見出し画像

ろうそく 【クリスマス百景】


ADVENT CALENDAR みわからすさん


(本文994文字 字下げ空白除く)

 これも小学生の頃。
「今年のクリスマスはケーキあるよ」母が私に言った。
「ほんま?!やったー」私は四畳半を走り周り歓喜を表現する。
「な、イチゴ、のってる?」
「のってる」
「ろうそく点けれる?」
「点けれる、つけれる」
 また一周する。
「お父ちゃんが買うてくるの?」
「そうや。なんかな、仕事場で安く買えるんで買ってくれたんや」
 
 ついにうちに丸い、初めから切ってない、なんか堅めのゼリーか果物かわからんやつじゃなく、本物のイチゴが上にのった真のクリスマスケーキがやってくる日がきたのだ。

「ところでな、あんたにちょっと頼みがあるねん」母が真剣な顔で言う。
「なに?」
「実はな、ケーキは買えるんやけどな、ローソクがないねん」
「えー、ろうそく点けれる言うたやん」
「いや、だからローソクを用意したらええねん」
「買うてくるの?」
「……ほれ、おかず買わんとあかんやろ……」
「え~、どうすんの」
「だからな、あんた、ちょっとな、お友達の家とか近所回ってな『ケーキのローソクが足らんから少し分けて』って言ってもらって集めてくれる?」
「ああ、それなら、N子ちゃんとこ、毎年自分でケーキ作るからろうそく買ってるとか言ってたわ。少しもらってくるわ」

 私はN子の家に行き事情を説明しろうそくを貰って帰ってきた。しかし母はこんなローソクじゃなくてと言う。なんで?  ケーキのろうそくやろ?

「あのな、お隣のおばあちゃんにな『ホトケさんのローソク分けてくれませんか』って言うておいで」
 私は嫌な予感がしたが仕方なくお隣に行った。
 あいにく小さいのが少なくてあげれないから、大きいので我慢してと言われて二本大きなろうそくを貰ってきた。
「そう、これこれ」母は上機嫌だった。「さあ、もっともろといで」

 父が帰ってきた。約束通りのクリスマスケーキ。しかもろうそくは付いている。私はなんだと思ったが、本物ケーキの嬉しさでそんなことはすぐに忘れた。

 そして世間がお正月の用意に忙しく、ウチも大掃除をして日が暮れる頃。母があちらこちらにろうそくを立て始める。
「お母ちゃん、何してるん」
「今日からうちは特別な儀式をするんよ」そう言い、もらい集めたろうそくに火を灯した。

 随分と後に気づいたのだが、あの時ウチは電気を止められていたのだと思った。しかしそれがケーキに化けていたのなら、両親はとても優しい人だと思いなおした。

 続く


みわからすさん、歩行者bさんの共同企画#いつきちゃんのアドベントカレンダーへの参加作品です。連作形式でお届けしています。


いいなと思ったら応援しよう!