコンのターボボタンも、この時代の加速感を小さな親指の操作に落とし込んだものだった。

ここで重要なのは、ターボが比例制御ではなく、追加命令として存在したことである。

子供はスロットルを細かく調整するのではない。「ターボを押す」ことで、車体に特別な状態を命じる。

ターボは、機能であると同時に、物語上の奥の手だった。


11. 結論

1990年代の27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzトイラジコンは、単なる安価な無線操縦玩具ではない。

それは、玩具トランシーバ以来の超再生式受信機の文化を受け継ぎながら、声ではなく命令を受信するようになった玩具である。

TX-2B/RX-2B型ICは、前進、後退、左、右、ターボという行動文法を与えた。トーン式に比べれば誤動作は減り、ファンクションは増えた。玩具価格帯でも、疑似的な2CH+1ファンクションの操作体系が可能になった。

そして、そのコード式制御は、ASK/OOK的な単純な搬送波の有無・強弱を利用するため、超再生受信機と相性がよかった。超再生受信機は、安価なトイラジコンを成立させるための粗雑な代用品ではなく、単純な命令信号を拾うには合理的な受信方式でもあった。

しかし、受信の耳は依然として超再生式だった。

そのため、同一周波数機による混信、不法CB局などによるノーコン、到達距離の揺らぎ、アンテナへの依存、電池電圧への敏感さは残り続けた。ただし、コード式制御では単発のノイズがそのまま爆走を生むわけではなく、多くの場合は停止、無反応、ピクつき、あるいは別送信機の有効コードへの反応として現れた。

さらに、超再生受信機は動作中に発振成分やクエンチノイズをアンテナから漏らしているため、車体同士が近接すると受信機同士が互いに干渉することもあった。トイラジコンが多台数競走に向かなかった理由は、周波数の少なさだけでなく、受信方式そのものにもあった。

また、この玩具を制度史として見るなら、27MHz、40MHz、49MHzは分けて扱う必要がある。27.145MHzと40.685MHzは、日本・欧州向けの玩具RCに深く関わる。一方、49.860MHzは米国FCC Part 15や低出力玩具無線文化に対応した、米国向け玩具RCの周波数として位置づけられる。

1990年代のトイラジコンは、27.145MHz、40.685MHz、49.860MHzという市場別の代表周波数に支えられていた。しかし、それは多台数競走を可能にする周波数体系ではなく、せいぜい二台の同時走行を想定した、低価格玩具としての妥協であった。

加えて、27MHz帯では不法CB局の影響も無視できなかった。子供の目には「急に止まった」「リモコンが効かなくなった」としか見えない現象の背後に、27MHz帯をめぐる混信、違法高出力局、共用波の問題が存在していた。

それはまた、「日本のトイラジコン」でありながら、1990年代にはすでに日本国内だけで作られていたわけではなかった。ブランドや企画は日本に残りつつ、実際の製造は中国、香港、台湾、東南アジアへ移り、周波数仕様も輸出先市場に合わせて振り分けられていた。

NIKKOの消息は、この変化を象徴している。1990年代のトイラジコンは、日本ブランドの玩具でありながら、すでに海外生産と輸出市場別仕様の中で作られていた。そして2000年代以降、そのブランド自体も国際的な買収と再編の中に組み込まれていった。

この不安定さと制度的分岐、受信機同士の干渉、そして産地の移動は、単なる周辺事情ではない。それは、トイラジコンがどの市場で、どの子供の手に届き、どのような電波経験を生んだかを決めていた。

1990年代のトイラジコンは、コード式ICによって文法を得た。しかし、その声を聞いていたのは、超再生受信機というざわめく耳だった。

ゆえに、本稿の結論は次のようにまとめられる。

1990年代の27.145 / 40.685 / 49.860MHzトイラジコンとは、超再生受信機がASK/OOK的な搬送波の有無から命令を拾い、TX-2B/RX-2B型のコード文法がそれを前後左右とターボの運動に翻訳することで成立した、子供のための無線機械であった。
27.145MHzは日欧米にまたがる代表周波数として、40.685MHzは日本・欧州向けの周波数として、49.860MHzは米国向けの周波数として、それぞれ子供たちの手に届いた。
そしてその玩具は、レーシングカーの形をしながら、超再生受信機と限られた周波数体系、さらに受信機自身が漏らす超再生ノイズによって、競走に向かないラジコンでもあった。
さらにそれは、日本ブランドを掲げながら、海外生産と国際再編の中で作られ、流通し、やがてブランドだけがグローバル市場に残っていく玩具でもあった。


注釈

[1] TX-2B/RX-2B datasheet, Hangzhou Silan Microelectronics.
https://www.talkingelectronics.com/projects/27MHz%20Transmitters/imagesP2/RX2Bdatasheet-5function.pdf

[2] RCK 一般財団法人 日本ラジコン電波安全協会「ラジコン用電波」
https://rck.or.jp/safety/sa_rcradiowaves.html

[3] Electronic Code of Federal Regulations, 47 CFR §15.235, Operation within the band 49.82–49.90 MHz.
https://www.ecfr.gov/current/title-47/chapter-I/subchapter-A/part-15/subpart-C/subject-group-ECFR2f2e5828339709e/section-15.235

[4] Ofcom, Radio-controlled models.
https://www.ofcom.org.uk/spectrum/radio-equipment/radio-controlled-models

[5] LoPRA Lab「玩具トランシーバの起源」
https://note.com/lopra_lab/n/nbae988ef3417

[6] RCK 一般財団法人 日本ラジコン電波安全協会「ラジコン用周波数」
https://rck.or.jp/safety/sa_rcfrequency.html

[7] United States International Trade Commission, Citizens Band (CB) Radio Transceivers, 1977.
https://www.usitc.gov/publications/docs/pubs/201/pub852.pdf

[8] FCC Report, 27.145MHz Transmitter Operational Description.
https://fcc.report/FCC-ID/piyb507304a2t/445449.pdf

[9] FCC Report, 49.860MHz Transmitter Operational Description.
https://fcc.report/FCC-ID/PIYH3623-05A4T/512869.pdf

[10] TOMY COMPANY, LTD. “A Ray of Light in a Wasteland: The Birth of Toy Town”
https://www.takaratomy.co.jp/english/company/csr/history4.html

[11] Journal of Japanese Trade & Industry, “Bandai: Making Toys in China,” 1989.
https://www.jef.or.jp/journal/pdf/going_8907.pdf

[12] 中野瑞彦「日本経済のグローバル化と産業空洞化」桃山学院大学総合研究所紀要 第38巻第3号
https://www.andrew.ac.jp/soken/assets/wr/sokenk189_2.pdf

[13] Toy State「Toy StateがニッコーとNikko Entertainment BVを買収」共同通信PRワイヤー, 2014年5月14日。
https://kyodonewsprwire.jp/release/201405140580

[14] Toy World Magazine, “More details emerge of Toy State demise,” 2018年9月10日。
https://toyworldmag.co.uk/more-details-emerge-of-toy-state-demise/

[15] Toy World Magazine, “Former Toy State senior management launch Nikko Toys Limited,” 2018年12月13日。
https://toyworldmag.co.uk/former-toy-state-senior-management-launch-nikko-toys-limited/

[16] NikkoToys Ltd. 公式サイト / Contact.
https://nikkotoys.com/
https://nikkotoys.com/contact/


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